弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

具体的日時を明らかにできない無断欠勤・遅刻・早退などの勤務不良等で従業員に懲戒処分を行えるのか?

1.解雇の場面では今まで不問に付されていたことが掘り起こされる

 解雇の効力を争うにあたっては、先ず、使用者側に解雇理由証明書の交付を求めることになります(労働基準法22条1項)。これによって、労働者側は、自分がどのようなことを理由に解雇されたのかを把握します。

 これに対し、使用者側から、今まで不問に付されていたことも含め、多数の問題行為を列挙されることがあります。これは、解雇理由証明書に記載しておかなかったことにより、後の訴訟で、裁判所から解雇理由として重視していなかったという心証を形成されることを危惧してのことだと思われます。

 しかし、このように事後的に掘り起こされた問題行為が、解雇の効力を判断するうえで、重要な意味合いを持ってくることは、あまりないように思われます。

 このことは、昨日ご紹介した大阪地判令3.2.15労働判例ジャーナル111-30 シナジー・コンサルティング事件の判示にも表れています。

2.シナジー・コンサルティング事件

 本件で被告になったのは、不動産の売買、交換、賃貸借及びその仲介等の事業を営む株式会社です。

 原告になったのは、被告の従業員の方です。上司に暴行を加えたことなどを理由に懲戒解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起しました。

 本件は、令和3年5月24日に被告会社が問題視している暴行事件が発生し、被告会社はその日のうちに原告に「上司に対し暴行を加え職場の職場の秩序、風紀を乱したこと」などを理由に同年6月30日付けで懲戒解雇することを通知しました。

 一連の事実経過からして、暴行が本質的な懲戒解雇事由と認識されていたことは明らかですが、原告から提起された訴訟手続では、暴行事件に加え、上司に連絡のない欠勤・遅刻・早退を繰り返すようになったことなどの勤務態度不良も、懲戒解雇事由として主張されました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、勤務態度不良が懲戒解雇事由になることを否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、原告の勤務態度等が、就業規則66条21号が規定する「その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があった場合」に当たると主張していると解されるので、これを前提に以下検討すると、d及びbは、被告の主張に沿う供述をしている。」

「これに対し、原告は、被告が管理するスケジュール表(カレンダー・・・)の書き込みを通じて被告が原告の行動を把握していた、体調不良で遅刻する際には被告に連絡している(平成30年5月8日午前9時10分の『LINE』・・・)などと主張して被告の主張を否認ないし争うとともに関係証拠を提出し、b及びdから出社が遅いと言われた事実があることは認めつつ出社時間に裁量があってbが午前10時までに出社することを求めたものの他の被告従業員と差別的扱いであったことから従わなくてもよい、遅刻に当たらないなどと供述している・・・。」 

「この点、本件雇用契約及び就業規則29条で原告の始業時刻は午前9時、終業時刻は午後6時と定められていて、bによれば会議のない日について午前10時始業としていたというのであるから・・・、会議のない日について被告が午前9時から午前10時の就労義務を免除していたと解されるものの、原告が述べる出社時間の裁量に労働契約上の根拠があるとは認められない。」

「もっとも、被告が、原告の出社時刻を容認できないとの認識で原告に対する指導を繰り返していたというのであれば、その前提として原告の勤怠を具体的に記録した上でその都度指導する取組みや賃金への反映がされるべきと考えられるが、被告は、そのような取組みをしておらず・・・、原告の無断欠勤・遅刻・早退の具体的日時等の詳細も、これに対応した指導日時・内容も明らかにできていないから、結局、被告が原告の勤務状況を容認していたとの評価を覆すことができない。

「また、被告が主張する報告懈怠や被告に隠れて利益を得ようとしていたことなどについても、原告の弁解を排斥して被告主張の事実を認めるに足りる証拠を提出できていない。」

そうすると、就業規則66条21号が規定する『その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があった場合』に当たる事実は認められない。

3.とってつけたような解雇事由はそれほど警戒する必要もない

 裁判所は、日時や詳細、指導履歴をを特定できない問題行為は、容認されていたものと評価できるとして、懲戒事由への該当性を否定しました。

 解雇理由証明書の交付を受けた時に沢山の行為が列挙されていると、不安に思われる方が少なくありません。しかし、上述のとおり、それまで問題視していなかった行為を、とってつけたように解雇理由として構成したところで、それが裁判の帰趨を決するような重要性を持ってくることは殆どありません。

 後付けの理由はそれほど警戒するポイントではないため、大部の書面が送られてきても、悲観的になる必要はありません。