弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

有給休暇の買取代金の法的性質

1.有給休暇の買い取り 労働者が使用者に有給休暇の買い取りを求めたとしても、これに応じる義務が使用者に生じるわけではありません。 しかし、実務上、退職日までに使い切ることができなかった有給休暇があるなどの場面で、労使間で有給休暇の買い取りが…

取締役就任にあたっての留意点-雇用契約終了の黙示的合意

1.取締役就任 従業員(労働者)と取締役とでは、地位の安定の度合いが全く異なります。 従業員の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となります(労働契約法16条)。 しかし、取締役などの会社役員は、…

労働者の供述による就労意思の認定-どこまでの積極性が必要なのか?

1.就労意思の認定 解雇無効の判断を勝ち取ったとしても、就労の意思が認定されないと、バックペイ(解雇無効の判断が出た時に、解雇の意思表示がなされた時点に遡って支払ってもらえる賃金のこと)を得られないことがあります。 そのことを十分に留意した…

「自由な意思」論の拡張-一側面では利益・他の側面では不利益となる労働条件の変更への適用可能性

1.「自由な意思」論 合意の効力は、勘違いをしていた、騙された、脅かされたなどの事情がない限り、否定されないのが原則です。 しかし、労働法の領域では、勘違い、騙された、脅かされたといった事情がなかったとしても、 「労働者の自由な意思に基づいて…

依頼人を裁判期日に出頭させることの適否(出頭が裁判官の心証に消極的に響いた事例)

1.裁判の期日への当事者の出頭 訴訟事件を弁護士に依頼すれば、尋問期日などの特別な場合を除き、当事者の方は裁判期日に出頭する必要はなくなります。訴訟代理人弁護士が代わりに出頭して手続を行うからです。 大抵の人にとって裁判はストレスになるよう…

大学教授の就労請求権

1.就労請求権 労働者には、一般に、特定の仕事をさせるように請求する権利(就労請求権)まで認められているわけではありません(東京高決昭33.8.2判例タイムズ83-74参照)。 しかし、これには例外があり、大学教授には就労請求権が認められる…

残業代請求の提訴前交渉-使用者側の迅速な対応を促す裁判例

1.残業代請求の提訴前交渉 訴訟を提起する前には、通常、事前交渉を行います。 こちら側の請求に相手方が素直に応じるのであれば、敢えて訴訟提起をする必要はありませんし、相手方が要求に応じてくれない場合でも、その理由が明らかになれば訴えの提起段…

新型コロナ 感染の危険を理由とする欠勤-賃金が支払われないことは自明なのだろうか

1.感染の危険を理由とする欠勤 ネット上に、 「『コロナが怖いなら休めばいい』上司が在宅勤務の申請を却下…そんなの許される?」 という記事が掲載されています。 https://www.bengo4.com/c_5/n_11083/ 記事は、 「相談者の会社では、コロナ感染対策のた…

地位確認を求めなかった事実は、慰謝料請求の中でどのように考慮されるのか?

1.違法解雇と慰謝料 違法な解雇を裁判所で争う時、労働者側が、 ① 地位確認 ② 解雇時に遡っての賃金請求 に加え、 ③ 精神的苦痛を被ったことによる慰謝料請求 をすることがあります。 しかし、解雇権の行使に違法性があると判断される場合でも、損害賠償請…

会社の同意のない退職には、退職金を支払う必要はない?(公序良俗と労契法7条)

1.存在感のない条文-労働契約法7条 労働契約法7条本文は、 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条…

公益通報(内部通報)のポイント-余計な資料は手元に置かない

1.公益通報(内部通報)と懲戒処分 公益通報(内部通報)と懲戒処分との関係は、実務上、しばしば問題になります。 公益通報者保護法で定義されている「公益通報」が行われたことを理由として、事業者が労働者を解雇することは禁止されています(公益通報…

不就労期間中の未払賃金請求-時間外手当(残業代)を考慮した請求が認められた事案

1.解雇後の不就労期間中の未払賃金請求 解雇が無効であった場合、解雇によって就労を拒否されていた期間に対応する賃金を請求することができます。 この遡って請求可能な「賃金」の範囲について、月給制における基本給部分が含まれることは特に問題ありま…

嘘は言い放題ではない-固定残業代の有効性が問題になった事案を題材に

1.民事訴訟で嘘は言い放題なのだろうか? 民事裁判は嘘を許容する手続ではありません。 証人が殊更に嘘を言えば偽証罪(刑法169条)は成立しますし、虚偽の陳述をした当事者は過料に処せられる場合があります(民事訴訟法209条)。 ただ、虚偽の陳述…

漫然と申立てた労働審判は本訴移行後の足枷となる

1.労働審判の代理人選任率 株式会社産労総合研究所が発行している判例集に「労働判例」というものがあります。 この「労働判例」という雑誌の最新号(2020.4/5 No.1217)に東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会の内容が掲載されています…

注目すべき最高裁補足意見 業務中の事故の労使間での損害の分担割合は、労:使=0:100もあり得る

1.逆求償を肯定した最高裁判例 トラック運転手が、仕事中に起こした交通事故で、被害者に損害賠償金を賠償した後、その金額の分担を会社に求めた事件で、最高裁の判決が言い渡されました。最二小判令2.2.28 労働判例ジャーナル97-1 福山通運事件…

懲戒解雇の可否にみる職場の懇親会に対する世相の移り変わり

1.不正請求した旅費を懇親会等の費用に充てていた事案 社用車を使って出張したのに、公共交通機関を利用したものとして、その利用によった場合の旅費を請求する方法で、旅費等を不正請求していた人がいました。この人は、これ以外にも、クオカード代金が宿…

解雇事件における尋問の勘所(使用者側の常套句への備え)

1.使用者側:ここで働くつもりはあるのか? 解雇の効力を争う事件の尋問手続では、しばしば使用側から、労働者本人に対して、 「今更解雇が無効だと言われたところで、ここで働くつもりはあるのか?」 という趣旨の尋問がなされます。 このような質問がな…

裁判所の事実認定の特徴から見る事件化の時期-問題は起きたらすぐに相談を

1.問題にしにくい事件類型-古い事件 問題にしにくい事件類型の一つに、古い事件があります。 古い事件を問題にすることが難しいのは、人の記憶や関係証拠が時の経過と共に失われてしまうこともさることながら、裁判所の事実認定の特徴が関係しています。 …

大量の非違行為が掲げられても、根拠薄弱なものが混入していれば、懲戒解雇の効力は争い易い

1.大量の解雇理由 懲戒解雇に限らず、解雇の効力を争おうと思った場合、先ずは使用者に対して労働基準法22条1項に基づいて解雇理由の証明を求めることになります。 解雇に関する紛争は、ここで使用者側から出てきた書面(解雇理由証明書)に記載されて…

勤務先に非違行為が発覚した時の対応-嘘で切り抜けようと思う前に弁護士に相談を

1.非違行為の発覚 勤務先に非違行為が発覚した時に、嘘で切り抜けようとする人は一定数います。 しかし、嘘で塗り固めらたストーリーは、綻びが生じやすいので、そうそう何とかなるものではありません。使用者側から追及を受けているうちに、大体が破綻し…

懲戒処分の標準例で用いられている用語の厳格解釈-窃盗に「準じる」はダメ

1.懲戒処分の標準例 公務員には、どのような非違行為が、どのような懲戒処分に対応するのかに関する標準例が定められています。 例えば、国家公務員に関しては、人事院は、 「懲戒処分の指針について 平成12年3月31日職職-68」 という指針を作成し…

和解内容の評価(NGT裁判)

1.和解による訴訟終了 ネット上に、 【NGT48裁判】AKSと男性ファン「損害賠償数百万円」「謝罪文」「出禁」で和解成立 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200408-00000024-tospoweb-ent 記事には、 「和解の…

新型コロナ 緊急事態宣言を受けて休業手当を支給しないと言われたら・・・

1.緊急事態宣言と休業手当 ネット上に、 「加藤勝信厚生労働相は7日の記者会見で、新型コロナウイルス特措法に基づき緊急事態宣言が発令され、特定施設の使用が制限された場合、使用者側の休業手当支払い義務について『一律に、直ちになくなるものではない…

部活動中の事故-公立学校の顧問教諭に個人責任は発生するか?

1.部活動は職務か? 学校教諭の部活動顧問としての活動が職務なのかどうかは、現行法上あまり明確にはなっていません。 しかし、これは公立学校の教諭にとっては非常に切実な問題です。部活動中の事故で生徒に損害が発生した場合に、個人として責任を問わ…

大学助教の雇止め 有期雇用契約の更新の時に「あと一回だけなら更新する」と言われたら・・・

1.無期転換ルール 有期雇用契約には「無期転換ルール」があります。 無期転換ルールとは、同一の使用者との間で5年を超えて有期労働契約が更新された場合に、労働者に対して有期労働契約を無期労働契約に転換する権利が与えられることをいいます(労働契…

コロナ解雇等に関する誤解を生じさせかねない記事について

1.コロナ解雇等に関する誤解を生じさせかねない記事 ネット上に、 「コロナ解雇!? これから迫りくる『雇用危機』の嵐に備えよ」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200404-00062999-otonans-soci&p=1 記事には…

重責解雇は懲戒解雇か?

1.重責解雇 重責解雇という言葉があります。 一般の方には馴染みのない言葉だと思いますが、これは、主に雇用保険との関係で使われる用語で、 「自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され」 たことを意味する言葉です(雇用保険法33条1項参照)…

訴訟提起しないことを約束する退職合意書にサインしてしまっても、争う余地はある

1.不当な退職合意書 退職代行を受任するきっかけに、使用者から不当な内容の退職合意書への署名・押印を強いられそうになったという類型があります。 不当な内容の中身は様々ですが、代償措置もないまま同業他社には転職しないという約定や、いかなる理由…

懲戒処分の効力を争うにあっての注目点-他のより軽い処分の選択可能性

1.懲戒権の濫用 労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、そ…