弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

国立大学の教員個人をハラスメントを理由とする損害賠償請求の被告にできるか?

1.国立大学の教員 以前、公務員個人をパワハラで訴えることができるかという記事を書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/04/15/161700 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/10/20/223743 根拠はリンク先で示しているとお…

賃金が高額であることは付加金を算定するにあたっての考慮要素にはならない

1.付加金 労働基準法114条本文は、 「裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければ…

行政措置要求の対象行為

1.行政措置要求 行政措置要求という仕組みがあります。 これは国家公務員法86条の、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われること…

新卒採用の試用期間と中途採用の試用期間、きちんと区別して議論した方がいい

1.試用期間に関する議論-新卒採用と中途採用とは区別した方がいい ネット上の記事では、試用期間中の解雇権(留保解約権)の行使について、新卒採用者を解雇するケースと、中途採用者を解雇するケースとを一色単に議論しているものが散見されます。 しか…

中小企業主等の特別加入者の労働者性と労災認定

1.特別加入制度 労災には特別加入という仕組みがあります。 これは、大雑把に言えば、労働者でない方であったとしても、一定の要件のもとで労災に入ることができる仕組みをいいます。 厚生労働省の資料では、次のような説明がなされています。 (厚生労働…

専門業務型裁量労働制の労働者の無能力解雇-改善の機会を与えたといえるための指示・指導の具体性に関する問題(追記あり)

1.専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)とは、 「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働省告示によって定められた業務・・・の中か…

セクハラ事案で女性から聴き取り調査をするうえでの留意点-虚偽供述の動機に注意(婚姻のうえ、子どもに恵まれているという立場を守りたい)

1.セクハラ事案における女性の供述の信用性 このブログでも何度か言及したことがありますが、私の実務経験上、女性が殊更にセクハラの被害をでっちあげるという事案は、なくはないにしても、数としてはそれほど多くないだろうと思っています。 しかし、セ…

勤務先が介護職員処遇改善加算金を受け取っているはずなのに賃金を改善しない場合、介護職員は勤務先を訴えられないのか?

1.介護職員処遇改善加算制度 介護職員処遇加算制度という仕組みがあります。これは大雑把に言うと、介護職員の賃金等を改善する原資として、一定の要件のもとで対象事業者に金銭を交付する仕組みです。 この加算金を受け取っておきながら、勤務先の事業者…

防衛大学校の学生は安全配慮義務の履行補助者か?

1.防衛大学校の学生 私立大学の学生が大学の学生に対する安全配慮義務の履行補助者だと聞くと、違和感を覚える人は少なくないと思います。法的にも、そのような理解は、一般的ではないと思います。 それでは、私立大学ではなく、防衛大学校の学生はどうで…

「つながり」を強調する報道に慎重さが求められる理由(NGT裁判)

1.アイドルハンター? ネット上に、 「別件で逮捕アイドルハンター集団は無反省!? “山口真帆襲撃”中心格も暗躍か」 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200120-00000038-tospoweb-ent 記事には、 「アイドルグルー…

職場での録音の許否-従来型のアドバイス「取り敢えず録音」は危うい

1.職場での録音 労働事件を処理するにあたり、録音は重要な証拠になります。特に、ハラスメントをテーマとする訴訟では、立証の核になることも少なくありません。 そのため、在職中の労働者からハラスメントに関する相談を受けた弁護士は、当面の対応とし…

宗教法人の労働事件-僧侶が「カルト教団」に入信したことは破門事由・解雇事由になるのか?

1.宗教法人に対する地位確認訴訟 宗教法人に対する地位確認訴訟の可否が問題になった事件に、最三小判平11.9.28判例タイムズ1014-174があります。 これは、宗教法人の代表役員の地位を罷免する懲戒処分を受けた僧侶が原告となって、罷免の…

管理監督者に相応しい報酬とは評価されないとされた例(理論年収500万5000円、一般職上限プラス30万円)

1.管理監督者にふさわしい報酬 管理監督者には時間外勤務手当を支払わなくてもよいことになっています(労働基準法41条2号参照)。俗に、「管理職には残業代が支給されない」といわれる所以です。 この管理監督者への該当性は、大雑把に言うと、 ① 当該…

講演・勉強会講師のご依頼について

1月17日、埼玉県社会保険労務士協働組合主催の講演会で講師を務めました。 講演会では、社会保険労務士の方を対象に、 ①問題社員への対応、 ②パワハラ・いじめに会社はどのように対応すればよいのか、 ③非正規労働者との格差是正のための正規労働者の労働…

1億円「貢がせ離婚」-返還請求は本当にできないのか?

1.「貢がせ離婚」に関するネット記事 ネット上に、 加藤紗里、1億円「貢がせ離婚」が大炎上…元夫に返還しなくてイイの? という記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_3/n_10653/ 記事は、 「スピード離婚を明らかにしたタレントの加藤紗里…

解雇の場面での諸問題(解雇事由としての勤務態度不良・成績不良・協調性不足の意義、事前の注意・指導と解雇予告、解雇通知書の記載の持つ意義、古い事実・多数の軽微な事実への評価)

1.解雇の場面での諸問題 一つ前の記事で、神戸地姫路支判平31.3.18労働判例1211-81 アルバック販売事件 という裁判例を紹介しました。この事件は、配転命令の有効性だけではなく、解雇の有効性も争点となっています。 真空機器・装置、熱分…

配転命令の効力を争うにあたっての留意点-不利益性は存在だけでは足りない?

1.配転命令の有効性の判断基準 最二小判昭61.7.14労働判例477-6・東亜ペイント事件は、配転命令の有効性について、 「使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないと…

軽微なハラスメント事案における謝罪の重要性-違法性の認定を妨げる事由としての謝罪

1.行為の違法性判断における事後的な謝罪の持つ意味合い 行為後の事情が、ある行為の適法・違法の判断に影響を与えるというのは、理論的に考えると違和感があります。それは、罪を犯した時に、事後的に謝罪したからといって、処罰を免れられないことを想像…

「同一労働同一賃金」は「悪い意味」で大きな意味を持っているのか?

1.同一労働同一賃金に関する記事 ネット上に、 「賃金は減り、リストラが加速…… ミドル社員を脅かす『同一労働同一賃金』の新時代」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200110-00000019-zdn_mkt-bus_all&p=1 記事には…

高齢で認知症を患っている親族に自動車の運転を止めてもらうには

1.認知症患者による自動車運転 時折、認知症を患っている家族が自動車を運転するのを止めさせることができないかという相談を受けることがあります。 悲惨な交通事故に関する報道が定期的になされている中、高齢・認知症の家族を介護する方にとっては、不…

通勤災害に自動車保険契約に付された弁護士費用特約を利用できるか?

1.自動車保険の弁護士費用特約 自動車保険に弁護士費用特約という仕組みがあります。これは交通事故にあたり弁護士費用が必要となる事態をカバーする保険です。これを利用すると、一定の要件のもので、弁護士費用を保険会社が負担することになります。 こ…

弁護士による名誉毀損的な反対尋問からの証人保護

1.名誉毀損的な反対尋問 労働事件に限ったことではありませんが、当事者双方の対立が激しい事件では、当事者や証人の尋問も先鋭的なものになりがちな傾向があります。 近時公刊された判例集に、弁護士による名誉毀損的な反対尋問を違法だと判示した裁判例…

公務員の懲戒免職と退職金(退職手当)Ⅱ

1.公務員の懲戒免職と退職金 以前、セクハラで懲戒免職になった市立中学校校長が、退職手当等全部不支給処分の効力を争った事件を争った事件を紹介しました。千葉地判平30.9.25労働判例ジャーナルNo.82-30千葉県・千葉県教委事件です。 htt…

問題点のみ言いっ放しにして、法律の趣旨を伝えない法律解説記事

1.短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」という名前の法律があります。 この法律の8条は、以下のとおり、短期間・有期雇用労働者と通常の労働者との間に不合…

始末書に書く事実認識は、会社の事実認識と一致するように忖度しなければならないのか?

1.会社が正解を想定したうえで始末書を提出させる行為 会社が既に一定の事実認識を持っているにもかかわらず、労働者に対して事実認識を記載した始末書を提出するように求めることがあります。 ここで会社の事実認識と異なる事実認識を示すと、虚偽の事実…

労働契約の使用者は営業受託者か営業委託者か

1.労働契約の当事者の認定 多重的に営業委託契約が結ばれている事案において、雇用契約書などの書証が作成・交付されていない場合、末端の労働者の使用者が誰なのかが不分明であることがあります。近時の公刊物に掲載されていた大阪地裁平31.4.23労…

残業代請求の場面での労働時間と労災認定の場面での労働時間は同一か?(不活動仮眠時間関係)

1.労働時間の多義性 最一小判平12.3.9労働判例778-11・三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件は、時間外勤務手当の請求の可否の判断にあたり、 「労働基準法・・・三二条の労働時間・・・とは、労働者が使用者の指揮命令下に置か…

就労実体の偽装に手を貸した相手から、賃金を請求された事例

1.就労実体の偽装 種々の理由から、会社経営者が就労実体の偽装に手を貸すことがあります。 ここで、手を貸したはいいものの、偽装であったはずなのに、偽装のために発行された給与明細書等をもとに労働契約が成立したとして、賃金を請求されることがあり…

合同会社の社員の除名と信頼関係の毀損

1.合同会社の社員の除名 あまり有名ではありませんが、合同会社という組織形態があります。 有限責任制で出資者のリスクが限定されていること(会社法576条1項5号、同条4項)、内部ルールを出資者が柔軟に設定できることなどの特性があります。 http…

賃金を支払える状況になってから支払うとの約定のもとで労働契約の締結は認められるか

1.労働契約の成立要素としての賃金 労働契約法6条は、 「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」 と規定しています。 賃金支払いについて双方…