1.自動車保険の弁護士費用特約
自動車保険に弁護士費用特約という仕組みがあります。これは交通事故にあたり弁護士費用が必要となる事態をカバーする保険です。これを利用すると、一定の要件のもので、弁護士費用を保険会社が負担することになります。
この弁護士費用特約で、
「労働災害により生じた身体の障害」
が保険会社の免責の対象とされていることがあります。
この「労働災害」には、業務災害だけではなく、通勤災害まで含まれるのでしょうか。仕事中の運転はともかく、通勤中の交通事故でも免責規定が適用されて弁護士費用が支払われないといったのでは、弁護士費用特約の利用できる場面が限定されすぎるのではないかとの問題意識を持つ方がいても、不思議ではないと思います。
この点が問題になった近時の裁判例に、大阪地判令元.5.23判例タイムズ1466-163頁があります。
2.大阪地判令元.5.12判例タイムズ1466-163
この事件は、通勤中に交通事故の被害を受けた被害者が弁護士費用特約に基づいて、保険会社に弁護士費用の負担を求めて訴えを提起した事案です。この方の弁護士費用特約には「労働災害により生じた身体の障害」には弁護士費用保険金を払わないと規定されていました。
裁判所は次のとおり述べて、約款の「労働災害」との文言には通勤災害も含まれるととし、は弁護士費用を支給しない措置に問題はないと判示しました。
(裁判所の判断)
「保険免責条項の『労働災害』に業務災害及び通勤災害のいずれをも含むという解釈は、平均的な顧客にとって不測の解釈ではなく、合理的に理解することが可能なものといえるし、顧客に不測の不利益を与えるものでもないといえる。また、被告の説明する労働者災害補償制度による給付が得られる場合には、一定の補償が迅速に得られることから免責事由としたという本件免責条項の制度趣旨も一定の合理性を有する。」
「よって、本件免責条項の『労働契約』には通勤災害をも含むものと解する。」
3.通勤に使えないのなら・・・
自動車を主に通勤に用いていて、通勤災害に弁護士費用特約が適用されないのであれば、特約を付している意味が希薄であると考える方は少なくないと思います。
契約を締結するにあたり、一々約款の内容に目を通している方は稀だと思いますが、気になる方は、約款の免責規定を今一度確認し、必要に応じて契約の見直しを図っても良いのではないかと思われます。