1.「貢がせ離婚」に関するネット記事
ネット上に、
加藤紗里、1億円「貢がせ離婚」が大炎上…元夫に返還しなくてイイの?
という記事が掲載されていました。
https://www.bengo4.com/c_3/n_10653/
記事は、
「スピード離婚を明らかにしたタレントの加藤紗里さんの発言に非難が殺到している。
昨年9月に7歳年上の不動産会社経営の男性と結婚した加藤さんだったが、1月10日にYouTubeにアップした動画の中ですでに離婚していたことを発表した。かねてからお金持ちの男性にしか興味がないと公言していたが、お金がなくなったことが離婚の原因のひとつだったそうだ。」
「加藤さんは交際を始めた5月から交際して3カ月で『1億円以上使わせた』と明かした。高額の高級ブランドとして知られる『ハリー・ウィンストン』の指輪など散財の結果、元夫の会社の経営が傾いたという。『そんなもんで傾く男いらないでしょ』と続けた。」
「さらに、入籍後1週間で別居していたことや、離婚してからすでに複数の男性と交際していることも告白している。」
との事案について、
「元夫が1億円以上の大金を貢いだ時期の詳細は不明ですが、加藤さんに対してお金の返還は求めることができるのでしょうか。」
と問題提起しています。
回答者となっている弁護士の方は、要旨、
「結論から言えば、加藤さんは元夫から贈られたプレゼントは返還する必要はありません」
「原則として、そう(婚姻期間中、あるいは婚姻前に元夫からもらったプレゼントは『特有財産』ということに 括弧内筆者)なります。ただし、その家の資産とするためなど、加藤さんに所有させるためだけの『プレゼント』でなかった場合には、共有財産となることもあります」
「財産分与において、金額の高い婚約指輪の所有権をめぐって争うことはよくあります。贈った側の気持ちはわかりますが、離婚後も、婚約指輪の所有権は贈られた側にありますので、加藤さんの特有財産となります。この指輪については返還する必要はありません」
「(結婚後に高額なプレゼントをもらっていた場合)どのような名目でもらったかによって異なります。元夫が加藤さんに『プレゼント』として加藤さんに所有させる意思をもって贈った場合には、所有権は妻が持ちます。」
と回答しています。
2.本当に返還請求の余地はないのか?
確かに、あげたプレゼントを返せというのは、簡単なことではないと思います。
しかし、本件のような極端なケースでは、返還請求の余地はあるのではないかと思っています。
民法550条は、
「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」
と規定しています。
あげてしまったものを返せといえないのは、この条文に根拠があります。
しかし、どのような場合であったとしても、あげてしまったものの返還請求ができないかと言えば、そのようなことはありません。
例えば、東京地判昭50.12.25判例時報819-54は、
「贈与が、親族関係ないしはそれに類する継続的な特別の情宜関係に基づいてなされたに拘らず、右情宜関係が、受遺者の背徳的な忘恩行為によって破綻消滅し、ために贈与者が、右贈与なかりせば遭遇しなかったであろう生活困窮等の窮状に陥いり、右贈与の効果を維持することが諸般の事情に照らし条理上不当と解されるような場合には、贈与の撤回ができると解するのが相当である。」
と忘恩行為があった場合に親族間における贈与を一定の要件のもと撤回することを認めています。
また、新潟地判昭46.11.12判例時報664-70は、
「原告が本件において主張する事実関係よりすれば、原告は本件土地の贈与が原・被告の養子縁組を契機とし原・被告が養親子としての共同生活を行うことを前提としてなされたにも拘らず、原・被告は嘗て一度も同居したことがなく養親子としての実質が全く形成されぬまま縁組が破綻するに至ったので右の贈与を解除するというのである。」
「思うに贈与が親族間の情誼関係に基き全く無償の恩愛行為としてなされたにも拘らず、右情誼関係が贈与者の責に帰すべき事由によらずして破綻消滅し、右贈与の効果をそのまま維持存続させることが諸般の事情からみて信義衡平の原則上不当と解されるときは、諸外国の立法例における如く、贈与者の贈与物返還請求を認めるのが相当である。」
と養親から養子への贈与の撤回を認めています。
本件でも、元夫の方に有責性がないのであれば、上述のような判例の趣旨を類推して贈与の撤回が認められる可能性はあるのではないかと思います。
3.極端なケースには要注意
一般論として、回答者となっている弁護士の方の回答は間違ってはいないと思います。離婚するにあたり、以前あげたものを返せと言えるかといえば、言えないケースが殆どだと思います。
しかし、どのようなルールにも例外はあります。
極端なケース、一般原則を当てはめると結論があまりにも常識的な感覚からかけ離れてしまうケースでは、長い歴史の中で何等かの救済法理が発展していることは、珍しくありません。
そうしたケースでは、弁護士によって回答に差が生じます。
上述のような相談を受けた場合、私であれば、
「法文の一般的な理解からすると必ずしも楽観はできませんが、過去の裁判例に照らして贈与の撤回が認められる可能性はあると思います。法的手続をとってみますか?」
といった回答をするのではないかと思います。
似たようなケースでお悩みの方がおられましたら、諦めることなく、一度ご相談頂ければと思います。