弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働契約の使用者は営業受託者か営業委託者か

1.労働契約の当事者の認定

 多重的に営業委託契約が結ばれている事案において、雇用契約書などの書証が作成・交付されていない場合、末端の労働者の使用者が誰なのかが不分明であることがあります。近時の公刊物に掲載されていた大阪地裁平31.4.23労働判例ジャーナル93-48・ファイブツー事件も、そうした事件の一つです。

2.ファイブツー事件

 本件では、株式会社友者倶楽部→被告→株式会社ロイヤルセンスと店舗(本件店舗)に係る営業委託契約が締結されていました。本件店舗の末端でして本件店舗で雇われ店長として働いていた原告が、未払賃金を請求するにあたり、誰に請求すればよいのかが問題となりました。

 当初、原告はロイヤルセンスを相手に訴訟を提起しましたが、その訴訟は和解で既に終わっています。その後、同じく原告が、ロイヤルセンスとの訴訟が和解で一段落した後、原告が労働契約の主体は被告であるとして、被告を訴えたのが本件です。

 裁判所は次のとおり述べて労働契約の当事者は被告ではないと判示しました。

(裁判所の判断)

「被告は、ロイヤルセンスに対して本件店舗における本件営業を委託しているものの、本件営業の委託を受けたロイヤルセンスが被告に対して委託に伴う対価を支払うこととされていること、本件営業から生じる経営責任をロイヤルセンスが負うこととされていることからして、被告とロイヤルセンスとの間の本件営業委託契約は、被告が本件店舗をロイヤルセンスに賃貸し、ロイヤルセンスの責任と計算において本件店舗における本件営業を行うものであったと評価することができる。このことは、・・・認定事実のとおり、原告らがロイヤルセンスを被告として、同社との間で雇用契約が存在したことを前提とする別件訴訟を弁護士に依頼をして提起していること、同訴訟において原告らがそれぞれロイヤルセンスとの間で雇用契約を締結した旨の陳述書を提出していること・・・とも整合する。なお、原告らは、本件営業委託契約に係る契約書・・・のD作成部分の成立を否認するが、Dが作成したことが明らかな別件訴訟における訴訟委任状(・・・)における印影と本件営業委託契約に係る契約書・・・のD名下の印影との同一性が認められることから、本件営業委託契約に係る契約書のD作成部分は真正に成立したものと認められるのであって、この点に関する原告らの主張は採用できない。以上からすると、本件店舗において本件営業を行っていたのは被告ではなくロイヤルセンスである可能性が高く、これを覆すに足りる適切な証拠はない。

3.被告選択を誤ると挽回は難しい

 本件で被告に使用者性が否定されたのは、金銭の流れ(営業委託とはいいながらも委託者が受託者にお金を払うのではなく、受託者が委託者にお金を支払う建付けになっていること)と先行するロイヤルセンスとの間での訴訟態度がポイントとなっています。

 金銭の流れが一番に挙げられ、先行事件での態度がそれを補強するという判断構造になっているため、原告において最初から正しく被告を選択していたとしても、結論に影響が生じたかは分かりません。

 しかし、今回の訴訟を追行するにあたり、先行事件での態度が足枷となったことは否めないと思います。

 労働事件において正しく被告を選択することは非常に重要です。誰を訴えてよいか分からないと言う場合には、弁護士に相談して法的措置をとる必要性があるかどうかを事前に相談しておくことが推奨されます。