1.公務員の懲戒免職と退職金
以前、セクハラで懲戒免職になった市立中学校校長が、退職手当等全部不支給処分の効力を争った事件を争った事件を紹介しました。千葉地判平30.9.25労働判例ジャーナルNo.82-30千葉県・千葉県教委事件です。
https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/04/07/121502
この事件で千葉地裁は、
「本件非違行為については、本件中学校の校長としてふさわしくない行為として、懲戒免職処分を避け難いものであるとしても、他方で、原告の教職員としての功績を皆無とし、過去の勤務に基づく賃金の後払的性格の部分も含めて、その退職後の生活保障を奪い去るに値するような重大な非違行為であるとまでは直ちに評価し難い。」
と述べ、懲戒免職処分の適法性は認めたものの、退職手当等に関しては全部不支給処分は違法・4分の1の限度では支払われるべきだと判断しました。
この事件の控訴審判決が近時公刊された判例集に掲載されていました。
東京高判平31.2.27判例タイムズ1466-67です。
2.東京高判平31.2.27判例タイムズ1466-67
東京高裁は原審千葉地裁の判断を変更し、退職手当等全部不支給処分(本件処分)は適法だと判示しました。
高等裁判所の主な判示事項は次のとおりです。
「退職手当等の全部を不支給とすることができる場合について、『不支給処分の根拠となる非違行為が、当該職員の勤続の功績をむにするほどの重大なものであると認められる場合に限られる・・・とか、『当該処分の原因となった非違行為が、退職者の永年の勤続の功をすべて抹消してしまうほどの重大な背信行為である場合に限られる・・・という要件を課して、全部不支給にできる場合を制限することは、適当ではない。勤続の功績と非違行為の重大さを比較することは非常に困難であり、判断基準として不適当であるからである。」
「本件運用基準は、判断基準として適切なものであり、個別の事案を本件運用基準に沿って検討していくことが、適切な判断方法である。」
「本件運用基準5項1号によれば、第1審原告については、退職手当等を全部不支給処分にするのが原則であることになる。」
「本件運用基準によれば、第1審原告について例外的に退職手当等を一部不支給にとどめる余地はないことになる。」
「第一審原告は、教員として採用されてから本件各処分までの約36年間、非違行為による処分を受けたことがないこと、第1審原告の退職手当等は2228万9628円であり、その全部が支給されない場合には、第1審原告の退職後の生活設計に少なからぬ影響が生じることなどを考慮すると、本件不支給処分は厳しすぎて不当であると主張する。」
「しかしながら、第1審原告は、本件中学校の校長としてセクハラ行為等の予防のために他の教員の教育、研修、指導に率先して取り組み、職場環境を整えるべき立場にあったにもかかわらず、同じ中学校に勤務する女性教員に対しわいせつ行為に及んだものであり、本件非違行為に至る経緯や本件非違行為後の言動において、特に第1審原告に有利に斟酌すべき事情は認められないことなどを考慮すると、第1審原告に対し、退職手当等の一部を支給しない処分に留めるとすれば、公務に対する信頼を大きく損なう結果となりかねないというべきである。第1審原告の主張に係る事情を十分考慮しても、退職手当等の全部を不支給とした本件不支給処分につき、裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められない。」
3.懲戒免職=退職金不支給?
公務員は懲戒免職と退職金の不支給とが結びついています。
千葉県の
「職員の退職手当に関する条例」(退職手当条例)
でも、
「懲戒免職処分を受けて退職をした者」
に対しては
「一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる」
と定められていました。
これを受け、千葉県人事委員会は退職手当条例の運用基準を定めており、懲戒免職処分になった者に対する退職手当等は全部不支給処分が原則とされていました。
地裁はこうした硬直的な運用に一石を投じるものでしたが、高裁は運用基準通りに懲戒免職処分を受けた職員に対して退職手当等の全部不支給処分をすることを適法だと判示しました。
勤続の功績と非違行為の重大性を比較衡量する手法を明示的に否定した高裁判例として注目されます。