弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

軽微なハラスメント事案における謝罪の重要性-違法性の認定を妨げる事由としての謝罪

1.行為の違法性判断における事後的な謝罪の持つ意味合い

 行為後の事情が、ある行為の適法・違法の判断に影響を与えるというのは、理論的に考えると違和感があります。それは、罪を犯した時に、事後的に謝罪したからといって、処罰を免れられないことを想像して頂けると、分かり易いかと思います。

 しかし、ハラスメント事案において民事的な金銭賠償の要否が問題となる局面では、事後的な謝罪が行為の違法性の認定を妨げる事由として考慮されることがあります。

 近時の公刊物に掲載されていた大阪地判平31.4.24労働判例ジャーナル93-46国・法務大臣事件も、事後的な謝罪を考慮要素の一つとして、ハラスメントの違法性を否定した事案の一つです。

2.大阪地判平31.4.24労働判例ジャーナル93-46国・法務大臣事件

 この事案で原告になったのは、大阪入国管理局の事務補佐員として採用されていた方です。本件では幾つかの請求が併合されていますが、その中の一つにハラスメントを理由とする国家賠償請求があります。

 平成27年3月16日、留学・研修審査部門の職員fは、原告から在留案件の処分入力は契約内容に入っていないなどと言われて口論になった時、原告に対し「補佐員の仕事をやめてもらっても構わない。」「補佐員のくせに。」と発言しました。

 同月17日、原告は、首席審査官に対し、職員fから「事務補佐員のくせに」「仕事を辞めろ」と言われたと申立をしました。

 同月18日、首席審査官は、職員fから事情聴取を行ったところ、fが概ね発言を認めたことから、口頭で厳重に注意しました。

 同月20日、職員fは、首席審査官の立会いのもと、原告に謝罪しました。

 本件では上記の職員fの言動に国家賠償法上の違法性が認められるか否かが争点となりました。

 裁判所は次のとおり述べて、職員fの発言の国家賠償法上の違法性を否定しました。

(裁判所の判断)

「職員fの上記発言は、事務補佐員の立場にあった原告に対する発言として不適切な内容のものであったとはいえるものの、原告も反論する中で、偶発的・単発的になされた発言であると認められ、特に不当な目的に基づくものであったことをうかがわせるような事情は見当たらないこと、その後、職員fは、首席審査官からの事情聴取に対して上記発言をした事実を認めて反省し、原告に対して謝罪していること、以上の点に鑑みれば、職員fの上記発言が、国賠法上違法であるとまでは認められない。

3.軽微なハラスメントをしてしまった場合、謝ってしまった方がいい

 時折、謝罪すると責任を認めたことになるから謝らない方がいいという言説を耳にすることがあります。

 確かに、そのような側面を持つ事案があることは否定しません。しかし、だからといって、非があるのに謝らないといった対応が、危機管理上適切であるわけではありません。本件のように軽微なハラスメント事案では、問題をこじれさせないという観点からも、紛争になった時に賠償責任を免れると言う観点からも、きちんと謝ってしまった方が良いこともあります。

 間違ったことをしてしまった時に謝罪するといった常識的な対応が、必ずしも法的に否定的な意味で捉えられるわけでないことは、一般の方にも意識されていてよいのではないかと思います。