弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

解雇の場面での諸問題(解雇事由としての勤務態度不良・成績不良・協調性不足の意義、事前の注意・指導と解雇予告、解雇通知書の記載の持つ意義、古い事実・多数の軽微な事実への評価)

1.解雇の場面での諸問題

 一つ前の記事で、神戸地姫路支判平31.3.18労働判例1211-81 アルバック販売事件 という裁判例を紹介しました。この事件は、配転命令の有効性だけではなく、解雇の有効性も争点となっています。

 真空機器・装置、熱分析装置等の分析測定装置の販売等を目的とする株式会社である被告は、取引先とのトラブルの頻発、指示の無視と上司への虚偽報告、上司及び社内関係者に対する不適切な発言とそれによる信頼関係の破壊などを理由に、原告を解雇しました。

 結論としては、裁判所は解雇の有効性を否定し、原告の地位確認請求を認容しました。本件では被告が様々な主張を展開したため、その判断過程において、他の事案にも応用可能な興味深い判示が幾つもなされています。

 気になった判示を幾つか紹介してみたいと思います。

2.解雇事由としての勤務態度不良・成績不良・協調性不足の意義

(勤務態度不良・成績不良)

「被告が主張する原告の取引先とのトラブルの頻発は、原告の勤務態度又は成績の不良をいうものと解される。そして、勤務態度又は成績の不良が、就業規則58条『就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められるとき』にとして解雇理由に該当するか否かは、単に当該労働者の勤務態度が不良であるという範疇を超えて、その程度が著しく劣悪であり、使用者側が改善を促したにもかかわらず、改善がないといえるかどうか、使用者の業務全体にとって相当な支障となっているといえるかどうかなどの点を総合考慮して判断するのが相当である。

(協調性不足)

「協調性の欠如が、就業規則58条6号『就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められるとき』又は同条7号『その他前各号に準ずる程度のやむを得ない理由』として解雇理由に該当するか否かは、単に協調性が欠如しているという範疇を超えて、その程度が著しく劣悪であり、使用者側が改善を促したにもかかわらず、改善がないといえるかどうか、使用者の業務全体にとって相当な支障となっているといえるかどうかなどの点を総合考慮して判断するのが相当である。

3.事前の注意・指導と解雇予告

(勤務態度又は成績の不良)

「原告が注意を受けたにもかかわらずこれを受け入れる意思がなく、同じトラブルを繰り返したとか、勤務態度自体に問題があるとして注意、指導等をされ、解雇を含む措置がとられる可能性がある旨を予告されたにもかかわらず、なお問題が解消されなかったなどと言う状態であったということはできない。

・・・

「よって、上記理由による本件解雇には客観的合理的理由がない」

・・・

「また、被告は、・・・原告に対し、根本的な勤務態度等についての注意、指導等や、勤務態度等が改善せず、又は次に取引先とトラブルを起こせば、解雇を予定している旨を原告に対して明確に示す注意、指導等をしておらず、解雇より軽い懲戒処分等の他の手段の検討をした形跡もうかがわれないんどえあるから、解雇までの間に踏むべき段取りを踏んでいないというべきである。」

「以上からすると、上記理由により本件解雇をすることは相当でもないといざるを得ない。」

(協調性不足)

「被告は、原告に対し、原告の協調性の欠如について、上記のような言動を続けるようであれば解雇を予定している旨を明確に示す注意、指導等をしていないどころか・・・Dが一度、本件解雇の約3年前に、原告の言動には協調性の点で問題がある旨について指摘した以外には・・・、注意、指導等をしたことが証拠上一切うかがわれない。かえって、被告は、・・・原告の要求を呑んできたことが認められる。そうすると、原告の協調性の欠如が、注意、指導をされたにもかかわらず、なお解消されないような状態であったということはできない。」

・・・

「被告が問題とする原告の各言動の相手であるS及びI等が、不快な思いをしたり、対応に苦慮したりしたことは認められるもの(原文ママ)、多大な精神的苦痛を被り、協働することが困難な状況に陥り、被告の業務に支障が生じるような事態に至っていたと認めるに足りる事情はうかがわれない。」

「以上からすれば・・・上記理由による本件解雇には客観的合理的理由がない」

・・・

「被告は、・・・原告に対し、そもそも協調性の欠如の点について注意、指導等を一切しておらず、解雇より軽い懲戒処分等の他の手段の検討をした形跡もうかがわれないのであるから、解雇までの間に踏むべき段取りを踏んでいないというべきである。」

「以上からすると、上記理由により本件解雇をすることは相当でもない」

4.解雇通知書の記載の持つ意義

「解雇当時に存在した事実であれば解雇理由として主張することができるものと解されるとはいえ、被告が事実関係を確認した上で解雇通知書を作成したにもかかわらず上記各事実が同通知書に記載されていないことからすれば、本件解雇当時の被告が、上記各事実を解雇理由に相当する重大な事実であると認識していたとは認められない。

5.古い事実への評価・多数の軽微な事実への評価

「本件解雇は、客観的に合理的な理由があるとは認められず、かつ、社会通念上相当であるとも認められない。」

「なお、既に述べたとおり、一つ一つの事実が解雇に相当するほど重大なものであるとは認めがたい上、その大半が約1年前から2年前までの事実であるにもかかわらず、その間解雇を予定している旨を原告に対して明確に示す注意、指導等をした事実は一切認められないのであるから前記・・・を全て併せて考慮しても、上記結論に変わりはない。

「よって、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効である。」

6.他の事案への応用の可能性

 「2」で示されている勤務態度不良・成績不良・協調性不足の意義は、他の事案でも規範として応用が可能な判示だと思います。勤務態度不良・成績不良・協調性不足が問題となる事案では、規範(解雇理由としての勤務態度不良・成績不良・協調性不足とはどのような状態を意味するのか)に言及せず、様々な事情を列挙していって、ダイレクトに結論に結びつけている裁判例も少なくないように思われます。そうした状況下において、本件裁判例が示した勤務態度不良・成績不良・協調性不足の定義は、主張・立証活動の指針として参考になります。

 「3」は、従業員を勤務態度不良等を理由に解雇するにあたっては、前もって改善されなければ解雇するという形で明確に注意・指導することを求める判示です。唐突に解雇された事案で、解雇の効力を争うにあたり、引用することが考えられます。

 「4」は解雇理由証明書(労働基準法22条1項)に記載されていない解雇理由を訴訟段階で使用者が大量に主張してきた時に使える理屈です。

 「5」は、使用者側が古い話を蒸し返してきたり、さほど重要でもない事実を大量に主張して数で押し切ろうとしてきたりした時に引用できる判示です。それまで看過・無視されてきたような軽微な非違行為は、幾ら搔き集めようが解雇を正当化する理由にはならないことを示しています。

 勤務態度不良・成績不良・協調性不足を理由とする解雇に関しては、俗に「余程のことなければクビにはならない」などと表現されることもありますが、これは上記のように表現されることもあります。クビにされたものの使用者から言われるほど自分の態度・成績等が悪かったのかは疑問である、いきなりクビだと言われて納得いかない、そうした思いをお抱えの方は、解雇の効力を争うことができないのか、一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。