弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

合同会社の社員の除名と信頼関係の毀損

1.合同会社の社員の除名

 あまり有名ではありませんが、合同会社という組織形態があります。

 有限責任制で出資者のリスクが限定されていること(会社法576条1項5号、同条4項)、内部ルールを出資者が柔軟に設定できることなどの特性があります。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/manyual_sogyo/18fy/sougyou41.htm

 個人事業主・フリーランスが寄り集まって法人成りする場合、組織形態としての知名度の高さから株式会社の形態が選択されることが多くみられますが、周りからどう見えるかを気にしないのであれば合同会社の方が適合的な場合は相当数あるのではないかと思います。

 合同会社は一定の事由がある場合に、社員の除名を請求する訴えを提起することが認められています(会社法859条)。

 指摘するまでもありませんが、除名された社員は会社から放逐されることにより、その職業生活に大きな影響を受けます。

 そのため、形式的に除名事由に該当しても、社員としての地位を失わせることが不相当であるといえるような事情がある場合に、除名を制限する法理が必要ではないかが問われることになります。

 この除名を制限する法理を適用した近時の裁判例に、東京地判令元.7.3金融・商事判例1577-29があります。

2.東京地判令元.7.3金融・商事判例1577-3

 本件は合同会社である原告が、代表社員である被告が行った税務申告等により原告が損害を被った等と主張して、被告を原告の社員から除名することを求めた事案です。

 問題の合同会社は花子と被告の夫婦2名のみを社員とする会社であり、被告が開設したブログの運営を業務内容としていました。会社の業務を主に行っていたのも被告でした。

 その後、夫婦は別居、離婚調停、離婚訴訟と関係の解消に向けた法的紛争を行うようになり、これが本件訴訟の背景となっています。

 裁判所は次のとおり判示し、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

除名は、その意思に反して社員を合同会社から強制的に排除するものであるから、除名事由として問題とされている当該社員の行為が、形式的に除名事由に該当するというだけでは足りず、当該行為により社員間の信頼関係が損なわれる等により、当該合同会社の活動が成り立たなくなる(事業の継続に著しい支障がある)ため、当該社員を当該合同会社から排除することが、当該合同会社が存続して活動するためにやむを得ないといえるような事情を要するというべきである。
「そこで検討するに、被告が個人事業として行っていた事業をA(被告設立の有限会社 筆者注)が引き継ぎ、その業務をAから引き継ぐために原告が被告により設立されたこと・・・、原告が主たる事業として受託運営するαブログは、被告が開設しているブログであること・・・、原告の社員は代表社員である被告と花子の2名のみであり、花子は配偶者である被告から出資持分の一部を譲り受けて原告の社員となったこと・・・、現在、原告の業務を行っているのは被告であり、他の1名の社員である花子は原告の業務を行っていないこと・・・、被告が取材に基づいて毎日複数回更新しているαブログにより原告が年間3000万円以上の広告収入等を継続的に得ていること・・・などを考慮すれば、被告が原告の社員から除名されれば、原告の事業の継続に著しい支障があるというべきである。」

(中略)

「被告の行為により社員間の信頼関係が一定程度損なわれるとしても、それにより原告の活動が成り立たなくなる(原告の事業継続に著しい支障がある)とはいえず、原告が存続して活動するために被告を排除することがやむを得ないといえるような事情があるとはいえないのであるから、被告を原告の社員より除名すべき事由があるということはできない。」

3.社員の地位を追われそうになっている方へ

 上述のように、社員の除名には一定の制限が課せられています。形式的に除名事由に該当したとしても、実質的に除名を正当化するような事情がない場合には、除名の効力を争うことができます。

 また、会社法859条の除名の訴えに係る規定は弁護士法人にも準用されています(弁護士法30条の30)。

 弁護士法人が社員である弁護士を退社させるには、任意退社(弁護士法30条の30第1項、会社法606条)してもらうか、弁護士法30条の22所定の法定脱退の要件の場合に該当するか、いずれかの場合しかないだろうと思います。

 弁護士法人形態の法律事務所に社員になるという形式で就職したところ種々の理由で退職(脱退)勧奨を受けたという話を耳にすることがありますが、本来社員としての地位はそう簡単に奪えるものではありません。

 弁護士法人間での人的対立から除名の訴えにまで発展したケースは聞いたことはないものの、今回ご紹介した裁判例が示した法理は、弁護士法人が除名の訴えを起こす場合にも類推できる可能性があると思います。

 合同会社、弁護士法人、その他社団の社員の地位を不当に追われそうになっている方がおられましたら、対応をご相談頂ければと思います。