弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

告知・聴聞の機会を欠く公務員の懲戒処分の効力

1.公務員の懲戒と告知・聴聞 公務員に懲戒処分を科するにあたり、事前に告知・聴聞の機会を付与することが必要かどうかという論点があります。 最大判平4.7.1最高裁判所民事判例集46-5-437は、憲法31条の理解に関し、 「行政処分の相手方に…

会社には検討中の希望退職制度を告知する義務があるのか?

1.退職金優遇措置を含む希望退職制度 会社が人員削減を実施する際、退職金の優遇措置を含む希望退職制度を設けることがあります。簡単に言えば、退職金を割り増すことで、自発的に退職してくれる人を増やす仕組みです。 退職届を出した直後、こうした希望…

片道3時間かけて通勤してもいいから妻子を置いて引っ越したくない-転居命令を拒める場合

1.転勤制度が労働者に与える負担 配転命令には使用者に広範な裁量が認められていて、滅多なことでは違法になりません。そして、配転命令に従わないでいると、業務命令違反で解雇される可能性が高まります。そのため、妻子がいる労働者は、転居を伴う必要の…

採用面接で嘘をつくことは例外なく責められるべきことなのか?-HIV訴訟

1.採用面接での嘘 採用面接の場面で、正直に答えると不利益を受ける可能性のある質問を受けた時、嘘をついてしまう人は少なくありません。 それが労働能力の評価に直結することであれば、嘘が露見した時に、内定取消や解雇などの不利益な取扱いを受けるの…

部下による梯子外し・手の平返しはハラスメントか?

1.梯子外し・手の平返し 行き掛かり上、仕方なく、相性の悪い相手とチームを組んで働くことがあります。これは結構ストレスの溜まることではないかと思います。 特に、事前に相談して仁義を切っておいたはずなのに、上司・先輩からダメ出しをされるや「実…

開き直った経営者に労働者は太刀打ちできないのか?

1.開き直った経営者に労働者は太刀打ちできないのか? ネット上に、 「懲戒解雇と諭旨解雇、同じ『クビ』でもこんなに違う」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200223-00059450-jbpressz-bus_all 記事は、 「昨…

「末永く働いてもらいたい」はあまり信用できない(無期転換を避けるための雇止め)

1.特任教員の雇止め 少し古い(平成30年5月20日掲載)ですが、 「大学教員、半数は非常勤 常勤も4分の1が『期限付き』」 という記事があります。 https://www.asahi.com/articles/ASL5M54SBL5MUTIL00Z.html 記事には、 「全国の大学の教員のうち約…

固定残業代の有効性-割増賃金の種類(時間外・休日・深夜)の明示の必要性

1.固定残業代の有効要件 固定残業代が有効であるためには、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と・・・時間外の割増賃金に当たる部分とを判別」 できることが必要です(最一小判平24.3.8労働判例1060-5テックジャパン事件)。 ここまでは実…

オオカミではなくヒツジをとれ-ヤンチャで素行の悪い生徒を入学させたらエンカレッジスクールは成り立たない?

1.エンカレッジスクール 「エンカレッジスクール」と呼ばれる都立高校があります。 これは、 「小・中学校で十分能力を発揮できなかった生徒のやる気を育て、頑張りを励まし、応援する学校として、社会生活を送る上で必要な基礎的・基本的学力を身に付ける…

賃金が上から数えて一桁番台でも、権限がなければ管理監督者にはあたらない

1.管理監督者 管理監督者には、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用がありません(労働基準法41条2号)。そのため、時間外勤務をしても、管理監督者には残業代が支払われることはありません。俗に、管理職には残業代が支払われない…

入団契約を結んだ劇団員の労働者性-稽古・出演の時は労働者でなくても裏方業務をしている時は労働者

1.劇団員の労働者性 小規模な劇団では、劇団員が、出演者と、装飾・衣装・音響照明・大道具小道具などの裏方作業員とを兼任していることが珍しくありません。 この場合、出演に関しても上命下達の指揮命令系統がはっきりしていれば話は早いのですが、演じ…

78万円の横領は24年8か月の功労(900万円超の退職金)を吹き飛ばす

1.横領は重い 会社のお金の横領は、懲戒事由の中でも、かなり重い方に位置づけられます。比較的少額でも、普通に懲戒解雇されますし、退職金も不支給とされてしまいます。 近時も、横領に対する裁判所の厳しい姿勢をうかがえる裁判例が、公刊物に掲載され…

使用者側の訴訟代理人による自滅事案-労働事件で適切な代理人弁護士を選任することの重要性

1.労働事件の特性 労働事件の特性の一つに、依拠するルールが抽象的であることがあります。 例えば、懲戒処分の有効性を判断するうえでの基準となる労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る…

中途採用・転職の場面で、どこまで話を盛ってよいのか(内定取消の適法性)

1.経歴詐称の境界線 職務経歴の詐称は解雇理由になることがあります。 しかし、多かれ少なかれ採用面接の場面で職務経歴を「盛る」ことは、それほど珍しいことではありませんし、「盛る」ことは全て不適法だとされているわけでもありません。 それでは、法…

非弁業者による退職代行を避けた方が良いケース-退職金がある場合

1.退職代行と弁護士法72条 退職代行というサービスがあります。 法令用語ではないため、正確な定義はありませんが、雇用契約の解約の申入れの意思表示を媒介するサービスだと理解しています。 退職代行は弁護士以外にも、株式会社などで広く行われていま…

業務用端末からの労働相談は要注意-勤務先が閲読する可能性がある

1.業務用端末からの労働相談 執務事務所のホームぺージに、インターネット無料法律相談というコーナーを設けています。 https://shishikado.jp/flow/web-c/ 私が労働事件を重点的な取扱い分野としていることもあり、寄せられる相談の中には労働問題に関す…

タイムカード打刻代行

1.タイムカードを打刻させられてからの残業 残業代を踏み倒すための古典的な手口として、個々の労働者にタイムカードを打刻させたうえで残業させるという方法があります。 こうして残業がない体裁を装いつつ、サービス残業を強要します。タイムカードに不…

不活動仮眠時間の労働時間性-指示された仮眠は業務ではないのか?

1.不活動仮眠時間の労働時間性 仮眠が許されている時間であることは、その時間帯が労働時間でないことを当然に意味するわけではありません。 「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる」と理解され…

いい加減な過半数代表

1.過半数代表 労働基準法36条1項は、従業員に時間外労働や休日労働を命じるためには、 「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書…

不明確な服務規律への違反を理由とする懲戒処分の有効性

1.服務規律の明確性の問題 就業規則を見ていると、懲戒事由が「服務規律に違反する行為」といったように漠然とした形で規定されていることが少なくありません。こうした場合、「服務規律」自体も抽象的であったり不明確であったりすると、ケチをつけようと…

被告欠席の場合、付加金は原告の請求通りに認定されるのか?

1.欠席判決 裁判所から訴状や期日への呼出状が届いたのに、これを無視していると、原則として原告の言い分通りの判決が言い渡されることになります。被告の言い分はないものとして取り扱われるからです。 このような判決を、俗に欠席判決といいます。 (参…

「残業好き」の人たちはフリーランスになればよいのではないだろうか

1.「残業好き」の人たちと働き方改革 ネット上に、 「『残業好き』の人たちにとって働き方改革とは何なのか?」 という記事が掲載されていました。 https://news.yahoo.co.jp/byline/yokoyamanobuhiro/20200207-00162075/ 記事の著者は、 「働き方改革は、…

執筆に参加した書籍のご紹介、固定残業代でお困りの方へ

第二東京弁護士会労働問題検討委員会『働き方改革関連法 その他重要改正のポイント』〔労働開発研究会、第1版、令2〕という書籍が、本日、弁護士会館で先行販売されました。 この書籍は、 第1部 長時間労働の是正と多様な柔軟な働き方の実現等に関する法…

旧職場からの従業員の引き抜き-旧職場に事業運営上の支障が生じることの認識

1.違法性の存否に主観面が与える影響 競業や従業員の引き抜き行為が行われる時、行為者の主観面が違法性の認定にどのような影響を与えるのかという問題があります。 端的に言うと、客観的に大したことが行われていなくても、旧職場に事業運営上の支障が生…

引用報道と個人の人権(NGT裁判)

1.陳述書、準備書面の引用による報道(NGT裁判) ネット上に、「『山口真帆が住所を教えてくれた』犯人側あらためて主張の根拠《NGT裁判速報》」という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200203-00031620-bunshun-…

セクハラ・アカハラの成立に故意・過失等は不要? 東京高裁「知らなかったでは済まされないのが普通」

1.セクハラ・アカハラの成立に故意・過失は必要か? 以前、 「セクハラの弁解をするときに注意すること-自分の知的能力を過信してはダメ」 という表題で、セクハラで懲戒処分を受けた大学教授の事件をご紹介しました(東京地裁平31.1.24労働判例ジ…

問題視されていなかった遅刻・勤務時間中の私的活動-後になって賃金を返せと言われたら

1.残業代請求に対する報復 残業代を請求すると、使用者側から多彩な反論が寄せられることが少なくありません。その中の一つに、遅刻した分、サボっていた分の給料を返せという主張があります。 それまで特に問題視されていなかったことが突然問題視されて…

会社から損害賠償請求を受けた労働者の方へ-過失の存在が認められながら損害賠償責任の発生が否定された事例

1.会社から労働者に対する損害賠償請求 労働者が仕事で何等かのミスをして会社に損害を与えた場合、労働契約上の義務の不履行により損害を被ったとして、会社が労働者に対して損害賠償を請求することがあります。 しかし、会社が労働者に対して損害賠償を…

パワハラの慰謝料(学歴を揶揄する発言等)

1.学歴を揶揄する発言等に対する慰謝料 令和2年1月15日、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省告示第5号)が告示されました。 https://www.no-harassment.mhl…

精神疾患の発症がなくても長時間労働は労働者の人格的利益を侵害する

1.長時間労働と慰謝料 昨年10月、精神疾患の発症がなかったにもかかわらず、長時間労働を理由とする慰謝料請求が認められた事案が話題になりました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191004-00000104-kyodonews-soci 報道にあるとおり、疾患の発…