弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

部下による梯子外し・手の平返しはハラスメントか?

1.梯子外し・手の平返し

 行き掛かり上、仕方なく、相性の悪い相手とチームを組んで働くことがあります。これは結構ストレスの溜まることではないかと思います。

 特に、事前に相談して仁義を切っておいたはずなのに、上司・先輩からダメ出しをされるや「実は私は反対だった。」などと梯子を外されることに対しては、強い不快感を覚える人も少なくないのではないかと思います。

 こうした梯子外し・手の平返しがハラスメントに該当するかが争われた事件が、近時公刊された判例集に掲載されていました。

 札幌地判令元.10.30労働判例ジャーナル1214-5 学校法人北海道カトリック学園事件です。

2.学校法人北海道カトリック学園事件

 本件で原告になったのは、定年後再雇用されて幼稚園の年少組(B組)の補助担任業務に就いていた方です。

 被告になったのは、上記幼稚園を設置していた学校法人です。

 原告は、B組の担任業務に就いていたCに対してハラスメントを行ったとして、雇止めを受けました。これに対し、雇止めは無効であるとして、被告学校法人に対し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では被告から9項目のハラスメント行為が指摘されました。

 そのうち2項目が梯子外し・手の平返しと捉えられるもので、裁判所では次の事実が認定されています。

「同年5月の子どもの日の前頃、Cは原告に対し、A幼稚園における鯉のぼり制作に関し、鯉のうろこを両面に貼るか片面に貼るかを相談した。その際、原告は、片面でよいと思うとの話をしたが、Cが原告とともにD園長に制作内容を報告すると、同人から見栄が悪いので両面に貼るようにとの指導を受けた。すると、原告は、私もそう思ってた、との発言をした。」(鯉のぼり制作)

「同年5月下旬頃、Cは、運動会の親子競技の内容について原告に相談していたところ、Cは、原告から渡された資料を基に原告と競技内容を検討し、テーマや内容についてD園長に報告すると、既に動物をテーマとした年中組と被ることや人手が多くなってしまうやり方について再考するように指示された。これを聞いた原告は、Cに対し、だから言ったでしょう、などと発言した。」(運動会の協議内容)

 本件では、こうした行為がハラスメントにが該当するかが争われました。

 裁判所は次のように述べて、ハラスメントへの該当性を否定しました。

(裁判所の判断)

-鯉のぼり制作について-

「鯉のぼり制作に関する原告の言動は、Cとの事前の打ち合わせで鯉のぼりの片面にうろこを貼ると決めていたにもかかわらず、D園長により両面に貼るようにとの指示を受けると、その意見に追従するものであり、Cにおいて、あたかも原告が本心ではCの意見に反対であったとの言動をして自己保身を図り、上司の前で態度を翻されたなどと受け止められかねない言動ではある。」

「しかしながら、原告とCとの打ち合わせ時の具体的な経緯や内容は明らかではなく、また、原告がD園長の指導内容を踏まえてその内容に賛意を示したにすぎないと考えることもできるのであるから、かかる発言をもって、原告が自己の責任を回避しCに責任転嫁するものと評価することも困難であって、ハラスメントと認めることはできないというべきである。」

-運動会の協議内容について-

「運動会の協議内容について、CがD園長と教務主任から再考するように指示された際に、原告が、だから言ったでしょう、などと発言したことは・・・Cにおいて、原告の自己保身からの言動により上司の前で態度を翻されたと受け止められかねない言動といえる。しかしながら、原告とCとの打ち合わせ時の具体的な経緯や内容は明らかではないこと、原告はD園長らの指導内容を踏まえ、その内容に賛意を示したにすぎないと考えることもできることからすると、かかる言動をもって、原告が自己の責任を回避したりCに責任転嫁するものと評価することも困難であって、ハラスメントと認めることはできないというべきである。」

3.腹も立つし、ストレスの溜まることだとは思われるが・・・

 こうしたことが積み重なって、本件のCは欠勤するようになり、結局、被告を退職することになりました。

 原告を雇止めにしたのは、退職者まで出してしまったため、学校法人としても看過できなかったのではないかと思います。

 しかし、裁判所は、

「原告のCに対する言動には、ごく短期間のうちに、適切とは言えずややもすると配慮に欠けるものが何度かあったことは否定できない。」

としながらも、雇止め事由として認めるには至らないとし、地位確認請求を認容しました。

 定年後再雇用される方が増えると、部下の方が上司よりも年齢・経験が上であるというケースも増えることになります。それに併せて、本件のような、部下からのハラスメントが問題になる事案は、今後目立ってくる可能性があるのではないかと思います。

 本件は不法行為に関するものではありませんが、ハラスメントとそうではない行為との限界事例として、実務上の参考になる事案だと思います。