弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

被告欠席の場合、付加金は原告の請求通りに認定されるのか?

1.欠席判決

 裁判所から訴状や期日への呼出状が届いたのに、これを無視していると、原則として原告の言い分通りの判決が言い渡されることになります。被告の言い分はないものとして取り扱われるからです。

 このような判決を、俗に欠席判決といいます。

(参考:愛知県弁護士会HP)

https://www.aiben.jp/soudan/soudannaiyou/saibansyo/

2.欠席判決では何でも原告の言い分通りになる?

 欠席判決では、被告の言い分がないものとして取り扱われるため、基本的には原告の言い分通りの判決が言い渡されます。

 しかし、何でもかんでも原告の言い分通りになるかといえば、そういうわけでもありません。

 例えば、違法な勧誘行為によって必要のない宝石類を買わされたという消費者被害に関する事案で、原告となった被害者が、財産的損害に加えて慰謝料を請求した事件がありました(東京地判平19.6.1LLI/DB判例秘書登載)。

 この事案では、被告欠席のまま判決が言い渡されましたが、裁判所は、

「原告らは、本件勧誘行為により必要のない宝飾品の購入や代理店契約の締結をさせられた上多額の借財を負担させられ、不安な日々を過ごすという精神的苦痛を受けたことが認められるが、これらの損害は、財産上のものであるから、特段の事情のない限り、財産的被害の回復を受けることにより填補される関係にあると考えられるところ、財産的被害の回復のみでは原告らの精神的損害が填補されないと認めるに足りる特段の事情は特に窺えないから、原告らの慰謝料請求は認められない。」

と慰謝料請求を棄却しました。

 被告が欠席する場合、裁判所は、主要事実の認定を原告の主張に拘束されることになりますが、それ以外の法解釈の部分まで拘束されるわけではありません。この事件の裁判所は、慰謝料が発生するかどうか、するとしてその金額を幾らと評価するのかを、事実認定というよりも、法解釈に近いものとして位置付けたのだと思います。

3.付加金はどのように理解されるのか?

 それでは、労働事件における付加金はどのように理解されるのでしょうか?

 付加金は労働基準法114条に根拠のある制度で、

「使用者が、解雇の際の予告手当(労基20条)、休業手当(同26条)もしくは時間外・休日・深夜労働の割増賃金(同37条)の支払義務に違反した場合または年次有給休暇中の賃金(同39条7項)を支払わなかった場合には、裁判所は、労働者の請求により、それらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命じることができる」

とする仕組みです(菅野和夫『労働法』〔弘文堂、第12版、令元〕191頁)。

 付加金の支払の要否及び額に関しては、

「裁判所は、使用者による同法違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等諸般の事情を考慮して支払義務の存否及び額を決定すべきもの」

と理解されています(前掲文献192頁)。

 こうした理解からすると、被告欠席の場合の付加金の要否及び額に関しては、訴状の記載から認定される事実関係をもとに、労基法違反の程度・態様等を評価し、裁判所が裁量的に判断するということになりそうに思えます。

 しかし、近時の公刊物に、被告欠席の場合の付加金の要否及び額について、比較的ラフに原告の言い分通りの金額を認めた裁判例が掲載されていました。

 東京地判令1.7.14労働判例ジャーナル94-84 オフィスサーティー事件です。

4.オフィスサーティー事件

 本件は、タレントのマネジメントを業とする株式会社である被告に勤務していた方が、残業代と付加金を請求した事件です。

 被告欠席のまま判決が言い渡されましたが、裁判所は次のとおり述べて、付加金の全額(原告の計算ミス分を除く)を認容しました。

(裁判所の判断)

「被告は、これまで原告に対して時間外労働等に対する割増賃金を一切支払っていない上、本件訴訟において出頭も答弁書その他の準備書面の提出もせず、割増賃金を支払わない理由を何ら明らかにしないことに照らすと、被告の割増賃金の未払は悪質であるというほかないから、原告が付加金請求の対象とする平成29年1月支払分から同年10月支払分までの割増賃金と同額の307万1067円(所定休日労働に対する賃金は含まない。)の付加金の支払を命ずるのが相当である。

5.認容されても回収は大変であろうが・・・

 被告が欠席するのは、応訴するだけの経済力がないからである場合が多いため、回収には難渋するかもしれません。

 また、本件では割増賃金を一切払っていない事実も考慮されており、単純に欠席したからということで判断が出ているわけではありません。

 しかし、裁判所に出てきて真面目に言い分を尽くさなかったことを悪質性の根拠としたうえ、付加金の全額を認容するという判断が出されたことは、労働側にとって一定の意味のある判決であるように思われます。