1.特任教員の雇止め
少し古い(平成30年5月20日掲載)ですが、
「大学教員、半数は非常勤 常勤も4分の1が『期限付き』」
という記事があります。
https://www.asahi.com/articles/ASL5M54SBL5MUTIL00Z.html
記事には、
「全国の大学の教員のうち約半数は非常勤で、常勤の専任教員も約4分の1が『特任』『特命』などの形で任期付き雇用となっていることが、朝日新聞と河合塾の共同調査『ひらく 日本の大学』で分かった。」
などと記載されています。
非常勤・任期付きの大学教員の増加に伴い、こうした方々の雇止めに関する紛争が判例集に搭載される頻度が上がっているように思います。
近時の公刊物に掲載されていた、札幌高裁令元.9.24労働経済判例速報2401-3 学校法人Y大学事件もその一つです。
2.学校法人Y大学事件
この事件で原告(控訴人)になったのは、平成22年4月1日に被告大学(被控訴人)との間で雇用期間を1年間とする特任教員の方です。
平成22年4月1日から平成25年3月31日までは外国語学部ロシア語学科の、平成25年4月1日から平成29年3月31日までは地域創生学群のロシア語専行の特任教員を務めていました。
平成29年3月31日をもって被告大学から雇止めを受けたため、その効力を争って地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
原告は、
平成22年の採用時に末永く働いてもらうという目的を掲げて採用人事を進めら
れた、無期転換権(労働契約法18条1項)を阻止するための雇止めである、
などと主張して雇止めの効力を争いました。
しかし、一審は労働契約の更新を期待することについて合理的な理由があったということはできないとして、原告の請求を棄却しました。
これに対し、原告が控訴したのが本件です。
高等裁判所は、次のとおり述べて、原告の請求を棄却しました。
(裁判所の判断)
(1)平成22年当時の被告の採用方針との関係について
「控訴人は、本件労働契約の更新を期待することの合理的な理由の有無を判断するに当たっては、平成22年当時、被控訴人大学の卒業生の中から優秀な人材を採用すること、学生のために、末永く働いてもらうという目的を掲げて採用人事を進めたこと等の採用の経緯も考慮すべきである旨主張するようである。」
(中略)
「しかし、・・・仮に上記採用方針があったとしても、具体性を欠いており、本件労働契約の雇用満了時(平成29年3月31日)における更新の期待について合理的理由とはならない。」
(2)無期転換権逃れとの指摘について
「原告は、被告が、原告を非常勤講師としても雇用しないとした理由は、原告と被告との間の労働契約が期間の定めのないものに転換することを阻止するためであり、このような扱いは労働契約法8条1項の適用を潜脱することになる旨をも主張する。」
「しかしながら、いかなる者を非常勤講師として採用するかは、被告の判断に委ねられる事項である。」
「また、A20副学長は、雇用の固定化を防止するため、原告を非常勤講師としても採用できない旨のメッセージを送信しているが・・・他方で、教育研究の活性化及び高度化のため、教員の流動性を高めることが要請されている現状・・・にも鑑みれば、労働契約法18条1項により、期間の定めのない教員としての雇用義務が被告に生じる前の段階で、当該教員の雇用継続を打ち切ることも、被告の採用の自由の範囲内に属する判断として尊重されるべきである。」(一審の判断が維持)
3.抽象的な言葉は、あまり真に受けない方がよい
有期労働者の採用にあたっては、「末永く働いてもらいたい」「長く働いてもらいたい」と言いったように、使用者側から雇用の安定をにおわされることがあります。
しかし、そうした言葉を真に受けても、裁判所は具体性が低い話をあまり重視しない傾向があるように思われます。
無期転換権が発生しないようにするための更新拒否を適法と判断する裁判体もあることからすると、採用時の話はリップサービス程度に受け取っておいた方がよく、非正規の大学教員の方は、在職中から常に転職のアンテナを張っておくなど、契約の打ち切りに備えておく必要があるのだろうと思います。