弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務用端末からの労働相談は要注意-勤務先が閲読する可能性がある

1.業務用端末からの労働相談

 執務事務所のホームぺージに、インターネット無料法律相談というコーナーを設けています。

https://shishikado.jp/flow/web-c/

 私が労働事件を重点的な取扱い分野としていることもあり、寄せられる相談の中には労働問題に関する相談も含まれています。

 その中で気になっているのが、稀に、業務用端末ではないかと思われるアドレスから送られているメールがあることです。

 メールでの相談を受け付けている法律事務所はそれなりにあると思いますが、当事務所への相談に限ったことではなく、業務用端末から労働問題についての法律相談を行うことには慎重になった方がいいと思います。

 勤務先が見る可能性があるからです。

2.ジャパンビジネスラボ事件(控訴審)

 近時の裁判例に絡めて言うと、例えば、1か月ほど前、職場での録音の可否に絡めて、ジャパンビジネスラボ事件(東京高判令元.11.28労働判例ジャーナル94-1)という事件をご紹介しました。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/01/21/004408

 これは、ごく大雑把に言えば、育休明けに正社員から雇用期間1年の契約社員になった方が雇止めにあった事件です。この事件は、労働経済判例速報という雑誌の2020年2月10日発行の号にも掲載されています(労働経済判例速報2400-3参照)。

 たくさんの争点がある事件ですが、会社による不法行為の成否を判断している部分に、次のような記述があります。

「一審被告(使用者 括弧内筆者)が、一審原告(労働者 括弧内筆者)に付与した業務用のメールアドレスに送信された一審原告宛てのメールを閲読し、そのメールを送信した社外の第三者に対し、一審原告が就業規則違反と情報漏洩のたえ自宅待機処分となった旨を記載したメールを送信したことが認められる。」

「一審被告は、一審原告が録音禁止の命令や指導に従わず、誓約書も撤回すると述べたことなどから、情報漏洩の観点から、一定期間、上記メールアドレスへのアクセスを禁止したものであり、その期間に上記メールアドレスに送信されたメールを一審被告が閲読することについては、業務上の必要性があるが、少なくとも就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった事実は、一般的には他人に知られたくない情報であって、これを社外の者らに伝える必要性はないから、たとえ、相手方が一審原告が就業時間内に上記メールアドレスを使用してやり取りをしていたマタハラNet 関係者らであったとしても、その情報を伝えることは、一審原告のプライバシーを侵害する行為であることに変わりがない。」

3.「業務上の必要性」によってメールを閲読される可能性がある

 勤務先が用意した業務用端末・業務用メールアドレスである以上、ネット・メールの接続環境を操作されることにより、メールの内容が勤務先に明らかになることは当然考えられます。

 プライバシーに渡る事実を必要もないのに第三者に伝えることは問題ですが、使用者の行為が「業務上の必要性」がある場合にモニタリングするだけに留まっている場合、適法と理解される可能性は十分にあると思います。

 また、ジャパンビジネスラボ事件控訴審判決では、次の事実も認定されています。

一審原告が業務用として使用していた上記パソコンの『ゴミ箱』から削除されたメールを復元するなどしたところ、・・・就業時間内に一審原告が本件組合又は弁護士らに相談する内容を下書きしたメール・・・や、マスコミ関係者とやり取りしたメール・・・が発見された。

 廃棄したと思っていても、いざ紛争になるとメールは復元される可能性があります。

 業務用端末の可能性のありそうなアドレスからの相談に対しては、基本、回答用に別のアドレスを指定するように返信し、そちらに回答するようにしてます。

 しかし、外部の法律事務所に相談をしていることを知られること自体、具合が悪いことはあるでしょうし、メールには復元の可能性があります。相談内容が勤務先に把握されることは、一般的には好ましいことではありません。依頼者・相談者-弁護士の意思疎通が紛争の相手方に筒抜けになっては、本来勝てる勝負であっても、勝てるかどうか怪しくなります。

 業務用端末の可能性のありそうなアドレスからの相談は少数ではあるものの、労働事件に関する相談は業務用端末からはしないことをお勧めします。