弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

就業時間中の無許可副業においても懲戒解雇事由に該当するというためには業務への具体的支障を要するとされた例

1.無許可兼業/無許可兼職/無許可副業

 平成30年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました。このガイドラインは令和2年9月、令和4年7月と改定され、現在に至っています。

副業・兼業|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf

 ガイドラインの名称からも分かるとおり、働き方改革以降、厚生労働省は副業・兼業を推し進める立場を採用しています。

 しかし、従来、本邦の企業の多くは副業・兼業に消極的な立場をとっていました。働き方改革以降、副業・兼業を認める企業も増えてきてはいますが、それでも許可制を採用するなど、一定の制約をかけている例が多いのではないかと思います。

 許可制が敷かれている場合、無許可兼業は懲戒処分の対象になります。

 ただ、名古屋地判昭47.4.28判例タイムズ280-294が、

「元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。

と判示されていることからも分かるとおり、懲戒処分の対象となる無許可兼業は企業秩序への影響や労務提供に支障を生じさせるものに限定する理解が有力でした。

 それでは、この理は、職務専念義務とのハイブリッド型の兼業・副業にも妥当すると考えて良いのでしょうか?

 通信機器の発達により、現在では情報端末から様々な業務を行うことができます。会社にいながら業務時間中に兼業・副業を行うことも可能です。このような現代型の兼業・副業に対しても、名古屋地裁の判決に見られるような伝統的な考え方が妥当するのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京高判令7.3.27労働判例1336-5東京高判令7.3.27 東京地判令5.9.21労働判例1336-15 福住不動産事件です。

2.福住不動産事件

 本件で被告(控訴人)になったのは、宅地建物取引業等を目的とする株式会社です。

 原告(被控訴人)になったのは、被告との間で雇用契約を交わしていた方2名です(原告X1、原告X2)。被告から懲戒解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件で被告が主張した懲戒事由は多岐に渡りますが、その中の一つに無許可での副業がありました。被告側の主張は次のとおりでした。

(被告の主張)

「原告X1は、被告で就労していた際、勤務時間中であるにもかかわらず、被告の許可なく、業として、自らが仕入れた医薬品、化粧品、健康食品及びハンドバッグ等の日本製の商品を『B』と称されるインターネット上のグループチャットを用いて中国人向けに輸出・販売するという副業を行った。このうち、医薬品等の販売は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下『薬機法』という。)はもとより、中国の法令にも違反するものである。」

 これは被告の就業規則の2条2項に、

① 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと

③ 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと

との服務規律があったことに対応します。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥しました。なお、結論としても、懲戒解雇は無効とされ、被告側の控訴も棄却されています。

(裁判所の判断)

「前記第2の2の前提事実及び前記1の認定事実・・・によれば、原告X1は、被告に入社した後、本件グループチャットを主催して中国人相手に日本製品の購買の仲介(本件取引)を行うようになり、上記のグループには最大で386人のメンバーが参加していたこと、平成29年3月末から同年12月までの間の本件取引に係る商品の購入費用と購買者からの入金との差額は820万円であったこと、原告X1は、本件取引を被告における就業時間中に被告から支給された業務用のパソコンを利用して行うこともあり、また、本件グループチャット内で被告の不動産事業や民泊事業の宣伝や営業を行うこともあったことが認められる。以上のとおり、原告X1が行っていた本件取引は、その規模、売上金額等に照らし、知人間の私的なやり取りといった範囲を超えるものと認められ、また、被告の業務と直接的に関連する業務であったものではないにもかかわらず、就業時間中に被告から支給された業務用パソコンを使用して行われていたものであるから、これを副業と称し得るか否かの判断は措くとしても、少なくとも、原告X1が本件取引に関与したことは、就業規則2条2項①、③及び⑥に違反するものといわざるを得ない。

「これに対し、原告X1は、Pが作成した本件取引の記録・・・は把握しておらず、Pからは送料相当額の支払を受けていたにすぎず、本件取引から利益は得ていない旨を供述するが・・・、前記・・・の事情に照らし容易に採用することができない。」

「また、原告X1は、本件取引は、勤務時間外や休日とされていた水曜日に行われており、勤務時間中に本件取引は行っていない旨を供述するが・・・、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件雇用契約1において休日とされていた水曜日以外の日の勤務時間中にも本件取引に関与していたことが認められ、また、前提事実等によれば、本件グループチャット上で被告の事業についての宣伝や営業も行っていたことも併せれば、原告X1が本件取引を行っていた日ないし時間帯が被告の勤務時間外や休日に限られていたとは認め難く、原告X1の上記供述は容易に採用することはできない。」

「さらに、原告X1は、Bの利用はAも容認していた旨を主張する。しかしながら、前提事実等によれば、Aが原告X1によるBの利用を容認していたのは、BのSNS機能を使って被告の事業の宣伝や営業を行うことに関してであったことが認められるし、もとより、本件取引は被告の業務とは無関係の事柄である以上、原告X1が本件取引のため勤務時間中にBを使用することをAが容認していたというのは不自然、不合理といわざるを得ない。したがって、原告X1の上記主張は採用することができない。」

「そこで、原告X1が本件取引に関与していたことが就業規則18条2項所定の懲戒解雇事由を構成するか否かについて更に検討するに、前記・・・のとおり、原告X1の本件取引への関与は、就業規則2条2項所定の従業員の遵守事項に違背するものと認められるが、一方で、本件全証拠を子細にみても、原告X1が被告における就業時間のうちのどの程度の時間を本件取引に充てていたかは必ずしも明らかではなく、また、原告X1が本件取引に関与したことによって被告の業務に具体的な支障が生じ、あるいは被告の企業秩序を著しく乱したなどといった特段の事情も見い出し難いこと、原告X1において本件懲戒解雇1に先立って懲戒処分を受けた形跡もないことなどの事情を総合すれば、原告X1の上記の所為が就業規則18条2項⑥、⑫及び⑭の懲戒解雇事由に該当するとまでは認め難いものというべきである。

「これに対し、被告は、本件取引の中には日本及び中国において私的な売買が許されていない違法な医薬品の取引が含まれており、これだけでも懲戒解雇とするに相当である旨を主張するので検討するに、薬機法24条1項は、薬局開設者又は医薬品販売業の許可を受けた者でなければ、業として医薬品を販売等することはできない旨を規定し、同規定に違反した場合は刑事罰の対象となる旨を定めている(同法84条9号、90条)。しかして、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件取引において、薬機法によって無許可の販売が規制されている医療用医薬品である『モーラステープ』(湿布様の経皮鎮痛消炎剤)を大量に取り扱っていたことが認められるが、本件全証拠を子細にみても、当該取引に至った具体的な経緯や原告X1が当該取引によって受けた経済的利益の内容のほか、上記以外に販売した規制医薬品の量や種類の詳細といった事情は必ずしも明らかではないものといわざるを得ず、そうすると、原告X1が業として薬機法が規制する医薬品の売買に従事していたことが明らか(就業規則18条2項⑥参照)であるとまでは断じ難いものといわざるを得ない。また、原告X1が規制医薬品の販売に関与したことによって被告の業務に具体的な支障が生じたとも認め難いことは前示のとおりである。以上によれば、本件取引の中に違法な医薬品等の取引が含まれていたことをもって直ちに原告X1につき就業規則18条2項⑥、⑫及び⑭所定の懲戒解雇事由が存するとまでは認め難く、被告の上記主張は採用することができない。」

「以上によれば、原告X1が本件取引に携わっていたことが就業規則18条2項所定の懲戒解雇事由に該当する旨の被告の主張は採用することができない。」

3.就業時間中の副業でも業務への具体的な支障に力点が置かれた

 以上のとおり、裁判所は、他業務が就業時間中に行われたことを認めながらも、業務への具体的な支障が生じた事実を認定できないことに触れたうえ、懲戒事由該当性を否定しました。

 上述の判示部分は控訴審でも改められることなく維持されています。

 軽微な懲戒処分であればともかく、やはり具体的な問題も生じていないのに懲戒解雇を行うのは無理があるように思われます。裁判所の判断は、同種事案に取り組むにあたり、実務上参考になります。