1.準拠法の選択
法の適用に関する通則法7条は、
「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」
と規定しています。
「法律行為」には労働契約も含まれ、労働者と使用者は自分達に適用される法律として外国の法律を選択することができます(労働者は法の適用に関する通則法12条の定める特例によって保護されることがありますが、それはまた別の話です)。
日本人が日系企業で働く場合には特段の問題は生じませんが、外資系の会社で働く場合、労働契約が日本の法律で規律されるのかどうかが問題になることがあります。ここで仮に日本の法律が適用されないとなると、外国法の法律実務に通暁しているわけではない一般的な日本の弁護士が独力で事件処理を担当することは事実上不可能になります。具体的に言うと、外国法の解釈適用に精通した学者に鑑定等を依頼しなければならなくなるため、裁判に要する費用が格段に上がることになります。したがって、日本の法律が適用されるのかどうかは、事件化を考える労働者にとっては、死活問題といえるほどの重要性を持つことになります。
日本で法律実務を担っている労働者側の弁護士としては、日本法の適用範囲が広い方が好ましいのですが、近時公刊された判例集に注目すべき裁判例が掲載されていました。東京地判令5.9.11労働判例1335-22 中華航空事件です。何に目を引かれるのかというと、就業規則の「労働基準法その他法令の定めるところによる」という文言を根拠として、準拠法として日本法が選択されていると認定されたことです。
2.中華航空事件
本件で被告になったのは、旅客運送、貨物運送等を主な目的とする中華民国法に準拠して設立された外国法人です。
原告になったのは、被告と有期雇用契約を交わし、日本・台湾間の国際旅客便で客室乗務員として働いていた方です。
雇止めの適否を争って地位確認等を請求するとともに、台湾本社で実施された初期訓練中に被告から支払われた手当と最低賃金法との差額等を請求したのが本件です。
本件では当事者に適用される法律が日本法なのか台湾法なのかが問題になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、準拠法は日本法だと判示しました。
(裁判所の判断)
「本件各労働契約に関して最低賃金法の適用の有無を判断するに当たり、被告が中華民国法を準拠法として設立された台湾法人であることから、まず、原告らと被告との間の本件各労働契約の準拠法について検討する。」
「前記・・・の前提事実及び前記・・・の認定事実(以下、これらを併せて『前提事実等』という。)によれば、原告らと被告は、本件各労働契約において、契約書に定めのない事項は本件就業規則に従う旨を合意したこと、本件就業規則は、この規則に定めのない事項については、『労働基準法その他法令の定めるところによる』と定めていること(同規則1条2項)が認められる。しかるところ、本件各労働契約が日本において締結されたものであること、本件就業規則は、被告が日本において雇用する有期雇用客室乗務員に適用されるものとして定められていること(同規則1条1項)に照らすと、本件就業規則1条2項所定の『労働基準法その他法令の定めるところによる』という規定は、日本の労働基準法その他法令を意味するものと解するのが整合的であり、他方で、原告らと被告との間で、本件各労働契約に係る準拠法について中華民国法等、日本法以外の国や地域の法律を選択したことをうかがわせる的確な証拠はない。」
「以上によれば、原告らと被告は、本件各労働契約の締結当時、当該労働契約が日本法により規律されるとの意思を有していたものといえるから、これらの労働契約の成立及び効力についての準拠法として日本法を選択したものと認められる。」
3.定型文言に近い文言で日本法を選択したと認められた
就業規則上の「労働基準法その他法令の定めるところによる」という文言は定型文言のようなもので、深慮遠謀のもとで書かれているようには思えません。それでも、裁判所は、この規定を手掛かりとして、準拠法として日本法が選択されていたと認定しました。
裁判所の判断は外資系の会社で働く日本人が日本法のもとで救済を受ける範囲を広く捉えるものとして、実務上参考になります。