弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

執筆に参加した書籍のご紹介、固定残業代でお困りの方へ

 第二東京弁護士会労働問題検討委員会『働き方改革関連法 その他重要改正のポイント』〔労働開発研究会、第1版、令2〕という書籍が、本日、弁護士会館で先行販売されました。

 この書籍は、

第1部 長時間労働の是正と多様な柔軟な働き方の実現等に関する法改正

第2部 正規・非正規雇用労働者の待遇格差の是正

第3部 外国人と労働-入管法改正

第4部 その他法改正等(民法改正・ハラスメント防止対策関係)

第5部 最新判例の紹介

の5部構成になっています。

 私は第5部の

「固定残業代に関する近時の裁判例の動向」

という部分の執筆を担当しました。表題通り、近時の固定残業代に関する裁判例の動向をまとめた内容になっています。

 固定残業代とは、

「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」

をいいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。

 固定残業代には、残業代部分が基本給に組み込まれているタイプ(基本給組込型)と手当の形で支給されるタイプ(手当型)があります。基本給組込型にしても、手当型にしても、一定の要件のもとで残業代の支払としての有効性が認められています。

 しかし、固定残業代は使用者にとって損でしかない仕組みです。

 残業時間が予定された時間に満たなくても固定残業代部分の賃金を支払わなければならない反面、実労働をもとに計算した残業代が固定残業代を上回っている場合には、その差額を労働者に支払わなければならないからです。また、固定残業代を導入したところで、使用者は労働者の労働時間を把握する責務から解放されるわけでもありません。

 つまり、経済合理性の観点からは、固定残業代を導入するメリットはありません。

 そのため、固定残業代の導入の背景には、法の趣旨にそぐわない意図があることが少なくありません。

 固定残業代を含んだ額を給料として求人広告に掲載して見かけ上の労働条件を良くするだとか(※)、過労死しかねない水準の労働時間を想定した制度設計にして事実上労働者を定額働かせたい放題にするといったことが典型です。

 また、下級審の裁判例を含めると、固定残業代に関する判例法理は複雑な様相を呈していて、有効要件に疑義のある固定残業代は相当数眠っているのではないかとも思います。

 今回の書籍の執筆を通じて知見を蓄積したこともあり、固定残業代に関する問題には、弁護士の中でも、かなり詳しい方ではないかと自負しています。

 働いている中で固定残業代に関して違和感を持たれている方は、ぜひ、一度、ご相談を頂ければと思います。

 

※ 募集段階での労働条件の明示に関しては、

「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号 最終改正 平成 31年厚生労働省告示第122号)」

という告示があり、ここで職業紹介事業者等は、

「賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること。また、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする労働契約を締結する仕組みを採用する場合は、名称のいかんにかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金(以下・・・「固定残業代」という。)に係る計算方法(固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(以下・・・「固定残業時間」という。)及び金額を明らかにするものに限る。)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること」

とされたため、今後は多少は分かりやすくなると思います。