弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

受診命令への対応-自分の選んだ医師の診断書で代用できるか/受診だけではなく検査や治療まで必要か

1.受診命令 メンタルヘルスに問題があるのではないかと疑われ、医師の診断を受けるように命令されることがあります。 もし病気だと診断されたら不利なレッテルを貼られてしまうのではないかという思いから、受診命令に応じて医療機関を受診することに抵抗…

独り言に注意-意外と使用者は記録化している

1.案外問題になる独り言 仕事中に独り言をつぶやく方がいます。 物理的に他人に害を与える行為ではないためか、甘く見ている方は少なくない印象がありますが、裁判例でもしばしば問題になります。 どのような形で問題になることが多いのかというと、精神疾…

自由な意思の法理の適用例-説明の立証がないとして趣旨の不明瞭な合意書の効力が否定された例

1.趣旨の不明瞭な条項の文言 契約書の中に、趣旨の不明瞭な条項、多義的な条項、曖昧な条項が存在していると、その解釈をめぐって紛争が発生することがあります。 このような場合、民法的な観点からは、当該条項が作られるに至った経緯を丁寧に紐解き、契…

親会社から資金供給を停止されたことを理由とする休業と民法536条2項の「責めに帰すべき事由」

1.休業手当の限度? 賃金全額? 労働基準法26条は、 「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」 と規定しています。 このルールに基づい…

懲戒免職処分を受けた公務員の退職手当-一般労働者との均衡を考慮すべきとされた例

1.懲戒免職処分を受けた公務員の退職手当-民間との違い 民間の一般労働者の場合、懲戒解雇された労働者であっても、退職金が全額不支給となる場面は限定されています。退職金の全額不支給が適法と認められるのは「当該非違行為がその労働者の過去の功労を…

管理運営事項と行政措置要求の対象としての適格性Ⅲ

1.行政措置要求 公務員特有の制度として「行政措置要求」という仕組みがあります。 これは、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われ…

解雇された派遣社員の就労意思-他の派遣会社に登録して遠隔地で従前と同水準以上の収入を得ても就労意思が否定されなかった例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

解雇が無効であることを認識していれば退職しなかったとの錯誤主張が通った例

1.解雇が無効だと知っていたら退職しなかった 退職勧奨の場面で、使用者から解雇権の行使を示唆されることがあります。こうした示威行為を受け、「(有効に)解雇されてしまうくらいであれば・・・」と思って合意退職してしまう方や、辞職の意思を表示して…

旅費交通費が割増賃金の算定基礎賃金になるとされた例

1.旅費交通費と割増賃金の算定基礎賃金との原則的な関係 労働基準法37条1項は、 「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労…

コロナ禍での整理解雇-手続の妥当性のみで効力が否定された例

1.整理解雇 使用者が経営上の必要性から人員削減を行うためにする解雇を、整理解雇といいます。整理解雇については、一般の解雇と比べてより具体的で厳しい制約を課す判例法理が裁判例上形成されています(整理解雇法理)。 整理解雇法理は、①人員削減の必…

懲戒解雇するつもりもないのに、懲戒解雇されると誤信している労働者に退職勧奨をしていいのか?

1.退職勧奨 退職勧奨をすることは、それ自体が違法とされているわけではありません。 しかし、「労働者に対し執拗に辞職を求めるなど、労働者の自由な意思の形成を妨げ、その名誉感情など人格的利益を侵害する態様で退職勧奨が行われた場合には、労働者は…

解雇事案は就業規則の文言に注意-改善の兆しさえあれば解雇を否定できることがある

1.労働契約法16条よりも解雇に厳しい就業規則の存在 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。この条文により、使用者…

東京都立葛西南高等学校定時制で労働法教育の授業

私の所属している第二東京弁護士会労働問題検討委員会には、労働法教育部会というグループがあります。このグループでは、高校や大学などの各種学校から依頼を受け、ワークルールの授業をやっています。 特別委員会|第二東京弁護士会ひまわり 本日、労働法教…

年俸制-裁量性に乏しい計算式を持っていたとしても労働者への事前開示がなければ減額査定・減額決定は許されない

1.年俸制と減額査定 年俸制とは、毎年の評価に基づいて基本給(年俸)を決定する仕組みをいいます(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕584頁参照)。契約が複数年度に渡る場合、年俸は使用者の査定に基づいて増減するのが一般的…

年俸制-抽象的な考慮要素を挙げるだけでは賃金の減額査定・減額決定はできない

1.年俸制と減額査定 年俸制とは、毎年の評価に基づいて基本給(年俸)を決定する仕組みをいいます(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕584頁参照)。契約が複数年度に渡る場合、年俸は使用者の査定に基づいて増減するのが一般的…

ハラスメントの調査を求めるメール類は文言や内容が攻撃的になっても、かなりの程度までは許容される

1.ハラスメントの相談と不利益取扱い 男女雇用機会均等法11条は、1項で、 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業…

助教の取得した科研費(科学研究費補助金)を講座全体で管理・費消したことに違法性が認められた例

1.科研費(科学研究費補助金) 「人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる『学術研究』(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする『競争的研究費』であり、ピアレビューによる審査を…

シフト数削減の合意の認定・労働条件不利益変更該当性

1.固定シフト合意 大学教員などの特殊な業種を除き、労働者の就労請求権を一般的に肯定することは困難であるとされています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元249頁参照)。 そのため、シフト制の労働者は、出勤日を減らされても…

シフトに入れてもらえないという問題への解決策Ⅱ-固定シフト合意の可能性

1.シフトに入れてもらえない問題 シフト制の労働者の脆弱性の一つに、使用者からシフトに入れてもらえなくなることがあります。 現行法制上、稼働しなかった日に対応する賃金は、支払われないのが原則です。例外として、使用者の「責めに帰すべき事由」(…

本来的人格構造・発達段階での特性・傾向と休職理由(適応障害)を区別すべきとした例

1.精神疾患による休職 発達障害の方は、ストレスを言葉で表現することが上手くできない場合も多く、環境的な要因の結果として様々な精神的な症状に苦しめられることがあります。これを「二次障害」といいます。 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.j…

無分別に連帯責任を問うことが失態を犯した者に対する安全配義務違反とされた例

1.指導・教育の場面での連帯責任 集団に対して指導・教育が行われる場面で、一人の失態の責任を全員に負わせることがあります。時代によるかも知れませんが、子どもの頃、学校等でこうした指導を受けた方も、少なくないのではないかと思います。 このよう…

交際関係にあって通常の雇用プロセスを経ていないことが労働者性を否定する一要素とされた例

1.交際関係が先行していて法律関係が良く分からない問題 交際関係にある人同士が、取引関係を持ったり、共同して事業を営んだりすることがあります。こうした場合、契約書が作成されず、当事者間の法律関係が良く分からないことが少なくありません。 当事…

訴訟と行政措置要求の手続的相違点-行政措置要求では受理段階で実体審査・実質的審査が可能

1.行政措置要求 公務員特有の制度として「行政措置要求」という仕組みがあります。 これは、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われ…

管理運営事項と行政措置要求の対象としての適格性Ⅱ

1.行政措置要求 公務員特有の制度として「行政措置要求」という仕組みがあります。 これは、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われ…

最低賃金法違反と不法行為の成否

1.残業代の不払と不法行為の成否 残業代(時間外勤務手当等)の不払を不法行為(民法709条)であると構成して、損害賠償請求をすることができないかという論点があります。 これは残業代の時効と不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効とが異なって…

美容師がやむなく不動産会社の営業職として再就職しても、就労意思が否定されなかった例

1.他社就労と就労の意思 違法・不当な解雇をされたとしても、裁判所で労働契約上の地位を確認してもらうためには、かなりの時間がかかるのが通例です。勝訴判決を得るためには、1年を超える審理期間を要することも少なくありません。 しかし、解雇された…

自由な意思による賃金減額の合意が成立したといえるために必要な情報提供・説明のレベルをどう考えるか

1.賃金減額の合意と自由な意思の法理 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者…

退職合意に自由な意思の法理の適用が認められた例

1.自由な意思の法理の射程 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に…

雇止め-改善可能性の検討の仕方・更新前の問題行動への評価

1.雇止めの理由 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められる場合…

雇止め-懲戒処分(譴責処分)・厳重注意を受けた事実が合理的期待の減殺要素とはされなかった例

1.雇止め法理の二段階審査 有期労働契約は期間の満了とともに終了するのが原則です。 しかし、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められ…