弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

コミュニケーション能力不足を理由とする解雇-当事者尋問がコミュニケーション能力の不足の裏付けとなってしまった例

1.コミュニケーション能力不足を理由とする解雇事件と当事者尋問 コミュニケーション能力不足を理由とする解雇の効力を争うにあたり、気を遣う手続の一つに「当事者尋問」(本人尋問)と呼ばれる手続があります。 「当事者尋問」というのは、当事者本人に…

雇止め-無期転換ルールの潜脱目的であることが認定されなかった例

1.無期転換権に関する法規制 労働契約法18条1項本文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日…

雇止め-無期転換ルールの潜脱目的であることが認定された例

1.無期転換権に関する法規制 労働契約法18条1項本文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日…

雇止め-使用者が更新年数上限を一方的に宣言しても、一度抱いた合理的期待は否定されないとされた例Ⅱ

1.雇止めと不更新条項 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められ…

アカデミックハラスメント-指導教授からセクハラを受けた大学院生に対する事後措置

1.ハラスメントに対する事後措置 職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)の場合、事業主には「事後の迅速かつ適切な対応」を行うことが義務付けられています(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等に…

アカデミックハラスメント-研究室主催の飲み会でのセクハラについて、大学に責任を問えるのか?

1.飲み会の業務関連性 大学に所属している教職員からセクシュアルハラスメント(セクハラ)を受けた人が、加害者だけではなく大学にも責任を問うにあたっては、セクハラ行為が大学の事業と関連していることが必要になります。 これは被用者の不法行為につ…

アカデミックハラスメント-大学院生が教授のセクハラの責任を追及するにあたり迎合的言動が妨げにならなかった例

1.セクシュアルハラスメント(セクハラ)と迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職…

勤務先からの引き抜き行為の適法ライン

1.引き抜き行為 転職にあたり、競業や顧客奪取と並んで勤務先との紛争になり易い行為として、従業員の引き抜きがあります。 労働者の転職を勧誘する行為(いわゆる「引き抜き」)は、通常の勧誘に留まる限り違法(不法行為)にはなりません。 しかし、 「…

約2年前に行われた賃金減額の効力を争えた例(長期間異議を述べずにいたこと≠黙示の合意)

1.長期間異議を述べずにいること 不本意なことをされても、長期間異議を述べないでいると、裁判で争うことが難しくなります。それは、既成事実の積み重なりが、黙認(当該状態を受け容れる旨の黙示の合意)と受け取られてしまうからです。 労働事件を離れ…

公正性・客観性に乏しい人事考課制度・賃金査定条項に基づく基本給減額の効力

1.人事考課制度・賃金査定条項に基づく基本給の減額 人事考課や査定を行って賃金額を決定する旨の条項を、「賃金査定条項」といいます。 賃金査定条項に基づいて賃金を減額することは、それ自体が直ちに違法とされているわけではありません。ただし、公正…

昇格を求めることに権利性が認められた例

1.昇格を求めることの権利性 昇進、昇格、昇級という概念があります。 一般に、 「昇進は役職の上昇、昇格は職能資格の上昇、昇級は職能資格内のランク(資格等級の上昇」 を意味します。昇進・昇格・昇級に関しては、使用者に広い裁量権が認められており…

事務職から未経験業務への配転に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」が認められた例

1.配転命令権の濫用と「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」 一般論として、配転命令には、使用者の側に広範な裁量が認められます。最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件によると、配転命令が権利濫用として無効になるのは…

女性用物的施設の欠如等を理由に職種限定合意が認められた例

1.配転命令と職種限定合意 一般論として、配転命令には、使用者の側に広範な裁量が認められます。最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件によると、配転命令が権利濫用として無効になるのは、 ① 業務上の必要性がない場合、 ② 業務…

内部通報者を特定しようとする行為に不法行為法上の違法性があるとされた例

1.公益通報者(内部通報者)保護 令和2年6月8日、公益通報者保護法の改正法が成立しました。 改正の重要項目の一つに、公益通報者保護の強化が挙げられます。その一環として、改正法12条は、 「第十二条公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従…

固定残業代の支払いの取り止め-労働者が「お任せします」と言っただけではダメ

1.合意による労働条件の変更 労働者と利用者は、合意することにより、労働条件を変更することができます(労働契約法8条)。 しかし、賃金の減額を伴うなど労働条件を不利益に変更する場合、「合意」の存在は、かなり慎重に認定される傾向にあります。使…

清算条項付き退職合意書によっても、残業代が清算されないとされた例

1.退職時に精算条項付きの合意書にサインしてしまう問題 退職するにあたり、勤務先から、 〇と〇は、本合意書に定めるほか、何らの債権債務もないことを、相互に確認する、 といった条項の記載された書面の差し入れを求められることがあります。 このよう…

行政処分(業務停止)で労務の提供を受領できなくなったことは、使用者の「責めに帰すべき事由」か?

1.使用者の「責めに帰すべき事由」による履行不能 最三小判昭63.3.15労働判例523-16 宝運輸事件は、 「実体法上の賃金請求権は、労務の給付と対価的関係に立ち、一般には、労働者において現実に就労することによって初めて発生する後払的性格…

「触っちゃった」はセクハラではないのか?

1.セクシュアルハラスメント(セクハラ) 職場におけるセクシュアルハラスメントとは、 「事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働…

業務委託契約の更新拒絶-雇止め法理の類推はありえるか?

1.業務委託契約と労働契約 有期労働契約は、期間の満了により終了するのが原則です。しかし、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認め…

それでいいのか、配転命令無効仮処分

1.配転命令無効仮処分 労働者の権利を侵害している可能性のある行為がなされても、訴訟でその当否の判断が示されるまでには、かなり長い時間がかかるのが通例です。その間、権利の実現を保全しておくための手続として「民事保全」という仕組みがあります。…

小学校内で教諭から生徒に行われるセクハラの例

1.小学校教諭によるセクハラ セクシュアルハラスメント(セクハラ)に関連する事案は、実数と比べて訴訟事件化しにくい傾向にあります。よく言われている理由としては、 羞恥心から事件を公にしたがらない被害者が少なくないこと、 人目につきにくい場所で…

在職したまま訴訟提起した労働者に対し、使用者には萎縮することなく裁判を受けられるよう配慮する責任があるとされた例

1.在職したまま会社を訴えることの困難性 残業代請求や、ハラスメントを理由とする損害賠償請求は、会社に在職したままでも行うことができます。話し合いで折り合えなければ、訴訟を提起することも可能です。 しかし、実務上、法的措置は、会社を辞めてか…

新型コロナウイルスへの感染を企業の安全配慮義務違反であると主張するために必要な予見可能性の程度

1.過失責任と予見可能性 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 と規定しています。これは一般に「安全配慮義務」と呼ばれています。 安…

取締役への就任により従業員としては退職したという主張への対抗手段-管理監督者にも妥当する

1.取締役への就任に伴う退職 一般論として、取締役と使用人(労働者)とを兼務することは禁止されていません。しかし、取締役への就任に伴い、退職処理がされることは珍しくありません。 なぜ、このような処理がされるのかというと、比較的簡単にクビを切…

退職金(退職慰労金)の支給区分としての会社都合/自己都合

1.退職金(退職慰労金)の支給区分 独自の退職金制度を持つ会社においては、退職理由が会社都合である場合と自己都合である場合とで、金額に差が設けられていることがあります。 しかし、実務上、退職慰労金規程に全ての退職理由が網羅的に規定・区分けさ…

セクハラの申告をすると、仕事を外されてしまう問題への対処法

1.セクハラ被害の申告者に対する配置換え 男女雇用機会均等法11条1項は、 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業…

セクハラの申告は、相談窓口以外に行われたものであっても、勤務先に職場環境配慮義務を生じさせるのか?

1.男女雇用機会均等法上の相談窓口の設置義務 男女雇用機会均等法11条1項は、 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の…

セクハラ被害を会社に相談したところ、上司から友好的な態度を一変させられたら・・・

1.セクシュアルハラスメントがパワーハラスメントに転化する事例 平成27年、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会…

対応頻度が低くても精神的負荷が軽減されない業務

1.地方公務員災害補償法 私企業の労働者が業務災害に被災した場合、労働者災害補償保険法に基づいて各種補償がなされます。これに対し、地方公務員の方が公務災害に被災した場合、地方公務員災害補償法という法律に基づいて各種補償が行われます。 地方公…