弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

内部通報者を特定しようとする行為に不法行為法上の違法性があるとされた例

1.公益通報者(内部通報者)保護

 令和2年6月8日、公益通報者保護法の改正法が成立しました。

 改正の重要項目の一つに、公益通報者保護の強化が挙げられます。その一環として、改正法12条は、

「第十二条公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。」

と通報窓口に通報者を特定させる情報に関する法令上の守秘義務を負わせています。

 この改正法は、令和4年6月1日から施行されることになっており、現在、各企業で内部通報窓口の整備が進められています。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/

 それでは、こうした公益通報者保護の仕組みに反し、通報者を特定しようとすることには、不法行為法上の違法性が認められるのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。福岡地判令3.10.22労働判例ジャーナル119-30 損害賠償等請求事件です。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、日本郵便に勤務する郵便局長3名(被告P1、被告P3、被告P4)です。

 原告になったのも、日本郵便に勤務する郵便局長複数名です。

 日本郵便の内部通報窓口に対し、被告P1の子がコンプライアンス違反をしていることなどを内容とする内部通報を行ったところ、被告らから内部通報に関与したか否かの回答を強要されたことなどを理由に、慰謝料を請求したのが本件です。

 ここで言われている日本郵便の内部通報窓口は、

「コンプライアンス違反の発生とその拡大を未然に防止すること、早期に解決することを目的として、社内及び社外に設置されたものであり、局長を含む職員全員に内部通報をする権利が認められる。内部通報は、その秘匿性が担保され、通報者を特定する行為や通報者に対し不利益を与えるような行為をした者に対しては、厳正に対処する旨が定められている」

というもので通報の秘匿性が保障されたものでした。

 こうした内部通報窓口の特性を踏まえたうえ、裁判所は、次のとおり述べて、通報者を特定しようとすることは違法だと判示しました。

(裁判所の判断)

日本郵便において、内部通報は、その秘匿性が担保され、これをした者には厳正に対処するとされていたのであるから、内部通報をした者を特定しようとすることは許されなかったということができる。そして、前記認定のとおり、被告P1は、原告らの人事評価等に権限を有し、前判示のとおり、日本郵便における人事に相当程度の影響力を有していたのであるから、このような被告P1が本件通報者を特定しようとする行為は、違法性があるというのが相当である。

3.守秘義務で保護されている事項を探り出そうとすることも違法

 上述のとおり、通報者の秘匿性を保護しようとしている仕組みがとられているにも関わらず通報者を特定しようとすることは違法だと判断されました。

 法改正により、通報者の秘匿性を保護する内部通報制度の構築が義務付けられています(改正公益通報者保護法11条等参照)。これに伴い適切な対応がとられている限り、一定の権限を持つ方が応通報者を探し出そうとする行為は、法改正後においては猶更違法になりやすいといっても差し支えないように思われます。