弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

小学校内で教諭から生徒に行われるセクハラの例

1.小学校教諭によるセクハラ

 セクシュアルハラスメント(セクハラ)に関連する事案は、実数と比べて訴訟事件化しにくい傾向にあります。よく言われている理由としては、

羞恥心から事件を公にしたがらない被害者が少なくないこと、

人目につきにくい場所で行われることが多く、証拠が集まりにくいこと、

裁判所の認容する慰謝料水準が低く、経済的に割が合いにくいこと、

などが挙げられます。

 個人的な感覚で言うと、この訴訟事件化しにくい傾向は、被害者が低年齢化すればするほど顕著になる傾向にあります。子どもの場合、羞恥心に加えて親などの周囲の大人に対する気兼ねが生じたり、証拠確保にまで意識が回りにくかったりするからではないかと思います。

 そのため、小学校内で教諭から生徒に行われるセクハラに関しては、公刊物に掲載される裁判例が少なく、その実体は極めて分かりにくくなっています。

 このような状況のもと、近時公刊された判例集に、小学校教諭の生徒に対するセクハラが問題になった裁判例が掲載されていました。奈良地判令3.10.6労働判例ジャーナル119-60 奈良市事件です。

2.奈良市事件

 本件で被告になったのは、奈良市立〇〇小学校(〇〇小)を設置、運営する地方公共団体(奈良市)です。

 原告になったのは、平成30年3月31日まで〇〇小の4年〇組に在籍していた方です。担任教諭であるE教諭について不適切なセクハラ行為があったことなどを主張して、被告に対して国家賠償を請求したのが本件です。

 原告が問題にしたE教諭の不適切行為は複数に渡りますが、その中の一つに、同級生とのトラブルを解決するに際して「仲良くすることを約束しましょう。」と言い、原告と同級生、自身の小指を絡ませ「嘘ついたらE先生とキスをする。指切った。」と述べたことがありました。

 裁判所は、次のとおり原告の主張に添う事実を認定したうえ、その違法性を認め、市に対して損害賠償金11万円(慰謝料10万円、弁護士費用1万円)を支払うよう命じました。

(裁判所の認定した事実)

「E教諭は、原告及びGに仲良くすることを約束させるため、指切りをすることにした。原告、G及びE教諭が小指を絡ませて、『針千本飲ます』と言おうとしたところ、Gが飲めないと言ったことから、E教諭は、嘘をついたら先生(E教諭)とキスをするという趣旨の発言をした。」

「5時間目終了後、E教諭は、教室(4年1組)で、H及び原告と話をした。Hが原告に対し謝罪した後、E教諭は指切りをしようとした。原告は、これを嫌がって教室内を移動する、手を後ろに回すなどしていたが、結局、E教諭が原告の手を持って指切りをした。このときも、E教諭はキスをするという趣旨の発言をした。」

(裁判所の判断)

キス発言・・・は、内容的にも、状況(片方がいじめであると考えている問題を仲裁する場における発言)としても相当性を欠くものであるといえる。なお、回数はともかく不適切であることは被告も争っていない。」

(中略)

「以上検討したところによれば、不法行為が認められるのは、E教諭の不適切なキス発言についてであると認められる。そして、これに本件において顕れた全ての事情を踏まえると、慰謝料の額は10万円とするのが相当である。」

3.不適切な発言

 したくないこと・嫌なことを比喩したいのであれば、他の表現方法が幾らでもあるのに、敢えて小学生児童に「先生とキスをする」という発言をしたことは、理解し難いところがあります。発言内容は不適切というほかありません。

 今回は偶々顕在化したものの、このようなレベルの不適切発言は、おそらく相当数が事件にならないまま、看過・放置されているのではないかと思います。経済的な割に合にくいことは否定できませんが、それでも許せないと思う方は、法的措置を検討してみても良いかもしれません。