弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

雇止め-無期転換ルールの潜脱目的であることが認定されなかった例

1.無期転換権に関する法規制

 労働契約法18条1項本文は、

「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」

と規定しています。

 これは、簡単に言うと、有期労働契約が反復更新されて、通算期間が5年以上になったら、労働者には有期労働契約を無期労働契約に転換する権利(無期転換権)が生じるということです(無期転換ルール)。

 この無期転換ルールが平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約から適用されることが周知されると、その施行日に合わせ、有期労働契約者の更新期間の上限を5年と設定する企業が続出しました。いわゆる「無期転換逃れ」と呼ばれる問題です。

 無期転換権の発生を忌避して有期労働契約に更新上限を設けることに関しては、これを法の趣旨の潜脱と捉えて消極的に捉えるものと、法的に問題がないとするものとに裁判例ば別れています。一昨日、昨日は前者の考え方を採用した裁判例をご紹介させて頂きました。本日は、近時公刊された判例集に掲載されていた後者の考え方を採用した裁判例をご紹介させて頂きます。大阪地判令3.10.28労働判例ジャーナル120-60 大阪市住宅供給公社事件です。

2.大阪市住宅供給公社事件

 本件で被告になったのは、地方住宅供給公社法に基づいて設立された地方住宅供給公社です。

 原告になったのは、昭和33年生まれの男性です。平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間、訴外会社が雇用する派遣労働者として被告で働いた後、平成27年4月1日から、被告との間で、契約期間を1年とする労働契約を交わしました。

 その後も、原告の方は契約期間を1年とする労働契約の更新を重ねました。

 しかし、被告では無期転換ルールの施行に合わせ、1年毎の契約の更新について、就業規則の中に更新回数を最大4回とする条項を作っていました(本件更新限度条項)。

 そのため、原告の方は、4回目の更新契約の締結の際、不更新条項(本件不更新条項)を挿入されたうえ、令和2年3月31日付けで雇止めになりました。これを受けて、雇止めの無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では、契約更新に向けた合理的期待の存否に関連して、本件更新限度条項や本件不更新条項の効力が問題になりました。

 この問題について、裁判所は、次のとおり述べて、本件更新限度条項、本件不更新条項の適法性を肯定しました。結論としても、雇止めの効力を認め、原告の請求を棄却しています。

(裁判所の判断)

「労働基準法14条1項は、有期労働契約の契約期間の上限を定め、労働契約法17条2項は、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、同契約の期間を必要以上に短く定めることによって反復して更新することのないよう配慮しなければならない旨を定め、同法18条は、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合に無期転換申込権を認めているが、これらをはじめとする関係法令の定めによっても、5年を超える反復更新を行わない限度で有期労働契約を締結することは禁じられていない。そして、被告は、原告と有期労働契約を締結するよりも前に有期労働契約の更新は1年ごとに最大4回までとする旨を就業規則で明示し・・・、その上で、原告との間で上記就業規則の定めと同内容の本件更新限度条項のある本件労働契約〔1〕を締結し、以降、本件更新限度条項を定めて有期労働契約を3回更新し、本件不更新条項を定めて4回目の更新をしており、原告との契約締結当初から5年を超える反復更新を行わない旨を明示している。また、『無期労働契約への転換に係る取扱いについて』と題する文書・・・及び証人Dの供述によれば、被告においては、有期労働契約が契約期間満了によって終了した後に採用募集を経て再度雇用されたことにより通算契約期間が5年を超え得ることがある旨を含めて無期労働契約への転換に係る手続き等を職員に周知し、現に再度雇用されることによって5年を超える臨時的任用職員が平成30年4月以降二、三十名はいることが認められ、以上の事実は、被告が臨時的任用職員の無期労働契約への転換を阻止することなく容認している事情であるといえる。

「以上のとおり、5年を超える有期労働契約の反復更新を行わない旨を定める本件更新限度条項、本件不更新条項は、法令上これを禁じる定めは見当たらないところ、原告との契約締結当初から上記の旨を明示していることや、被告において臨時的任用職員の無期労働契約への転換を阻止することなく容認している事情が認められることに加え、やむを得ない理由による業務の縮小など将来の変化に対応するなどの合理性を有することからすると、労働契約法18条の脱法行為とはいえず、公序良俗に反して無効であるとはいえない。」

「原告は、被告は、平成25年3月以前には臨時的任用職員の契約更新回数については2回(2年)を上限としていたところ、平成24年法律第56号による改正労働契約法18条が施行された同年4月以降は4回(4年)を上限とするようになったこと(甲15)からすると、本件更新限度条項及び本件不更新条項を設けた意図は労働契約法18条の潜脱にあることは明らかである旨主張する。」

「しかし、上記アで説示したとおり、本件では被告が臨時的任用職員の無期労働契約への転換を一律に阻止することなく容認していることが認められることに加え、有期労働契約の更新上限を2回(2年)から4回(4年)に改めること自体は労働者にとって有利であることからすると、原告の指摘する点をもって本件更新限度条項及び本件不更新条項を設けた意図が労働契約法18条の潜脱にあると推認することはできない。原告の上記主張は採用することができない。

「原告は、有期労働契約の更新上限を5年以内で設定して運用することは、無期転換申込権の事前放棄と実質的に同じであるから、本件更新限度条項及び本件不更新条項は公序良俗に反し無効である旨主張する。」

「しかし、有期労働契約の更新に上限が定められていたとしても、その上限に達して有期労働契約が契約期間満了によって終了した後、労働契約法18条2項により許容される空白期間をおいてあらためて有期労働契約を締結した場合には、従前の有期労働契約期間は労働契約法18条1項所定の通算契約期間に含まれ、その結果無期転換申込権を行使しうる(『無期労働契約への転換に係る取扱いについて』と題する文書・・・には、このような場合についても記載がある。)。したがって、有期労働契約の更新に上限が定められていた場合には、通算契約期間が5年を超える場合があり、この場合に無期転換申込権を行使しうる以上、原告の指摘する点をもって同権利の事前放棄と実質的に同じであるとはいえない。原告の上記主張は採用することができない。」

3.潜脱目的が認定されず、適法とされる例にしても無条件というわけではない

 冒頭で、無期転換逃れの適法性に関しては、裁判所の判断が割れていると指摘しました。

 しかし、本件裁判例に目を通せば分かるとおり、適法とされている裁判例にしても、無条件にこれをを肯定しているわけではありません。更新限度条項、不更新条項に効力が認められたのは、無期労働契約に転換するための手続を整備するなど、有期労働契約者の雇用の安定に相当留意していることが認められたうえでの話です。

 結論は別れているにせよ、裁判所が無期転換逃れを野放図に許容しているわけではないことには、十分意識しておく必要があります。