弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の労働事件

公務員の懲戒処分-情報漏洩で懲戒免職された公務員について、退職手当も全額不支給とされた例

1.退職手当支給制限処分 懲戒免職を受けて退職した国家公務員に対しては、退職手当の全部又は一部を支給しない処分をするこことが認められています(国家公務員退職手当法12条1項) この条文の運用は、非違の発生を抑止するという制度目的に留意し、全…

公務員の懲戒処分-弁明手続は重要な情状事実の発覚以前のもので足りるか?

1.公務員の懲戒処分 国家公務員法にしても、地方公務員法にしても、懲戒処分を行うにあたっての手続を法定しているわけではありません。処分に際して処分事由を記載した説明書の交付が必要とされているだけです(国家公務員法89条1項、49条1項参照)…

情報漏洩で懲戒免職になった例

1.情報漏洩の処分量定 公務員の懲戒処分の効力を争う事件で、情報漏洩についての処分量定が問題になることは少なくありません。しかし、対象となる情報の性質や量、実際に外部への漏洩が生じたのかなどの事実関係が多岐に渡っているため、何を・どこまでや…

指導改善研修期間の約半分を残して改善の見込みがないと意見を述べることが許されるのか?

1.期間途中での見切り 公立学校の教員は、地方公務員ではあるものの、「教育公務員特例法」という特殊なルールが適用されます。 その中の一つに、「指導改善研修」という仕組みがあります。 これは、児童等に対する指導が不適切であると認定された教諭等に…

時間外勤務時間(残業時間)を目標時間内に修正する業務で生じる心理的負荷

1.公務員のサービス残業問題 所属部署に割り振られる予算上の制約などの理由により、公務員にはサービス残業が横行しています。これは古くから指摘されている問題ですが、残念ながら改善には至っていません。 部署単位で残業代を調整するとなると、ある程…

性同一性障害者が自認する性別に対応するトイレを使用する利益(続報)

1.性自認に基づいた性別で社会生活を送る権利が問題となった裁判例 以前、 性同一性障害者が自認する性別に対応するトイレを使用する利益と行政措置要求の可能性 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事の中で、東京地判令元.12.12労働判例ジャーナ…

特別職の地方公務員への雇止め法理の類推適用の可否(否定例)

1.非正規公務員の雇止め 有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と同視できるようになっていたり、契約が更新されることについて合理的な期待が認められたりする場合、使用者が労働者からの契約更新の申込みを拒絶するには、客観的合理的理…

高体連(高等学校体育連盟)主催の安全講習会への引率・参加・他校生への訓練が「公務」とされた例

1.部活動の位置づけ 現行法上、公立学校教員の部活動顧問に関連する業務が「公務」といえるのかは、あまり明確ではありません。このことは、 労働時間をどのようにカウントするのか(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項…

懲戒にあたり、弁明の機会・手続保障の利益を放棄させることはできるのか?

1.懲戒の手続違反 懲戒解雇の効力を議論するにあたり、手続違反が問題にされることがあります。 この論点に関しては「就業規則や労働協約上、懲戒解雇に先立ち、賞罰委員会への付議、組合との協議ないし労働者の弁明の機会付与が要求されているときは、こ…

重大な詐欺か軽微な詐欺か-懲戒免職処分の効力が否定された例

1.公務員への懲戒処分が違法かどうかはどのように判断されるのか 公務員に対し、懲戒事由がある場合に、 懲戒処分を行うかどうか、 懲戒処分を行うとして、どのような処分を選択するのか、 は懲戒権者の裁量に委ねられていると理解されています(最三小判…

ハラスメントの被害者は、加害者に懲戒処分をすることを使用者に請求する権利を有するか?

1.ハラスメント被害者が求めること ハラスメント被害を受けた方からの相談に応じていると、加害者に対して然るべき懲戒処分を行うように勤務先に請求して行くことができないかと質問を受けることがあります。 確かに、ハラスメントが確認できた場合、事業…

迎合に関する経験則-ハラスメントの被害者は、加害者との接触を容認する発言を取り消せるか?

1.被害者と行為者を引き離すための配置転換 ハラスメント事案が発生した場合に、使用者が検討すべき措置の一つに、被害者と行為者の引き離しがあります。 例えば、 令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とし…

ハラスメントの加害者を他部署に配転させる義務

1.加害者を他部署に配転して欲しい ハラスメントの被害者の方から、加害者を他部署に配転するよう勤務先に要求することができないかと相談を受けることがあります。 被害を受けた方にとって、加害者と顔を合わせることが苦痛であるのは、察するに難くあり…

疾患による問題行動と分限事由としての職務適格性

1.分限事由-職務適格性の欠如 公務員法は、公務の能率を維持するという観点から、本人に問題がなかったとしても、公務員としての地位を失わせることを認めています。一般に、分限免職と呼ばれる処分です。 分限免職事由には4つの類型があります。 具体的…

パーソナリティ障害を理由とする分限免職の可否

1.心身の故障を理由とする分限免職処分 「公務能率を維持するための官職との関係において生ずる公務員の身分上の変動で職員に不利益を及ぼすもの」を分限といいます(森園幸男ほか編著『逐条国家公務員法』〔学陽書房、全訂版、平27〕645頁参照)。 …

同一の上司に対する日時を異にする暴言は、複数の「異なる」非違行為か?

1.上司への暴言を理由とする懲戒処分 職場で特定の上司との折り合いが悪く、暴言を吐いたとして懲戒処分を受ける方がいます。こうしたケースの多くでは、異なる日時の複数回の暴言が問題にされ、頻回の暴言に及んだことが処分の加重事由として考慮されてい…

抽象的な懲戒事由に反論は必要か?

1.使用者側の抽象的な主張 懲戒処分や解雇の効力を争う時、使用者側から抽象的な懲戒事由・解雇事由を主張されることがあります。例えば、 暴言を繰り返した、 勤務態度が悪い、 コミュニケーション能力が不足している、 といったようにです。 労働者の方…

公務員の懲戒処分-弁明の機会の日の通知から弁明手続の開催までには、どれくらいの日数が必要か?

1.防御活動に必要な期間 行政手続法15条1項は、次のとおり規定しています。 第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなけ…

「国家公務員退職手当法の運用方針」に盲従することが否定された例

1.国家公務員退職手当法の運用方針 国家公務員の退職手当は、「国家公務員退職手当法」という法律に基づいて支給されます。 懲戒免職処分を受けた国家公務員に退職手当が支給されないというのも、この法律に基づく取扱いです。具体的に言うと、国家公務員…

公務員-懲戒免職処分を受けながら退職手当の全部不支給処分が取り消された例

1.懲戒免職処分と退職手当の全部不支給処分との関係 国家公務員の退職手当は、「国家公務員退職手当法」という法律に基づいて支給されます。 懲戒免職処分を受けた国家公務員に退職手当が支給されないというのも、この法律に基づく取扱いです。具体的に言…

公務員-残業の付替処理で懲戒免職された例

1.諸給与の違法支払・不適正受給 国家公務員には、非違行為の類型に応じた懲戒処分の標準例が定められています(懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)参照)。 懲戒処分の指針について 標準例は「諸給与の違法支払・不適正受給」とい…

一部免職の不利益処分への該当性

1.水平異動 公務員の法律問題を扱っていると、水平異動という言葉を目にすることがあります。 この言葉は、異動や配転の不服申立の利益を否定する脈絡で使われます。 公務員の人事上の措置は、不服申立の対象が限定されています。 例えば、地方公務員法は…

2名以上の医師の診断に基づかない分限休職処分

1.分限休職と複数名の医師による診断 地方公務員法28条3項は、 「職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。」 と規定しています。 この規定を受け、各地方公共…

職場復帰訓練を実施するための安易な休職期間の延長が重大明白な違法性を有するとされた例

1.無効確認の訴え 公務員に対する懲戒処分や分限処分などを司法的に争う場合、処分の取消の訴え(行政事件訴訟法8条)という手続をとるのが普通です。 しかし、例外的な場面では、無効確認の訴え(行政事件訴訟法36条参照)という手続をとることもあり…

国立大学の大学病院職員個人をハラスメントを理由とする損害賠償請求の被告にできるか?

1.公務員の個人責任 国家賠償法1条1項は、 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」 と規定しています。 公務員…

公務員の配転-子どもの世話ができないなら配偶者を連れて引っ越せばいい?

1.公務員の配転を争う二つのハードル 訴訟で公務員の配転(配置換え)の効力を否定するためには、二つのハードルを乗り越える必要があります。 一つは審査請求前置との関係で要求される要件です。 一昨日紹介した判決文でも触れられているとおり、国家公務…

公務員の配転-審査請求をし忘れて訴訟提起してしまったら・・・

1.公務員の配転で審査請求に関する教示がされない問題 国家公務員法89条1項は、 「職員に対し、その意に反して、降給し、降任し、休職し、免職し、その他これに対しいちじるしく不利益な処分を行い、又は懲戒処分を行わうとするときは、その処分を行う…

公務員の配置換えにおいて、訴えの利益(いちじるしく不利益であること)が認められた例

1.公務員の配置換え 民間の場合、配転の効力を争って訴訟提起すれば、裁判所から、転属先で勤務する労働契約上の義務の存否を判断してもらうことができます。 しかし、公務員の場合、必ずしもそうは理解されていません。 公務員の場合、配転は、行政処分(…

標準例に掲げられていない非違行為(ハラスメント加害者による関係者に対する圧力)の処分量定Ⅱ

1.懲戒処分の標準例 公務員の懲戒処分に関しては、どのような行為をすれば、どのような処分量定になるのかについての標準例が定められているのが一般です。 例えば、国家公務員について言うと、「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68…

退職の意思表示に必要な判断能力の程度

1.意思能力 民法3条の2は、 「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」 と規定しています。 つまり、有効な意思表示をするためには、「意思能力」が具備されている必要があります。 この「意…