弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-01-01から1年間の記事一覧

出向先や労働条件が不明確であるとして出向命令が無効とされた事例

1.出向を命ずることができる場合 労働契約法14条は、 「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該…

「退職するとなったときにはそれらの費用(就労準備費用)を負担してもらいますが大丈夫ですか」⇒「大丈夫です」では、費用の返還義務は生じないとされた例

1.就労準備費用の返還請求 少子高齢化ほか様々な要因により、本邦では至るところで人手不足・人材不足が進行しています。人手不足・人材不足が深刻化すると、労働者の調達コストが上昇します。労働者の調達コストが上がると、採用にあたり、使用者から、 …

退職合意書の清算条項が労働者の有利に働いた事例

1.清算条項 退職の時、清算条項付きの合意書の取り交しを求められることがあります。 清算条項とは、 「甲と乙は、本合意書に定めるほか、甲と乙との間に、何ら債権債務のないことを、相互に確認する」 といった趣旨の条項です。 会社側が労働者に清算条項…

労働者に対して行われる研修費用の本来的な負担者は誰なのか?

1.研修費用の取扱い 労働者に対して行われる研修には、二面性があります。 一つは、使用者が自分の業務を遂行するために行っているという面です。 もう一つは、労働者自身の職業能力の向上という面です。 前者の面を強調すれば、労働者に対して行われる研…

勤務時間が定められていなかったとしても元からであったとして、労働契約を合意解約して業務委託契約を締結したとの主張が排斥された例

1.労働者と業務受託者 労働者は労働基準法をはじめとする労働関係法令の保護を受けます。 これに対して、業務委託契約を交わして業務を遂行する個人事業主(フリーランス)は、労働関係法令の保護を受けることができません。昨年、「特定受託事業者に係る…

会社が倒産状態にないのに従業員に対する賃金不払いに代表取締役の個人責任(損害賠償責任)が認められた例

1.賃金の不払と取締役の個人責任 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 賃金を払ってもらえない労働者…

時間外勤務手当等の弁済として認められなかった「残業手当」(売上の10%相当額)は「出来高払制の賃金」になるのか?

1.残業代のダブルパンチ 固定残業代の有効性が否定されると、固定残業代の支払に残業代の弁済としての効力が認められなくなるほか、使用者は固定残業代部分まで基礎単価に組み込んで計算した割増賃金を改めて支払うことになります。このことが使用者側にも…

時間外勤務手当等の法定外計算(売上の10%に相当する「残業手当」の支払)に、時間外勤務手当等の弁済としての有効性が認められなかった例

1.時間外勤務手当等の法定外計算 割増賃金の計算方法は労働基準法37条やこれを受けた労働基準法施行規則19条等に規定されています。 しかし、 ①労基法37条や労規則19条等に規定された計算・支払方法によらない計算・支払方法(法定外計算) ②基本…

幼少時に父親から性暴力を受けていても、セクシュアルハラスメントと鬱病・不安障害・適応障害・PTSDとの相当因果関係が認められた例

1.セクシュアルハラスメントと精神障害との相当因果関係 この記事の表題を見た一般の方の中には、幼少時に父親から性暴力を受けていたら、セクハラを受けて鬱病等の精神障害(精神疾患)を発症しても、因果関係が否定されてしまうのかと不思議に思った方が…

セクハラの迎合的言動はどこまで覆せるか-ラブホテルに一緒に入室していても、性的同意はなかったとされた例

1.セクシュアル・ハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関…

同意を表すように見えても実はそうでない-被害を受けている被害者は、笑っていることがあるとされた例

1.セクシュアル・ハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関…

メンズコンカフェ(コンセプトカフェ)店員の労働者性

1.メンズコンカフェとは? 「執事や王子様、天使や悪魔、アイドルなど特定の世界観のキャラクターにふんした男性たちが、それぞれのコンセプトにあわせてデザインされた店内で、接客を行うこと」を特徴とする店を、メンズコンカフェ(コンセプトカフェ)と…

一人請負型偽装請負の労働者性(派遣元に対する賃金請求が認められた例)

1.偽装請負と一人請負型 労働者性が問題になる事件というと、請負や業務委託の法形式を使いながら、注文者や業務委託者が、請負人や業務受託者に対し、その指揮監督下で働かせて行くといったように、二者間での法律関係を想像する方が多いのではないかと思…

懲戒解雇の有効性の判断における解雇理由証明書(普通解雇の場合との違い)

1.解雇理由証明書 労働基準法22条1項は、 「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者…

部下が48日間連続勤務をしていたら、補助者を配置するか、取引先と協議して納期を伸ばすべきであったとされた例

1.休日・労働時間規制 労働基準法32条は、 「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」「② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させては…

無効な固定残業代を合意に基づいて有効にするためには、労働者に対してどのような説明が必要になるのか?

1.固定残業代 固定残業代とは、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 をいいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残…

携帯端末で始業・終業時刻を入力でき、社用携帯を所持するよう指示されていたとして、事業場外みなし労働時間制の適用が否定された例

1.事業場外労働のみなし労働時間制(事業場外みなし労働時間制) 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただ…

更衣時間に労働時間性が認められた例

1.労働時間性 労働基準法上の労働時間とは、 「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、…

1か月単位変形労働時間制-勤務シフトパターンが例示されているだけでは適用できないとされた例

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

新型コロナウイルスの流行する海外から会社代表者が帰国するにあたり、従業員が感染の可能性を指摘することは侮辱なのか?

1.感染への不安を抱える従業員 昨日、 新型コロナウイルスの流行する海外から会社代表者が帰国するにあたり、従業員が共同で在宅勤務を求めることは許されるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で紹介した、東京地…

新型コロナウイルスの流行する海外から会社代表者が帰国するにあたり、従業員が共同で在宅勤務を求めることは許されるのか?

1.感染への不安を抱える従業員 一昨日、 新型コロナウイルスが蔓延する海外への渡航を阻止するため、有給休暇の時季変更権を行使することができるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で紹介した裁判例(札幌地判令…

生徒に対するわいせつ行為を理由とする退職手当支給制限処分(全額不支給)-報道されななったこと、被害届の不提出は有利な事情にならない

1.公務員の懲戒免職処分と退職手当支給制限処分 国家公務員退職手当法12条1項は、 「退職をした者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職をした者(当該退職をした者が死亡したときは、当該退職に係る一般…

新型コロナウイルスが蔓延する海外への渡航を阻止するため、有給休暇の時季変更権を行使することができるのか?

1.有給休暇の時季変更権 労働基準法39条5項は、 「使用者は、・・・有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることがで…

求人情報に「賞与年2回(7月・12月/昨年度実績:2ケ月分)」「創業以来、毎年欠かさず支給中です!」と書かれていても賞与請求が否定された例

1.賞与を具体的な権利として請求するためには・・・ 「会社の業績等を勘案して定める」といったように具体的な金額が保障されていない賞与は、算定基準の決定や労働者に対する成績査定が行われて具体的な金額が明らかにならない限り請求することができない…

技術者の不足を未経験者で補おうとする配転命令について、必要性が否定された例

1.配転命令権の濫用 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであ…

従業員数が10人以上になった時、それまで存在していた就業規則は労働者過半数代表者からの意見聴取をしなくても有効になるのか?

1.就業規則の作成・変更にあたっての意見聴取義務 労働基準法89条は、 「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする(…

業務委託契約が実は労働契約であった場合、受け取った消費税は返さないといけないか?

1.業務委託契約・労働契約と消費税 消費税は 「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」 に課税されます(消費税法4条)。 ここで言う 「資産の譲渡等」 とは、 「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供・・・をいう」 と…

債務の履行が代表者の労務の提供以外に想定し難いとして、法人ではなく代表者との労働契約が認められるとされた例

1.一人会社に対する業務委託 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形…

解雇前からの副業収入部分について、中間収入控除が否定された例

1.中間収入控除 民法536条2項は、 「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、…

古い解雇理由は大したことはない-闇金から金銭を借り入れる際、役員名簿のコピーを交付しても解雇理由にならないとされた例

1.古い解雇理由 これまでも何度か言及してきましたが、一般論として、古い事件を掘り起こしても、勝てることはあまりありません。 主な理由は二点あります。 一点目は、主張、立証が困難になることです。人の記憶は時間の経過と共に薄れて行きます。そのた…