弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

経営者としてメディア露出したり、Twitterのプロフィール欄に「元女社長」と記載していたりしていたことが労働者性の認定の妨げにならないとされた事例

1.メディアへの露出歴、SNSでの表示

 経営者としてメディアに登場していたり、ツイッターなどのSNSで煌びやかな肩書が表示されていたりしていても、実体は誰かに雇われているだけだということは、現実には少なくありません。こうした方が、雇用契約上の被用者・労働者であることを主張して法的措置をとると、使用者側から、

労働者ではない

と反論されることがあります。この労働者ではないとの主張の根拠として、メディアへの出演歴や、SNSへの投稿が指摘されます。紛争になった時に、使用者側が労働者のSNSの使用履歴を調査・活用することは、割と一般的なことです。

 それでは、こうした過去の経歴や投稿は、労働者性の認定にあたり、どのような影響を持ってくるのでしょうか?

 昨日ご紹介した東京地判令5.4.12労働判例ジャーナル145-40 AmaductioN事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断が示されています。

2.AmaductinN事件

 本件で被告になったのは、各種イベントの企画、制作、管理、運営、飲食店の経営、企画、運営事業等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、ステージ併設型飲食店(キャストと呼ばれる女性が、ステージで踊ったり、給仕をしたりするサービスを提供する店)の店長として働いていた方です。被告との間で雇用契約を締結していたと主張し、時間外勤務手当等(残業代)を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件の原告は飲食店の経営当を目的とする株式会社アマステージの代表取締役を兼務したうえ、経営者としてメディアに露出するなどしていたことから、本件では、原告と被告との間で雇用契約が成立したといえるのか否かが争点の一つになりました。

 本件の被告は、

「原告と被告の間で雇用契約を締結した事実はない。本件店舗等は、アマステージの創業者兼代表取締役であった原告が自らの意思で立ち上げた事業であり、被告は出資者にすぎず、原告との間に指揮監督関係はない。」

と主張し、雇用契約の成立を争いました。

 しかし、裁判所は、雇用契約の成立を認めたうえ、次のとおり述べて、メディアへの露出やSNSの表示は雇用契約の成立を認定する妨げにはならないと判示しました。

(裁判所の判断)

「被告は、原告が自分の店を立ち上げたいとの強い想いを有しており、経営者としてメディアに露出するなど、自身が本件店舗の経営者であることを前提とする行動をとっていた旨主張する。」

「この点、原告は留学中にステージ併設型の店の立上げに関与していたことや・・・、本件店舗等の店長を退いた後にも、個人で開設しているTwitterのプロフィール欄に『元女社長』と記載していたこと・・・、令和元年7月7日、本件店舗のキャスト研修において、アマステージの創業のきっかけやビジョン等について説明していたこと・・・、メディア出演時に本件店舗等の運営について、経営者という立場で発言しているところ・・・、発言内容について被告代表者から具体的な指示は受けておらず・・・、上記発言は基本的には原告の真意によるものと考えられることからすると、本件店舗等を立ち上げることや、対外的にその経営者として振る舞うことは、基本的には原告の望みにもかなうものであったことは否定できない。

しかしながら、会社の経営者兼店長という地位に魅力を感じ、対外的にそのような振舞をしていたからといって、直ちに経営者としての実を伴っていたということはできないところ(なお、原告の上記メディア露出は、本件店舗等の集客に寄与した面があるものと考えられ、経営者を名乗っていたことが一方的に原告を利するものであったとはいえない。)、前記説示したとおりの経緯、実態等によれば、実質的には原告は本件店舗等の経営者であったということはできず、原告の上記言動は雇用関係の成立に当たって原告と被告の思惑が合致していたことを意味するにとどまり、前記結論を左右しないというべきである。

3.対外的な振る舞いでは雇用契約の成立の認定は妨げられない

 労働者であるのか否かは、基本的には働き方の実体によって判断されます。対外的な肩書によって決まってくるわけではありません。裁判所の判断は、労働者性・雇用契約の成否に関する伝統的な考え方の延長線上にあるものであり、特に意外性のあるものではありません。

 しかし、メディア戦略やSNSマーケティング戦略に組み込まれ、対外的に経営者らしく振舞っていたことが労働者性の判断にあたりどのように評価されるのかという問題を正面から議論しているところには、目新しさがあるように思います。

 SNSを利用して揚げ足をとろうとしてくる使用者に反駁するにあたり、裁判所の判断は実務上参考になります。