弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

部下が48日間連続勤務をしていたら、補助者を配置するか、取引先と協議して納期を伸ばすべきであったとされた例

1.休日・労働時間規制

 労働基準法32条は、

「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」
「② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」

と規定しています。

 また、労働基準法35条1項は、

「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。」

と規定しています。

 こうした規制によって、1日8時間のフルタイムで働いている労働者は、法定休日と法定外休日を併せ、週2日間の休みを確保することができます。

 休みをとることは、健康を維持するうえで極めて重要です。長時間労働は、適応障害や鬱病などの精神障害や、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、心停止などの脳血管疾患・虚血性心疾患等の発症の原因になるからです。長時間労働がこうした疾病を発症させることは、労災の認定基準でも触れられています。

https://www.mhlw.go.jp/content/001140931.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/001157873.pdf

 この休みの取り方との関係で、近時公刊された判例集に、48連勤の適否が問題になった裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介させて頂いている、東京地判令5.6.29労働判例ジャーナル144-42 テレビ東京制作事件です。

2.テレビ東京制作事件

 本件で被告になったのは、株式会社テレビ東京などで放送されるテレビ番組の企画制作の受託等を事業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、業務センター総務部兼番組管理部に配置換えされるまでの間、テレビ番組の演出及びプロデュースなどの番組制作業務を主たる業務とする制作センターで勤務していた方です。

 原告の請求は多岐に渡りますが、その中の一つに、48日間の連続勤務で適応障害を発症したことを理由とする慰謝料請求がありました。

 これに対し、被告は、

「原告が連続勤務した事実は知らない。そのような勤務を結果として生じさせたのは制作業務に従事することを懇願した原告であり、被告は、長時間労働にならないよう自ら管理すべきことを説明し、原告もこれを納得して制作業務に従事した。」

などと反論しましたが、裁判所は、次のとおり述べて、被告の責任を認めました。

(裁判所の判断)

原告は、平成30年2月4日から同年3月23日まで48日間連続勤務を行ったことが認められる(別紙1-2認定用時間計算書)。なお、原告の法定時間外労働及び法定休日労働の合計は、平成30年2月及び3月はそれぞれ100時間を超えている(別紙1-2認定用時間計算書の当該月の集計結果参照)。使用者が、労働者に対し、このような勤務を余儀なくさせることは、違法というよりほかはない。

「そして、上記・・・事実関係によれば、原告の上司であるP4部長においては、原告から、平成30年3月5日までに、本件システムにより同年2月4日から同月末日まで連続勤務した旨の報告を受けた上、同年2月23日及び同年3月14日に、同年2月23日から同年3月23日まで1日も休まず連続して勤務する内容のスケジュール報告を受けており、少なくとも、同年3月14日の時点においては原告が1箇月以上連続勤務を行っていることを知り得たといえる。この時点において、被告としては、原告の補助をさせる者を配置するか、フジテレビと協議して納期を伸ばすといった方法で、原告の負担を軽減すべきであった。

「したがって、被告には、労働時間を適正に把握し管理する義務があるのにこれを怠り、原告に平成30年2月4日から同年3月23日まで48日間連続勤務を行うことを余儀なくさせたものであり、不法行為が成立する。」

「担当医師の診断によれば、原告が発病した適応障害は、本件異動1に伴う環境変化及び人間関係による心理的負荷が要因とされるが・・・、上記過重な業務による心理的負荷も発病の基盤となっていることは否定できないというべきである(上記適応障害については、労働基準監督署長が連続勤務との相当因果関係を認め、労働者災害補償保険法による業務上の疾病である旨認定している。・・・)。」

慰謝料額については、上記不法行為が適応障害の発病の基盤となったこと、その治療内容、治療期間及び治療頻度を考慮し、不法行為・・・についての原告の請求額どおり、100万円とするのが相当である。

3.人員配置・納期交渉の義務/高額の慰謝料

 48連勤させることが違法だというのは当たり前であり、この部分の判示にそれほどの驚きはありません。

 個人的に目を引かれたのは、

「被告としては、原告の補助をさせる者を配置するか、フジテレビと協議して納期を伸ばすといった方法で、原告の負担を軽減すべきであった。」

と判示されている部分です。損害賠償請求の根拠であることを超え、作為請求の根拠となるのかは不分明ですが、人手不足や短納期発注に追われて碌に休みをとることができない労働者が休みをとらせて欲しいと使用者と交渉するにあたり活用できる判示だと思います。

 また、精神障害を発症している事案であるとはいえ、100万円と比較的高額の慰謝料が認定されていることも特筆に値します。これは48連勤という異様な勤務実態の悪性を重く見たからではないかと思われます。

 休みがとれない人の保護・救済を考えて行く上で、本件は実務上参考になります。