弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

国立大学の大学病院職員個人をハラスメントを理由とする損害賠償請求の被告にできるか?

1.公務員の個人責任 国家賠償法1条1項は、 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」 と規定しています。 公務員…

管理監督者性を検討する要素としての待遇-他部門の労働者の待遇は参考になるか?

1.管理監督者と待遇 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。管理監督者とは「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」の意と解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経…

公務員の配転-子どもの世話ができないなら配偶者を連れて引っ越せばいい?

1.公務員の配転を争う二つのハードル 訴訟で公務員の配転(配置換え)の効力を否定するためには、二つのハードルを乗り越える必要があります。 一つは審査請求前置との関係で要求される要件です。 一昨日紹介した判決文でも触れられているとおり、国家公務…

公務員の配転-審査請求をし忘れて訴訟提起してしまったら・・・

1.公務員の配転で審査請求に関する教示がされない問題 国家公務員法89条1項は、 「職員に対し、その意に反して、降給し、降任し、休職し、免職し、その他これに対しいちじるしく不利益な処分を行い、又は懲戒処分を行わうとするときは、その処分を行う…

公務員の配置換えにおいて、訴えの利益(いちじるしく不利益であること)が認められた例

1.公務員の配置換え 民間の場合、配転の効力を争って訴訟提起すれば、裁判所から、転属先で勤務する労働契約上の義務の存否を判断してもらうことができます。 しかし、公務員の場合、必ずしもそうは理解されていません。 公務員の場合、配転は、行政処分(…

早出残業の立証のハードル

1.早出残業 労働契約上、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれているのは、原則として所定労働時間ないし所定労働時間の間であり、当該時間の外での就業が、使用者の指揮命令下に置かれているというためには、使用者の明示又は黙示の指示に基づいているこ…

スタッフ職の管理監督者性-労働時間に一定の裁量があり年収が高くても管理監督者性が否定された例

1.スタッフ職の管理監督者性 「スタッフ職」という言葉があります。法令用語ではないため、明確な定義はありませんが、一般的には、「人事、総務、企画、財務部門において、経営者と一体となって判断を行うような専門職」をいいます。 https://jsite.mhlw.…

標準例に掲げられていない非違行為(ハラスメント加害者による関係者に対する圧力)の処分量定Ⅱ

1.懲戒処分の標準例 公務員の懲戒処分に関しては、どのような行為をすれば、どのような処分量定になるのかについての標準例が定められているのが一般です。 例えば、国家公務員について言うと、「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68…

退職の意思表示に必要な判断能力の程度

1.意思能力 民法3条の2は、 「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」 と規定しています。 つまり、有効な意思表示をするためには、「意思能力」が具備されている必要があります。 この「意…

留学費用の返還請求への対応-留学とは関連しない部署に配属された労働者が辞めてしまう問題

1.労働基準法16条(賠償予定の禁止) 労働基準法16条は、 「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」 と規定しています。 ここでいう「労働契約の不履行」については「典型的なものは、期…

留学費用の返還合意と「自由な意思」の法理

1.「自由な意思」の法理の適用範囲 賃金や退職金の減額は、これを受け入れる行為があるとしても、必ずしも有効になるわけではありません。減額を受け入れる行為が「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在」し…

退職者に対するセミナー受講料返還請求の可否

1.賠償予定の禁止 労働基準法16条は、 「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」 と規定しています。 ここでいう「労働契約の不履行」については「典型的なものは、期間の定めのある労働契…

供述による労働時間(休憩時間)立証が認められた例

1.時間外勤務手当等(残業代)請求における労働時間の立証 使用者にはタイムカードによる記録等の客観的方法で労働時間を管理する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3、労働安全衛生規則52条の7の3 ほか 労働時間の適正な把握のために使用者…

変形労働時間制の有効性-所定労働時間を超過したシフト表

1.1か月単位の変形労働時間制 1か月単位の変形労働時間制とは、 「1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間・・・以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり…

同業他社で働いてもいいが、顧客を奪ってはならないとする競業避止契約の効力

1.競業避止契約 会社と労働者との間で、退職後の労働者の競業を禁止する契約が結ばれることがあります(競業避止契約)。競業避止契約の典型は、独立して競業することや、同業他社への就職・転職を制限するものです。 このタイプの競業避止契約の効力は、…

給料の支払いを受けるために理事から徴求する念書の体裁

1.賃金の未払いが生じたとき 賃金の未払いが生じたとき、労働者が法人の経営者に詰め寄って、賃金を支払うという念書を作成させることがあります。 賃金を支払えていないという負い目があるためか、別段、労働者側で強迫的な言葉を使わなくても、念書の作…

ストレスに対し「大丈夫です。」と言っていたら、精神を病んでも職場への責任追及はできなくなるか?

1.問題があっても問題がないと答えてしまう労働者 仕事上のストレスに晒されていても、そのことを表に出そうとしない労働者は少なくありません。こうした行動に及ぶ背景には、プライドから弱みを見せることが恥ずかしい、上長から不利な評価を受けたくない…

休職から復職を求める時の留意点-原職復帰にどこまでこだわるか?

1.復職要件 私傷病休職から復職するためには、傷病が「治癒」すること、すなわち、 「原則として従前の職務を支障なく行うことができる状態に回復したこと」 が必要と理解されています。 https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/55.html しかし、これは飽…

障害の残遺した労働者への合理的配慮の提供義務が復職の可否の判断に与える影響

1.合理的配慮の提供義務 障害者雇用促進法36条の3は、 「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者で…

傷病休職からの復職-主治医意見vs産業医意見(洗練された産業医意見にどう立ち向かうか)

1.休職からの復職 休職とは、 「労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、就労を免除または禁止すること」 をいいます。 休職のうち傷病を理由とするものを傷病休職といいます。 傷病休職した労働者が、復職する…

未払賃金請求-親会社役員の「必ず精算します。」は、あてにしていいのか?

1.賃金の支払が滞り始めたら・・・ 個人的観測の範囲でいうと、賃金の支払が滞り始めても、直ちに弁護士のもとに相談に来る方は、決して多数派とはいえないように思います。概ねの人は、退職・転職したり、経営者の言質を取りに行ったりしています。 賃金…

自分で法的措置をとるリスク-再審査請求先の間違い

1.地方公務員の公務災害の不服申立手続 民間の労働者災害補償保険(労災)に対応する仕組みとして、地方公務員には地方公務員災害補償という仕組みがあります。 補償に関する決定に不服がある場合、行政不服審査法に基づいて地方公務員災害補償基金支部審…

賞与込みの想定年収の記載は信用できるか?

1.賞与の権利性 賞与が支給されることを見込んで生活設計を立てている方は、少なくないと思います。 しかし、法律上、賞与は当然に支給されるわけではありません。 多くの就業規則・賃金規程で、賞与は「会社の業績等を勘案して定める。」などと記載されて…

休憩時間に労働していたという主張-休憩時間がやたら長い場合

1.休憩時間に労働していたという主張 フルタイムの労働者が時間外勤務手当等(残業代)を請求するにあたり、休憩をとらずに労働していたと主張することがあります。 しかし、休憩時間も労働していたことの立証が成功する事件は、それほど多くはありません…

会社のナンバー3でも管理監督者には該当しないとされた例

1.管理監督者 管理監督者には、時間外勤務手当(残業代)を支払う義務がありません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職には残業代を支払う必要がないと言われているルールです。 この管理監督者への該当性は、 ① 職務内容、権限および責任の程度、 ② …

心理的負荷「弱」「中」「中」で業務起因性が認められた例

1.精神障害の認定基準 精神障害であったとしても、業務上の疾病である限り、労災認定の対象になります。 ある精神障害が、業務上の疾病と認められるか否かについては、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準に…

障害者の労災-基準とすべき労働者をどうみるか?

1.精神障害の認定基準 精神障害であったとしても、業務上の疾病である限り、労災認定の対象になります。 ある精神障害が、業務上の疾病と認められるか否かについては、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準に…

大学教授の地位保全の必要性

1.地位保全の仮処分 解雇や配転を受けると、それまでの日常生活・職業生活が一変してしまうことも少なくありません。しかし、解雇や配転の効力を争って法的な手続をとっても、裁判所の終局的な判断が得られるまでには、一定の時間がかかります。近年では労…

職種限定合意を解除する配転合意と「自由な意思」

1.職種限定合意と配転合意 職種限定の合意とは、 「労働契約において、労働者を一定の職種に限定して配置する(したがって、当該職種以外の職種には一切つかせない)旨の使用者と労働者との合意」(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林…

黙示の職種限定合意が認められる職業類型-大学教授(薬学部教授)

1.職種限定合意 職種限定の合意とは、「労働契約において、労働者を一定の職種に限定して配置する(したがって、当該職種以外の職種には一切つかせない)旨の使用者と労働者との合意」(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、初版…