1.休憩時間に労働していたという主張
フルタイムの労働者が時間外勤務手当等(残業代)を請求するにあたり、休憩をとらずに労働していたと主張することがあります。
しかし、休憩時間も労働していたことの立証が成功する事件は、それほど多くはありません。個人的な実務経験の範囲でも、なんだかんだ理屈をつけては、裁判所は一定の休憩時間の存在を認定する傾向にあります。
それでは、この傾向は、労働契約で設定されている休憩時間がやたら長い場合にも妥当するのでしょうか?
業種によっては早朝と夕方以降に業務が集中していて、昼にやたら長い休憩時間が設定されていることがあります。こうした場合に、休憩時間中も稼働していたことの主張、立証を試みる場合にも、やはり休憩時間の切り崩しは難しいのでしょうか?
この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令3.1.12労働判例ジャーナル110-24 フーリッシュ事件です。
2.フーリッシュ事件
本件は、いわゆる残業代請求事件です。
被告になったのは、菓子の製造販売等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し(本件雇用契約)、被告が経営する洋菓子店(本件店舗)において、パティシエとして勤務していた方です。
洋菓子店という業態を反映し、本件雇用契約で定められていた所定労働時間は、
午前6時30分から午前11時まで 及び 午後3時から午後6時30分まで
とされていました。
そして、休憩時間は、
午前6時30分から午前11時までの間に30分
午後3時から午後6時30分までの間に30分
とされていました。
こうした労働時間制のもと、原告は、次のとおり、午前11時から午後3時までの間も本件店舗で勤務していたと主張しました。
(原告の主張)
「本件店舗の営業時間は原則午前10時から午後8時までの間であり、出勤している製造スタッフは平均3、4人程度であった。そのため、仮に、1人当たり5時間休憩時間を取得すれば、店舗業務に多大な支障が出ることは明らかである。」
「しかも、午前11時から午後3時までの間は昼休みの時間帯であり、繁忙となりやすく、その間に固定して4時間もの時間を取得できるはずがない。」
「仮に、所定労働時間のとおり、午前11時に退勤し、午後3時に改めて出勤するのであれば、その旨をタイムカードに記載させるとともに、労働時間から差し引く旨を記載させれば足り、そうした措置を講じることは容易であるのに、被告がそうした措置を講じていないのは、原告ら被告の従業員が午前11時から午後3時までの間も勤務していたからに他ならない。」
これに対し、被告は、
「午前11時から午後3時までの間は休憩時間である」
と反論しました。
裁判所は、次のとおり述べて、1時間30分の限度でのみ休憩時間を認定しました。
(裁判所の判断)
「原告の陳述書には、始業時刻から終業時刻までの間につき、午前11時から午後3時までの間を含めて業務に従事しており、休憩時間は1時間程度であった旨の記載があるところ、その内容に特段不自然な点はないものの、これを裏付けるに足りる他の客観的な証拠はないことからすると、直ちにはこれを採用できないが、被告が原告の労働の具体的な状況について何ら主張していないことなど弁論の全趣旨をも考慮し、原告は、午前11時から午後3時までの間についても業務に従事していたと認めるものの、始業時刻から終業時刻までの間に少なくとも1日につき1時間30分の休憩時間を取得していたものと認めるのが相当である。」
3.やたら長い休憩時間は切り崩しが容易?
裁判所は、上述のとおり、1日の休憩時間を1時間30分と認定しました。午前の勤務で30分、午後の勤務で30分の休憩時間が設定されていたことからすると、午前11時から午後3時までの間に30分休憩したのと同じ労働時間が認定されたことになります。
ここで注目すべきは、休憩時間を切り崩せた理由として、
「被告が原告の労働の具体的な状況について何ら主張していないことなど弁論の全趣旨をも考慮し」
と使用者側の労働時間管理の問題を指摘している点です。
休憩時間がやたら長い場合、なし崩し的な長時間労働を抑制するため、通常よりも強く労働時間管理の要請が働き、これを懈怠した場合には、比較的広範に休憩時間の切り崩しを認めることを示唆しているのかも知れません。
本件は、長時間の休憩時間が設定されている職場で残業代を請求するにあたり、参考になるように思われます。