弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

残業代請求-休憩時間とされいてる時間の労働時間性の立証(休憩時間とされている時間がやたら長いとまではいえない場合)

1.休憩時間とされている時間の労働時間性の立証

 1日の労働時間が8時間を超える場合、使用者には少なくとも1時間の休憩時間を付与する義務があります(労働基準法34条1項)。そのため、多くの企業では1日8時間労働のフルタイムの労働者に対し、1時間の休憩時間を設けています。

 しかし、長時間の残業を余儀なくされている労働者の中には、会社から定められている時間に休憩をとることができない方が少なくありません。

 こうした方を代理して未払残業代時間外勤務手当等)を請求するにあたり、休憩をとる暇もなく朝から夜まで働いていたという主張をすることがあります。

 しかし、個人的な実務経験の範囲で言うと、この種の主張が通ることは、あまりありません。会社側からの

昼食をとることはできていたはずだ、

そんなに長い時間休憩なしで働くことは現実的でない、

などという反論を受け、何だかんだで会社が定めている休憩時間(多くの場合、労働基準法の定めと一致する1時間)程度は休憩をとっていたと認定される例が殆どです。

 それでは、会社が休憩時間を労働基準法所定の1時間よりも長く設定していた場合はどうでしょうか?

 会社所定の休憩時間は休憩をしていたものと扱われてしまうのでしょうか? それとも、擬制的に認定される休憩時間は、会社がどのように休憩時間を定めているのかとは異なる観点から決められるのでしょうか?

 以前、

休憩時間に労働していたという主張-休憩時間がやたら長い場合 - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事の中で午前の勤務と午後の勤務との間に4時間の休憩が挟み込まれていた事案について、1時間30分の限度で休憩時間が認定された裁判例をご紹介しました(大阪地判令3.1.12労働判例ジャーナル110-24 フーリッシュ事件)。この裁判例から休憩時間がやたら長い場合の取扱いはある程度推測がつきますが、休憩時間がやたら長いとまではいえない場合は、どのような認定になるのでしょうか?

 この問題を考えるに当たり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令2.11.6労働判例1263-84 ライフデザインほか事件です。

2.ライフデザイン事件

 本件で被告になったのは、不動産の売買、賃貸、仲介等を目的とする株式会社(被告会社)と、その代表取締役(被告Y1)です。

 原告になったのは、被告会社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していた方です。退職後に残業代(時間外勤務手当等)・残業代相当損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。

 原告の所定労働時間は、

午前10時から午後8時まで

休憩時間2時間

と定められていました。

 休憩時間の労働時間性について、原告は、

「業務多忙であり、所定の2時間どころか1時間を超えて休憩時間を取得することすらできなかった。労働条件通知書には、『休憩;昼1時間、他1時間』と記載されていたが、休憩時間自体の定めはなく、従業員は皆休憩時間を取得していなかった。原告も広汎な業務を担当していたため、食事のために1時間の休憩時間はとっていたが、その他の休憩時間はとれなかった。」

と主張しました。

 これに対し、被告会社は所定労働時間は2時間であると主張しました。

 裁判所は、次のとおり判示して、休憩時間は1時間であると判示しました。

(裁判所の判断)

「原告は、原告が所定の2時間の休憩時間を取得することはできず、取得できた休憩時間は1時間にとどまっていた旨主張する。」

「そこで検討すると、被告会社が原告に相当程度の量の業務を行わせ・・・、現に原告が相当程度長時間の残業に従事しており・・・、原告の業務が相当過密化していたことがうかがわれること、他方で、被告Y1も、休憩については細かく時間管理をしていたわけではないので、いつ休んでいるのか管理していなかったと供述していること・・・も併せて考えると、原告が所定の2時間の休憩時間を確保できていたとはにわかに考え難く、原告については1時間のみ休憩時間を取得していたと認めるのが相当である。

3.相当程度長時間の残業の事実から1時間以上の休憩の不確保は立証できそう

 上述のとおり、裁判所は、相当程度長時間の残業に従事していたことや会社側で労働時間管理をきちんと行っていなかったことを根拠に休憩時間は1時間しか確保できていなかったと認定しました。

 所定休憩時間の労働時間性が問題になるのは、会社側が休憩時間をきちんと管理していない場合なので、上述の判旨は、長時間残業の事実から休憩がまともにとれなかったことが事実上推定されるといっているようにも読めます。

 本裁判例は休憩時間とされていた時間の労働時間性を立証するにあたり参考になります。