弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

イエスマンでないことを理由にクビにできるか?

1.仕事観の違い、質問・異論・意見の提出 解雇やハラスメントに関する相談を受けていると、経営者との仕事観の違いや、質問・異論・意見の提出が、事件の端緒になっていることが珍しくありません。 解雇の効力が問題となる事件について言うと、こうした価…

退職の意思表示の認定-「慎重に検討する必要がある」とされた例

1.退職の意思表示には「自由な意思に基づいていない」との理屈が通用しにくい? 労働法の領域では、 「自由な意思に基づいていない。」 との理屈で、合意の効力を否定できる場合があります。 しかし、合意退職、退職の意思表示の場面で、こうした理屈を適…

日時を特定しない居眠りの主張・立証に意味はあるのか?

1.居眠りの主張・立証 使用者側から解雇事由の一つとして、勤務時間中の居眠りを指摘されることがあります。また、残業代を請求した時に、「居眠りをしていたから払わない。」という反論が寄せられることがあります。 しかし、大抵の場合、 「それでは、何…

固定残業代の亜種-さじ加減によって支払われていた「時間外手当」「休日手当」は有効な残業代の弁済になるのだろうか

1.ランダムに額が決められている「時間外手当」「休日手当」 固定残業代は、一般に、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 として定義されています(白石哲編著『労働関係訴…

就業規則の周知性-物理的に知ろうと思えば知れればいいのか?

1.就業規則の周知性 労働契約法7条本文は、 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとす…

医療従事者の「休憩時間」は労働時間である場合が相当程度あるのではないだろうか

1.手待時間 使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間を手待時間といいます。休憩とされている時間も、手待時間であると認められれば、労働時間となります。 実務上、手待時間への該当性は、職業運転手の待機時間、事業場内における仮…

早出残業による残業代請求は意外といける?-裏付けとなる証拠は、どの程度のものが必要なのか

1.早出残業はそう簡単には認められない 始業時刻前に出勤して働くことを、俗に「早出残業」といいます。 早出残業をした場合も、業務命令に基づいて労務の提供を行っていたと認められる関係がある限り、時間外勤務手当を請求することができます。 しかし、…

労働時間概念の相対性-労災認定の場面では厳密な労働時間「数」の立証がいらないこともある

1.労災認定の場面における「労働時間」の重要性 精神障害の発症が労災と認定されるためには、時間外労働の時間数が重要な意味を持ちます。 具体的に言うと、 「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日付け 基発1226第1号)(令和2…

有給休暇取得時に支払われる「通常の賃金」-所定労働時間が深夜帯等に係っていても割増賃金部分は考慮されないのか?

1.有給休暇を取得した時に幾ら支給されるのか? 労働者が有給休暇を取得した場合、使用者は、 「平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わな…

雇入れ時に見せてもらえなかった就業規則・賃金規程が労働条件になるのは、それほど自明なことなのだろうか?

1.雇入れ時に就業規則が交付されない問題 労働者の採用過程は会社によって色々あります。 丁寧な会社は、労働条件通知書(労働基準法15条1項所定の書面)を交付するとともに、就業規則の写しを渡し、どのような労働条件のもとで勤務することになるのか…

セクシュアルハラスメントを受けたら同僚でも構わないのでラインで相談を

1.同僚との間で交わされたラインメッセージがセクハラの認定の決め手になった事例 セクシュアルハラスメントの中には、第三者の目に触れない態様で行われるものも少なくありません。こうした事案では、セクシュアルハラスメントを構成する具体的事実の存否…

当たり!!ワインディナーwith監査役(交換不可)-この趣味の悪い企画の代償は低すぎないか?

1.職場におけるセクシュアルハラスメント 職場におけるセクシュアルハラスメントには、 職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(以下「対価型セクシュアルハラスメント」という。) …

固定残業代の効力-実際の時間外労働等の状況との乖離

1.対価性要件の一要素-実際の時間外労働の状況との乖離 固定残業代の合意が有効といえるためには、 「時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていた」 ことが必要とされています(最一小判平30.7.19労働判例1186-5日本ケミカル…

固定残業代の効力を争う場合の留意点-36協定(労働基準法36条1項所定の協定)の欠缺の主張のし忘れに注意

1.固定残業代の有効要件 固定残業代の有効性について、最高裁は二つの要件を定立しています。 一つは判別要件です。固定残業代が有効といえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とが判別できる必要があります(最…

管理監督者性を崩すための証拠収集活動-細かい指示が書かれたメールは要保存

1.管理監督者 管理監督者には時間外勤務手当を支払う必要がないとされています(労働基準法41条2号参照)。ただ、この管理監督者に該当するためには、 ①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること、 ②自己の労働時間について…

橋本弁護士の入所について

今月から橋本佳代子弁護士が当事務所に加わっています。 https://shishikado.jp/hashimoto-kayoko/ 橋本弁護士は、労働事件全般に極めて優れた知見を有しており、私が最も尊敬する弁護士の一人です。 当事務所は労働事件を重点的な取扱い分野としています。…

アカデミック・ハラスメント-研究指導・博士論文の評価の問題

1.学生が怖い? アカデミック・ハラスメントに関しては、学生側だけではなく、大学教員の方から相談を受けることもあります。 個人的な経験の範囲では、普通に指導して成果物が合格水準に達していなかったから、そのような評価をしただけなのに、学生から…

アカデミック・ハラスメント-指導担当教員の変更、学位論文審査委員からの除斥の権利性

1.大学院生はどこまで何を要求できるのか? アカデミック・ハラスメントの被害を受けたとき、学生は何をどこまで要求することができるのでしょうか? 昨日述べたとおり、アカデミック・ハラスメントを直接規制する法規範はありません。アカデミック・ハラ…

アカデミック・ハラスメント-調査要請の放置はどの程度で違法になるのか?

1.アカデミック・ハラスメント 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミック・ハラスメントといいます。 アカデミック・ハラスメントには、労働問題以外の要素も多分に含まれています。しかし、労働関係ハラスメントの考え方が類推・応用…

不動産の存在を認識していても、相続放棄は間に合う可能性がある

1.相続放棄と不動産の認識 民法915条1項は、 「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」 と規定しています。 いわゆる相続放棄の熟慮期間で…

残業代請求における14.6%の遅延利息の請求の可否-幅のありすぎる「合理的な理由」

1.賃金の支払の確保等に関する法律 退職後に残業代を請求する場合、14.6%の遅延利息を請求するのが通例です。 民法上の法定利率が年3%とされていること(民法404条2項)と対比すると、かなり高い利率であることが分かると思います。 こうした高…

防護服を着用したままの休憩は「休憩時間」か?

1.休憩時間 休憩時間とは、労働からの解放が完全に保障されている時間をいいます。労働基準法上、使用者は、労働者に休憩時間を自由に利用させなければならないとされています(労働基準法34条3項)。 https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/05/39.html …

死者が当事者である事件、周辺から事情聴取する時の注意点

1.農業アイドル自殺訴訟の経過に関する記事 ネット上に、 「『農業アイドル自殺訴訟』で場外乱闘 タレント弁護士がちらつかせた“月9出演”話」 という記事が掲載されています。 https://news.yahoo.co.jp/articles/4e7aa69c8949152bfffdad8696c36c79384d357…

死者の残業代を請求する訴訟-タイムカードvs死人に口なし

1.死者の権利を行使することの困難さ 権利を持った当事者が死亡してしまった場合に、その相続人が権利者に代わって訴訟提起などの権利行使を行うことがあります。 しかし、この種の訴訟は、往々にして困難が伴います。事実関係を死者に語ってもらうことが…

整理解雇の三要素?

1.整理解雇の四要素 整理解雇については、実務上、 「①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性を中心にその有効性を検討するのが趨勢である」 と理解されています(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、…

自宅作業時間の労働時間性の立証

1.持ち帰り残業 業務量は多いのに勤務先からは早く帰れと言われる、そうした時に自宅に仕事を持ち帰って働いている人がいます。 こうした自宅での作業時間も、使用者の指揮命令下で労務を提供していると認められる限り、労働時間になります。 ただ、自宅で…

偽装請負切り-偽装請負で請負事業者から解雇されたら・・・

1.偽装請負 偽装請負とは、 「書類上、形式的には請負(委託)契約ですが、実態としては労働者派遣であるもの」 をいいます。 労働者の側から見て、自分の使用者からではなく、発注者から直接、業務の指示や命令をされるといった場合、それは偽装請負であ…

弁護士が弁護士を訴える時、注意義務のレベルは加重されるか?

1.弁護士を訴えて欲しいという依頼に慎重なのは慣れ合いか? 弁護士を訴えたいという相談があった場合、多くの弁護士は慎重な態度をとるのではないかと思います。 これに対し、時折、外野から仲間同士の慣れ合いだという批判が飛んでくることがあります。…

尋問のポイント-余計なことは言わない

1.尋問で気を付けること 尋問における一般的注意事項の一つに、 「余計なことは言わない」 というルールがあります。 対象者の回答が足りない場合、尋問を担当する弁護士は、質問を補充することによって法廷に顕出される供述を適当な分量に調整することが…

配転命令拒否→無断欠勤解雇への対抗手段

1.配転命令を間に噛ませて解雇する手法 使用者が労働者を会社から排除する時に、配転命令を間に噛ませる方法があります。労働者が拒否しそうなポストへの配転を命令し、これを労働者が拒否したら、無断欠勤を理由に解雇するという手法です。 このような手…