弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

整理解雇の三要素?

1.整理解雇の四要素

 整理解雇については、実務上、

「①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性を中心にその有効性を検討するのが趨勢である」

と理解されています(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕363頁参照)。

 しかし、この四つの要素について、それぞれが同じような比重を有しているかというと、必ずしもそういうわけではありません。特に、

「④手続の相当性」

に関しては、要素として大した意味を持っていないのではないかという指摘が根強くあります。

 上述の文献も、

「実務上は、決してこの要素を軽視しない方がよいと思われる」

としながら、

「手続の相当性については、他よりも比重が小さく、他を満たしているのに、これだけで解雇が無効となった例は少ないとする指摘もある」

との見解を紹介しています(上記文献377頁)。

 個人的な経験の範囲では、四要素とはいうものの、実体は三要素+αくらいの意味合いで捉えていた方が、(それがあるべき姿かは別として)現状認識として正確ではないかと思っていましたが、その認識を裏付ける裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令2.3.26労働判例ジャーナル101-24 学校法人明浄学院事件です。

2.学校法人明浄学院事件

 本件で被告になったのは、大阪市に高等学校及び大学を設置する学校法人です。

 原告になったのは、被告が運営する高等学校に勤務していた保健体育の教諭2名です。被告から整理解雇を受けたため、当該整理解雇が無効であると主張して、地位確認等を求めて提訴したのが本件です。

 この事件の特徴は、整理解雇の効力を論じるに際し、手続の相当性が判示事項から省かれているところです。

 裁判所は、次のとおり述べて、整理解雇の有効性を否定しました。

(裁判所の判断)

「本件各解雇は、就業規則13条1項4号(『やむを得ない業務上の事情により事業を縮小、廃止するとき』)に基づくものであり、労働者(原告ら)の責めに帰すべき事由によるものとはいえないことから、本件各解雇について、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であるといえるか否かを判断するに当たっては、〔1〕人員削減の必要性、〔2〕解雇回避努力の履行、〔3〕人選の合理性、〔4〕手続の妥当性の各事情を総合的に考慮して判断するのが相当というべきである。

〔1〕人員削減の必要性について

「上記認定事実によれば、被告の平成29年度の事業活動収支は、約3億の赤字であることに加え、日本タイムズや朝日新聞等の記事が掲載されたことにより平成30年度には本件高校の入学者数の減少が見込まれる状況であった・・・。したがって、被告が平成29年8月頃、平成30年度の本件高校の入学者数が41名減少することを見込んで、平成30年3月末までに本件高校の教員数を専任・常勤を含めて12から13名減少する方針を決めたこと・・・は、実際に平成30年度の本件高校の入学者数が55名減少したこと・・・も考慮すると、不合理とはいえない。」

「しかしながら、平成30年2月頃までには、専任教諭2名が懲戒解雇され・・・、専任教諭8名が希望退職に応じ、また、平成30年3月に定年退職予定者1名がいる状況であった・・・。さらに、被告の人員削減方針(12から13名)の対象者には常勤講師も含まれるところ、平成30年3月には常勤講師7名が退職となっている・・・。この点、被告は、常勤講師7名の退職については本件各解雇時には明らかでなかった旨主張するが、人員削減のために希望退職者の募集を行っている状況で、翌月に契約期間が満了する有期雇用契約者の退職の意向を確認していないとは考え難いし、その意向を確認していれば容易に判明した事実であると考えられる。一方、本件各解雇に先立って常勤講師との有期雇用契約の更新の可否を検討できなかった事情も見当たらない。また、被告は、懲戒解雇を受けた教員2名についてはその効力を争っていたなどとも主張するが、懲戒解雇が無効とされることに備えて人員削減するために解雇する合理性が認められるものでもない。仮に、常勤講師7名が平成30年3月頃になって急に退職を申し出たとしても、そのために同月頃(急な退職申し出を前提にすると急遽)、新たに13名を採用していること(認定事実ニ)からすると、本件各解雇の予告を撤回して原告らの雇用を継続することができなかった理由も見当たらない。」

「加えて、本件高校の教員数を専任・常勤を含めて12から13名減少する方策として、大阪観光大学や関連会社への異動も想定されていたところ(・・・現に原告P1にも株式会社明浄への転籍が打診されているところである・・・。)、教員1名が大阪観光大学に異動し、教員1名が株式会社明浄に転籍している・・・。」

「そうすると、平成30年3月までに、原告ら2名を除き、被告の計画を上回る本件高校の教員20名が削減されたことになり、想定以上に本件高校の入学者数が減少したことを考慮しても、更に原告ら2名を解雇する人員削減の必要性まであったのか否かについては疑問がある。」
〔2〕解雇回避努力の履行及び〔3〕人選の合理性について

「被告は、本件高校には、平成29年当時、専任4名を含めて6名の保健体育教員がおり、週当たり保健体育述べ授業数71から週当たり保健体育必履修授業数56を控除した週当たりの余剰授業数が15と多く、余剰時間に相当する年間人件費が573万円に上っていたため、保健体育教員2名を削減することとした旨主張する。しかしながら、平成30年2月頃までに、上記保健体育教員6名のうち、P4教諭が懲戒解雇、P7教諭が教頭(副校長)に就任になり、本件各解雇された原告ら2名に加え、更に平成30年3月までに、P9教員、P4教諭の後任であるP8教員も退職した結果、保健体育教員がP10教員1名になった。そのため、被告は、講師3名を保健体育教員として平成30年4月に採用している・・・。この点、入学者数の減少により保健体育の授業数も減少することが見込まれることからすると、講師3名の代わりに原告ら2名でも対応できた可能性は否定できない(その場合、原告らの年収が計約780万円であったのに対し、講師3名の年収が計約883万円であるため・・・、人件費が削減されないこととなる。)。また、人件費の削減は、解雇に至らなくても原告らの給与額を削減することによっても達成することができた。そうであるのに、被告は原告らに対し、保健体育教員として在職したまま給与を減額する提案を行っていない・・・。さらに、被告の人員削減方針の対象者には常勤講師も含まれるところ、被告が本件各解雇に先立ち、常勤講師の更新の可否を検討したなどの事情も見当たらない。そうすると、人員削減の対象として保健体育教員を選択する人選の合理性が認められず、また、被告が十分な解雇回避努力を行ったとも認められない。」

以上によれば、本件各解雇は、人員削減の必要性に疑問があることに加え、人選の合理性や十分な解雇回避努力の履行が認められず、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、いずれも無効である。

3.検討しなくても結論は変わらなかったであろうが・・・

 ①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性の点で消極的な評価であるにもかかわらず、④手続的に相当であるからとの理由で整理解雇が有効とされることは先ずないと思います。

 そのような意味において、本件は、手続の相当性は議論する実益に乏しかったから無視されたという理解も成り立つように思われます。

 しかし、規範として四要素を指摘しながら、手続について全く検討・評価をしないまま結論を出すのは、④手続の相当性を軽視する裁判例の傾向を反映しているようにも読めます。

 ネット上の一般の方向けの記事には、整理解雇の四要素について、各要素の比重までは論じていないものが目立ちますが、各要素の意味は必ずしも均等ではないため、裁判所の判断傾向を読み解くには注意が必要です。