弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

防護服を着用したままの休憩は「休憩時間」か?

1.休憩時間

 休憩時間とは、労働からの解放が完全に保障されている時間をいいます。労働基準法上、使用者は、労働者に休憩時間を自由に利用させなければならないとされています(労働基準法34条3項)。

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/05/39.html

 それでは、休憩はとれていたものの、防護服を着脱することができなかったという場合、その時間は労働基準法上の「休憩時間」といえるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。一昨日も紹介した福島地いわき̪支判令2.3.26労働判例ジャーナル101-26 いわきオール事件です。

2.いわきオール事件

 本件は、福島第一原発の廃炉工事現場内に設置された自動車整備工場で働いていた方(故人)の残業代請求の可否が問題となった事件です。

 労働時間の認定に際し、エアコンの効いた部屋で涼んで休憩をとることができていたものの、防護服の着脱はできなかった時間が、労基法的な意味での「休憩時間」であると言えるのかが問題になりました。

 この論点について、裁判所は、次のとおり述べて、休憩時間にはあたらない(労働時間にあたる)と判示しました。

(裁判所の判断)

「夏時間については、午前10時頃から午前10時30分頃までの間、整備工場内にある休憩場所において休憩をとり、正午頃に1Fを退域後、休憩をとり、おおむね午後3時から午後3時30分頃に被告事業所に帰社して業務を行った後、終業となっていた」

(中略)

夏時間において、午前10時から午前10時30分までの間、休憩時間があったことは認められるが、その間、作業場内のエアコンが効いた部屋で涼むことはできたが、防護服などを着脱することはできなかったという・・・、その状況等に照らすと、当該時間が労働からの解放が保障された時間と評価することはできないから、当該時間を休憩時間と評価することはできない。

3.制服と防護服は違うのか?

 以前、不活動仮眠時間の労働時間性が問題になった事案として、東京高判平30.8.29労働判例1213-60 カミコウバス事件という裁判例を紹介しました。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/02/13/010208

 この事案の原告・控訴人(バスの交代運転手)は、バス車内で制服の着用が義務付けられていたことを、使用者からの指揮命令から解放されていなかった根拠として主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、不活動仮眠時間の労働時間性を否定しました。

「控訴人らは、①被控訴人に運行業務を依頼するB社が利用客のアンケート結果に基づく評価をしていることから、被控訴人からB社の評価を下げるような行動をしないよう指示命令されていた、②交代運転手についても、休憩する場所がバス車内に限られ、制服の上着の着用は義務付けられていたとして、休憩する場所や服装に自由がないのは被控訴人からの指示命令であったと主張する。

「しかし、上記①について、被控訴人が亡A及び控訴人X4に対し、B社の評価を下げるような行動をしないよう指示命令したことを認めるに足りる証拠はない。」

「また、上記②について、交代運転手の職務の性質上、休憩する場所がバス車内であることはやむを得ないことであるし、その際に、制服の着用は義務付けられていたものの、被控訴人は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限り控訴人らが被控訴人の指揮命令下から解放されるように配慮していたものである。そうすると、交代運転手の休憩する場所がバス車内に限られ、制服の着用を義務付けられていたことをもって、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたということはできない。

 原発の廃炉工場内の一角で防護服を着脱できない状態で涼んでいた時間が労働時間に該当するのであれば、バス車内で制服の着用を義務付けられて缶詰にされていた時間も労働時間といえても良いような気がします。しかし、裁判所は前者の労働時間性を認める一方、後者の労働時間性は否定しています。

 服装の自由・移動の自由のない休憩時間の労働時間への該当性は、微妙な事実関係の違いが結論を左右する極めて分かりにくい様相が呈されています。そのため、この論点で正確な見通しを立てるにあたっては、今後とも裁判例の集積を注意深く観察して行く必要があります。