弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

認定基準に満たない労働時間でも労災が認められた例

1.脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準 くも膜下出欠や心筋梗塞などの脳血管疾患・虚血性心疾患等は、業務による過重負荷も原因になることが知られています。そうした医学的知見を踏まえ、厚生労働省は脳血管疾患・虚血性心疾患等が労災と認められ…

従業員の「厳格な地域制限」の不遵守は解雇理由になるのか?

1.「厳格な地域制限」 「厳格な地域制限」という言葉があります。 日常生活の中では、あまり耳にしない言葉だと思いますが、これは、 「事業者が流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること」 をいいます(平成3年7月11日 …

司法試験:新型コロナウイルス感染症等の罹患が疑われる場合に受験を認めない措置は適法だろうか

1.新型コロナウイルス感染症当の感染防止対策 7月15日に司法試験委員会から、 「令和2年司法試験及び司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染防止対策について」 という文書が出されました。 http://www.moj.go.jp/content/001324266.…

固定残業代における残業時間数の上限について

1.固定残業代における残業時間数の上限 あらかじめ定められた一定の金額で残業代を支払うシステムを固定残業代といいます。この固定残業代に異様な想定残業時間数が組み込まれていることがあります。例えば、80時間分の残業代として〇〇手当を支払う、1…

個別同意による労働条件の不利益変更に必要な「説明」とは?-「嫌なら辞めて」ではダメ

1.労働条件の不利益変更 労働契約法9条は、 「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」 と規定しています…

セクハラによる精神障害-会社側に求められている被害者対応の水準は意外と高い?

1.セクハラによる精神障害と労災 セクシュアルハラスメントによる心理的負荷で精神障害を発症した場合、労災認定を受けられる可能性があります。 より具体的に言うと、 「胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、継続して行われた場…

「頭をなでる」「匂いを嗅ぐ」「『かわいい』と言う行為」がセクハラに該当するとされた例

1.セクハラの該当例 職場における性的な言動への対応により労働条件に不利益を受けたり、性的な言動で就業環境が害されたりすることを、「職場におけるセクシュアルハラスメント」といいます(平成18年厚生労働省告示第615号 事業主が職場における性…

不更新条項付きの有期労働契約の雇止めの否定例-有期プロジェクトの期間が鍵になった例

1.有期労働契約と不更新条項 有期労働契約を締結した場合であっても、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合、客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が認められない限り、使用者は労働者からの契約更新の申込みを拒絶する…

一定期間の労働時間から他の期間の労働時間が推計された事例

1.時間外勤務手当等の請求と推計方式 時間外勤務手当等を請求しようと思っても、タイムカードなどの客観的方法で労働時間管理がされていないことがあります。こうした場合、メールの送信履歴など、タイムカード以外の証拠に基づいて労働時間を主張、立証し…

マイナス10度下でのスキー機動訓練は危険性のない日常業務?

1.公務災害の認定基準 人事院事務総局勤務条件局長 平成13年12月12日勤補-323「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務災害の認定について」という行政通達があります。 これは、心・血管疾患等が公務上災害といえるかどうかを判断するにあたっての認…

公務員の懲戒と弁明・弁解の機会付与

1.公務員の懲戒と弁明の機会付与 事前の弁明の機会付与が不十分なまま、公務員に対する懲戒処分が行われた場合、その効力はどうなるのでしょうか? 以前にもブログで言及したとおり、この問題には二通りの考え方があります。 一つ目は、処分の基礎となる事…

職場での録音に消極的な裁判例の流れ-自己主張を通すための手段としての秘密録音はダメ

1.録音の重要性 労働事件に限ったことではありませんが、訴訟において録音が重要な証拠として機能することは少なくありません。 しかし、近時、職場における録音に、消極的な評価を下す裁判例が続いているように思います。最近の例で言うと、執務室内での…

条例で給与が遡及して増額された場合、残業代の精算が必要にならないのか?

1.人事院の給与勧告 人事院は、労働基本権制約の代償措置として、職員に対し、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものであり、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本に勧告を行ってい…

事後的に体裁を取り繕ったところで固定残業代は容易には有効にならない

1.固定残業代 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残業代に…

賃金の減額幅-1割5分は大きいか?

1.賃金減額の合意と「自由な意思」論 賃金減額の合意は、錯誤、詐欺、強迫といった事情がなくても、その効果を否定できる場合があります。これは、最高裁の判例により、 「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の…

職種限定合意を覆す正当な理由

1.職種限定合意と配転 職種限定合意がある場合、使用者は労働者から個別に同意を取り付けない限り、他職種への配転を命じることができません。 しかし、一定の正当な理由が認められる場合には、職種限定合意がある場合であったとしても、他職種への配転が…

職種限定合意が認められやすい職業類型-大学准教授

1.職種限定の合意 使用者による配転命令の効力を、配転命令権の濫用という観点から争うことは、決して容易ではありません(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)。 しかし、配転命令権の効力の争い方は、濫用を主張することだけ…

裁判所は素人による逸脱した行為(弁護士の頭越しに行う直接交渉)に甘すぎではないだろうか

1.代理人の頭越しの交渉 弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規70号)52条は、 「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」 と規定…

仕事への思い入れの強さは労災認定との関係では不利になる?

1.ストレス-脆弱性理論 労災の場面で「ストレス-脆弱性理論」という言葉が使われることがあります。 これは、 「対象疾病の発病に至る原因の考え方は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうか…

退職までの出勤日を有給休暇で埋める法的根拠

1.退職妨害への対応方法 退職したいと言い出すと、ハラスメントによる報復が予想される場合、退職予定日までの出勤日を有給休暇で埋めてしまうことがあります。 有給休暇の時季指定が「事業の正常な運営を妨げる場合」、使用者には時季変更する権利が与え…

有給休暇-言い出しにくい時には弁護士を通じて言ってもよいのではないか

1.年次有給休暇と時季変更権 労働基準法上、使用者は、その雇入れの日から起算して6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、勤続期間に応じた有給休暇を与えなければならないとされています(労働基準法39条1項2項)。これを…

成人した精神障害者に対し、老親は監督義務を負うのか?

1.家族による監督義務 認知症に罹患した夫Aが鉄道線路内に立ち入り列車と衝突して死亡した事故に関し、鉄道会社がAの妻や長男に対して監督義務の懈怠を主張して損害賠償を請求した事件があります。 この事件で、最高裁は、 「民法752条は、夫婦の同居…

士業の就職は慎重に-ボスに連座して2000万円超の負債を背負った社会保険労務士

1.士業法人における社員の無限責任 株式会社の場合、原則として、社員(株主)が会社の負債の返済を迫られることはありません。 しかし、士業の法人に関していうと、法人に連座して社員(構成員)が責任を負う形が基本とされています。 例えば、弁護士法3…

長時間労働とウイルス性疾患による死亡との間の相当因果関係

1.対象疾患 業務による明らかな過重があったとしても、あらゆる病気が労災認定の対象とされているわけではありません。脳・血管疾患及び虚血性心疾患等に関して言うと、過重業務に起因する疾患は、行政通達上、 脳内出血(脳出血) くも膜下出血 脳梗塞 高…

マタハラ-育休取得後の原職復帰の原則と原職の消滅

1.育休取得後の原職復帰の原則 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「法」といいます)22条は、 「事業主は、育児休業申出及び介護休業申出並びに育児休業及び介護休業後における就業が円滑に行われるようにする…

整理解雇の解雇回避措置としての配転・出向

1.整理解雇の許容性の考慮要素 「整理解雇については、・・・裁判例の集積により、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性を中心にその有効性を検討するのが趨勢である」と理解されています(白石哲編著『労働関係訴訟の…

「理由は特にない」「説明はしません」「人事権に文句いうんじゃない。」-手続的な配慮を欠く配転命令の効力

1.配転命令権行使の適法性の判断枠組み 労働者の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものを配転といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕220頁参照)。 配転命令権の適法…

執筆に参加した書籍のご紹介Ⅱ

7月2日、「Q&A 賃金トラブル 予防・対策の実務と書式」〔新日本法規、初版、令2〕という書籍が発行されました。 https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/5100133 本書は、主に企業の人事労務担当者や弁護士・社会保険労務士等の実務家を対象に、 「賃金…

「訓戒」の効力を争うために公法上の確認訴訟は使えるか?

1.懲戒と「訓戒」 公務員の懲戒の種類は法定されています。 例えば、国家公務員法は、免職、停職、減給、戒告の四種類の懲戒処分を規定しています(国家公務員法82条1項)。 しかし、こうした法定の処分以外にも、「訓戒」「訓告」といった名称の独自の…

飲酒強要のパワハラへの該当性を立証することは労災の判断に影響するか?

1.パワハラと労災 精神障害に業務起因性(労災)が認められるか否かの判断基準に、 「基発1226第1号 平成23年12月26日 改正 基発0529第1号 令和2年5月29日 心理的負荷による精神障害の認定基準について」 があります。 ここには、 「…