弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

不更新条項付きの有期労働契約の雇止めの否定例-有期プロジェクトの期間が鍵になった例

1.有期労働契約と不更新条項

 有期労働契約を締結した場合であっても、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合、客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が認められない限り、使用者は労働者からの契約更新の申込みを拒絶することができません(労働契約法19条2号参照)。

 この「契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由」を打ち消す約定として「不更新条項」というものがあります。

 不更新条項というのは、要するに、「契約を締結(更新)するのは、今回で終わりだ」という趣旨の約定を言います。契約書に、このような条項を滑り込ませておくことにより、「契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由」がなかったことを基礎づける技法です。

 不更新条項と雇止めの可否の問題は、このブログでも何度か扱ってきましたが、近時公刊された判例集に、不更新条項付きの有期労働契約の雇止めが否定された裁判例が掲載されていました。高知地判令2.3.17労働経済判例速報2415-14 高知県公立大学法人事件です。

2.高知県公立大学法人事件

 本件は雇止めの効力が争われた地位確認等請求訴訟です。

 被告になったのは、高知県が設立した公立大学法人です。

 原告になったのは、被告との間で有期雇用契約を交わしていたシステムエンジニアの方です。

 本件は、

初回の契約締結が、平成25年11月1日(雇用期間:平成25年11月1日~平成26年3月31日)、

一回目の契約更新が、平成26年4月1日(雇用期間:平成26年4月1日~平成28年3月31日)、

二回目の契約更新が、平成28年4月1日(雇用期間:平成28年4月1日~平成29年3月31日)、

三回目の契約更新が、平成29年4月1日(雇用期間:平成29年4月1日~平成30年3月31日)で、

三回目の契約更新時に、契約更新の有無について「更新しない」と明記された書面が交わされていたという経過が辿られています。

 本件の特徴は、原告が、災害看護グローバルリーダー養成プログラム(Disaster-Nursing Global Leader 要請プログラム 以下「GNGLプログラム」といいます)という特定プロジェクトに関する業務に従事することを目的として雇われたことです。DNGLプログラムは平成24年度から平成30年度までの7年間について文部科学省の白紙教育課程リーディングプログラムによる補助事業とされていました。

 ところが、申請した計画額よりも補助金交付額が少額に留まったため、大学側はDNGLプログラム技術職員を平成29年度末(平成30年3月31日)に廃止することを決め、三度目の契約更新の時に、不更新条項付きの労働契約を交わしました。

 被告は不更新条項に基づいて、平成30年3月31日付けで原告を雇止めにしたところ、これに異を唱えて原告は被告を相手取り地位確認等を求める訴訟を提起しました。

 本件では、上述のような経緯で盛り込まれた不更新条項に「契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由」を打ち消す効果があるのかが問題になりました。

 裁判所は、次のとおり述べて合理的理由を肯定したうえ、不更新条項にこれを打ち消す効果を認めませんでした。

(裁判所の判断)

「本件労働契約は、DNGLプロジェクトを前提として、最長でも同プロジェクト終了時までを契約期間として予定していた有期労働契約であると認められ・・・原告も、本件労働契約締結時において、本件労働契約はDNGLプロジェクト終了時まで継続することを期待していたことが認められる・・・。そして、契約締結前は維持しようと考えていた神奈川の住居を平成25年10月中に引き払い、高知に生活の拠点を移したこと・・・、実際に原被告間でDNGLプロジェクトが実施されている期間中3回に渡って労働契約の更新が行われたこと・・・、原告は、Z3主幹から、平成29年2月、同年4月以降の契約を1年契約にするのか、当初約束していた平成31年3月までの2年契約にするのかを人事担当部署とDNGLプログラム責任者・・・と相談の上、進めていきたいとのメールを受け取ったこと、平成30年3月31日時点において、DNGLプロジェクトが同年4月1日から平成31年3月31日まで実施されることが決定しており、原告もこれを認識していたこと・・・からすれば、原告は、本件労働契約の契約期間が満了する平成30年3月31日時点において、労働契約が更新され、被告大学において勤務を継続できる旨の期待を抱いていたと認めるのが相当である。」

(中略)

「第1回契約更新及び第2回契約更新の際に交付された労働条件通知書には、DNGLプロジェクトの業務の進捗状況と予算措置の状況を考慮して更新を判断する旨の記載があった。そして、原告は、Z7局長との面談において、補助金減額という実情とDNGLプログラム技術職員の必要性が低下している旨の説明を受け、その後、第3回契約更新を行ったが、その際に交付された労働条件通知書には契約を更新しない旨の記載があった。これらに加え、原告が平成29年中に被告の正職員採用試験を受験したという実情もある。これらを考慮すれば、以降の契約更新がなされるとの期待が消滅し又は放棄されたという議論が出てき得るとは考えられる。

「しかしながら、一般に、雇用継続を望む労働者にとっては、労働契約を直ちに打ち切られることを怖れて使用者の提示した条件での労働契約締結に異議を述べることが困難であると考えられ、原告においてもZ7局長に言われるまま承認しなければ、直ちに雇止めにされてしまうとの怖れを抱いたとしても不自然ではなく、また、Z7局長の説明では、原告にとって何らの責任もない補助金が減額されたことが理由となっており、しかも、直ちにDNGLプロジェクトが存続し得ないといった事情まで十分に説明されたとはいえない。もともと、原告はLMSの構築やその後の保守管理に関する業務を行うことが求められていたところ、DNGLプロジェクトの経費削減のために、被告から、LMSからMoodleへの移行の業務を頼まれ、これに応じた原告が中心となって平成29年3月末までに移行を完成させたという経緯があり、その能力を存分に活用して、これが完成するや、不要になったとして、当初、DNGLプロジェクトが終了するまで雇用できる資金があるとして勧誘してきた原告の職を、DNGLプロジェクトの終了を待たずして奪うという一方的なものであることに鑑みれば、原告が、Z7局長との面談で平成30年度の契約更新はしない旨の説明を受けて第3回契約更新において契約を更新しない旨の条項を受諾したことをもって、上記の期待が消滅し又は放棄されたと解するのは相当ではない。そして、採用試験の受験も被告大学における勤務を継続するためにやむを得ずに行った側面もあることや、本件労働契約締結までにZ5副学長やZ3主幹らからDNGLプロジェクト期間中の雇用継続を説明されていたこと、被告大学組合に相談して平成30年3月8日に団体交渉の実施に至ったことなどに鑑みれば、原告はなお契約更新に望みをつないでいたということができるため、やはり上記の期待が消滅し又は放棄されたとは認められない。」

3.結局、無期転換ルールと併せて無期雇用が勝ち取られた

 裁判所は上述のとおり合理的理由を認めた後、整理解雇に準じた手法で雇止めの相当性を検討し、

「本件労働契約に関して、あえて雇止めをしなければならない、客観的な理由や社会通念上の相当性があったのかは疑問」

被告は、労契法18条1項による転換を強く意識していたものと推認できるというべきであり、原告に雇用契約が更新されるとの合理的期待が認められるにもかかわらず、同条同項が適用される直前に雇止めをするという、法を潜脱するかのような雇止めを是認することはできない

と判示して、雇止めの効力を否定しました。

 労契法18条1項というのは、いわゆる5年間の継続更新による有期労働契約の無期転換ルールのことです。

 そして、上述の判示の後、無期転換がなされたとして、裁判所は、原告が無期労働契約上の地位を有していることを認めました。 

 本件は有期プロジェクトの期間が突破口になって、無期転換まで勝ち取れた点において特徴的な裁判例だといえます。今後、特定のプロジェクトを前提に雇われて、期間途中で雇止めにあってしまった人は、本件を参考に争って行くことも考えられます。

 また、本件は、不更新条項に合理的理由を打ち消す効力を認めなかったほか、無期転換ルールを潜脱する雇止めを否定した事案としても注目に値します。