弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

整理解雇の解雇回避措置としての配転・出向

1.整理解雇の許容性の考慮要素

 「整理解雇については、・・・裁判例の集積により、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性を中心にその有効性を検討するのが趨勢である」と理解されています(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕363頁)。

 解雇回避措置の相当性に関しては、「ⓐ広告費・交通費・交際費等の経費削減、ⓑ役員報酬の削減等、ⓒ残業規制、ⓓ従業員に対する昇給停止や賞与の減額・不支給、賃金減額、ⓔワークシェアリングによる労働時間の短縮や一時帰休、ⓕ中途採用・再雇用の停止、ⓖ新規採用の停止・縮小、ⓗ配転・出向・転籍の実施、ⓘ非正規従業員との間の労働契約の解消、ⓙ希望退職者の募集等のうち、複数の措置が検討されることが多い」

とされています(前掲文献372頁)。

 この「ⓗ配転・出向・転籍の実施」に関し、近時公刊された判例集に、労働者側にとってかなり厳しめの判断がされた事例が掲載されていました。東京高判令元.12.18労働経済判例速報2413-27 マイラン製薬事件です。

2.マイラン製薬事件

 本件はMR(Medical Representative 医療情報担当者)として働いていた方(原告・控訴人)に対する整理解雇の有効性が問題になった事案です。

 出向先から帰任した時に医薬品に係る営業部門が消滅していて、被告・被控訴人会社内にMRとしての資格やキャリアを活かすことが可能な役職や業務は見当たらなかったとして、原告の方は整理解雇されました。

 一審で敗訴(整理解雇有効)した後、原告の方は、被控訴人とマイラングループのDが共通部門を統合するプロジェクトの中でMRを採用していることを根拠として、解雇回避努力の不十分さを主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を排斥しました。

(裁判所の判断)

「確かに、被控訴人とDとは、平成28年5月から共通部門を「Combined Function」として統合するプロジェクトを開始し、Eが同プロジェクトにおける人事部門の共通の責任者となったようであるが、そうであったとしても、統合に向けたプロジェクトが本件解雇(平成28年5月31日)の直前の時期に開始されたにすぎないし、統合がされた後も、被控訴人とDはあくまで別の法人格(リーガル・エンティティ)とされているのであるから、本件解雇の当時において、被控訴人において任意にDへの配転や出向を行うことができるようになっていたとまではいえないと解される。そして、控訴人が主張するようにマイラングループでMR職の採用がされたとしても、それは、被控訴人とはあくまでも別会社で、MRとして行うべき業務のあるDにおいてされたものにすぎないのであり、これによれば、被控訴人において、本件解雇の当時に、控訴人をDに配転することが可能であったということはできない。

3.随分と形式的に割り切っているように思われるが・・・

 配転はともかく、出向・転籍は法人間をまたぐ人事上の措置であり、必ずしも出向先・転籍元の一存で決めることができるわけではありません。

 しかし、従来、これらの措置は、解雇回避措置の相当性を判断する上での考慮要素としての位置付けられてきました。

 本件は出向・転籍の可能性がどれだけ真摯に検討されたまで踏み込まず、別法人・別会社なんだからDで働いてもらうことはできなかったと、かなり形式的・ドライな判断をしたところに特徴があるのではないかと思われます。

 別法人・別会社であることが、出向等の措置をとらないことを直ちに基礎付けることは、出向等が解雇回避措置の相当性の一要素として考えられてきたことと整合的ではなく、かなり会社側の主張に流されているような印象を受けます。

 ただ、この点は、ひょっとしたら、上記の主張が、控訴審の口頭弁論の終結後、弁論の再開の申立とともに補充された主張であり、原告・控訴人側で十分な主張・立証を展開できなかったことが影響しているのかも知れません。