弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

時間外勤務時間(残業時間)を目標時間内に修正する業務で生じる心理的負荷

1.公務員のサービス残業問題 所属部署に割り振られる予算上の制約などの理由により、公務員にはサービス残業が横行しています。これは古くから指摘されている問題ですが、残念ながら改善には至っていません。 部署単位で残業代を調整するとなると、ある程…

不合理な弁解は解雇の決め手になるのか?

1.使用者からの事情聴取への対応 使用者から非違行為についての事情聴取を受けているときに、反発を覚え、感情的・挑発的な物言いをしてしまう労働者の方は少なくありません。しかし、こうした対応は、往々にして事態をより悪化させます。近時公刊された判…

性同一性障害者が自認する性別に対応するトイレを使用する利益(続報)

1.性自認に基づいた性別で社会生活を送る権利が問題となった裁判例 以前、 性同一性障害者が自認する性別に対応するトイレを使用する利益と行政措置要求の可能性 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事の中で、東京地判令元.12.12労働判例ジャーナ…

執筆に参加した書籍のご紹介Ⅲ

第二東京弁護士会は、厚生労働省から委託を受け、「フリーランス・トラブル110番」という法律相談・ADR(Alternative Dispute Resolution 裁判外紛争解決手続)事業を実施しています。 『フリーランス・トラブル110番』の開始について|第二東京弁護士…

管理監督者性を否定するための立証活動-月初に残業が多くなる傾向

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

賃金額の決定権限と管理監督者性

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

特別職の地方公務員への雇止め法理の類推適用の可否(否定例)

1.非正規公務員の雇止め 有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と同視できるようになっていたり、契約が更新されることについて合理的な期待が認められたりする場合、使用者が労働者からの契約更新の申込みを拒絶するには、客観的合理的理…

高体連(高等学校体育連盟)主催の安全講習会への引率・参加・他校生への訓練が「公務」とされた例

1.部活動の位置づけ 現行法上、公立学校教員の部活動顧問に関連する業務が「公務」といえるのかは、あまり明確ではありません。このことは、 労働時間をどのようにカウントするのか(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項…

査定がなくても最低額以上の賞与を請求できた例

1.解雇無効の場合の賞与の取扱い 解雇の効力を争って労働契約上の権利を有する地位の確認を求める事件では、解雇が無効であることを前提に、未払賃金を請求するのが通例です。しかし、これに加えて賞与を請求することは、あまりありません。これは、就業規…

懲戒にあたり、弁明の機会・手続保障の利益を放棄させることはできるのか?

1.懲戒の手続違反 懲戒解雇の効力を議論するにあたり、手続違反が問題にされることがあります。 この論点に関しては「就業規則や労働協約上、懲戒解雇に先立ち、賞罰委員会への付議、組合との協議ないし労働者の弁明の機会付与が要求されているときは、こ…

重大な詐欺か軽微な詐欺か-懲戒免職処分の効力が否定された例

1.公務員への懲戒処分が違法かどうかはどのように判断されるのか 公務員に対し、懲戒事由がある場合に、 懲戒処分を行うかどうか、 懲戒処分を行うとして、どのような処分を選択するのか、 は懲戒権者の裁量に委ねられていると理解されています(最三小判…

PTSDの主張は容易には認められない

1.PTSDに罹患したという主張 PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)とは、 「死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不…

メッセージへの反応・食事に誘った時の反応からみるセクハラのサイン

1.メッセージを送ったり、食事に誘ったりしたい 「セクハラかどうかの境目が分からない。」という相談を受けることがあります。 仕事をするうえで性的な言動をする必要性がある場面は、あまり想定できません。そのため、分からなければ性的な言動を一切と…

上司には同僚の問題行動を報告してきた部下を報復から守る責任があるか?

1.問題行動の報告と報復 上司として部下を持つと、部下から同僚の問題行動について報告を受けることがあると思います。このように同僚の問題行動を報告してくる部下は、部下達の間で冷たい目で見られがちです。それは、時として、いじめや嫌がらせに発展す…

「誰にも言わない」と言って部下から聞いた事実を漏らした上司の責任

1.内々の相談 会社に勤めて一定の年次になると、部下や後輩から相談を持ち掛けられるようになります。この時、誰にも言わないでくれと頼まれて相談を受けたり、逆に、誰にも言わないと約束したうえで情報を得たりすることは、少なくないのではないかと思い…

早出残業の立証に備えるには

1.早出残業の認定は厳しい 始業時刻前に出勤して働くことを「早出残業」といいます。このブログでも何度か触れてきましたが、早出残業を労働時間としてカウントしてもらうことは、必ずしも容易ではありません。 例えば、タイムカードで労働時間が記録され…

服務規律違反を理由とする普通解雇と弁明の機会付与

1.弁明の機会付与の位置付け 懲戒解雇は、企業秩序の違反に対して使用者によって課せられる一種の制裁罰として、使用者が有する懲戒権の発動によりり行われるものであり、普通解雇とは有効要件が異なっています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働菅家訴訟…

変形労働時間制が無効とされた場合の残業代計算-休日の認定はどうするか?

1.1か月単位の変形労働時間制 1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週…

1か月単位の変形労働時間制が無効とされるパターン-勤務割の作成手続・周知方法等の欠缺

1.1か月単位の変形労働時間制 1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週…

「休憩時間」が労働時間であるとされた例

1.労働時間か否かは「客観的」に定まる。 労働時間とは、 「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるも…

ハラスメントの被害者は、加害者に懲戒処分をすることを使用者に請求する権利を有するか?

1.ハラスメント被害者が求めること ハラスメント被害を受けた方からの相談に応じていると、加害者に対して然るべき懲戒処分を行うように勤務先に請求して行くことができないかと質問を受けることがあります。 確かに、ハラスメントが確認できた場合、事業…

迎合に関する経験則-ハラスメントの被害者は、加害者との接触を容認する発言を取り消せるか?

1.被害者と行為者を引き離すための配置転換 ハラスメント事案が発生した場合に、使用者が検討すべき措置の一つに、被害者と行為者の引き離しがあります。 例えば、 令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とし…

ハラスメントの加害者を他部署に配転させる義務

1.加害者を他部署に配転して欲しい ハラスメントの被害者の方から、加害者を他部署に配転するよう勤務先に要求することができないかと相談を受けることがあります。 被害を受けた方にとって、加害者と顔を合わせることが苦痛であるのは、察するに難くあり…

仮眠時間の労働時間性-実際に起こされていたか?

1.仮眠時間の労働時間性 仮眠時間の労働時間性について、最一小判平14.2.28労働判例822-5大星ビル管理事件は、 「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当…

残業代請求-労働時間管理がなされるようになった後の実績値に基づく推認

1.労働時間立証の方法 使用者にはタイムカードによる記録等の客観的方法で労働時間を管理する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3、労働安全衛生規則52条の7の3、 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |…

長時間労働-体調不良の訴え等がなくても安全配慮義務違反を問えるのか?

1.長時間労働による健康被害 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 と規定しています。これは、いわゆる安全配慮義務と呼ばれているもの…

労働局へのあっせん手続の申請にあたり、誤った事実を主張したことは解雇理由を構成するか?

1.労働局へのあっせん手続の申請と不利益取扱いの禁止 都道府県労働局では「労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争」(個別労働関係紛争)を解決するため、「あっせん」という手続を用意しています。これは「個別…

他の従業員から出された退職を求める嘆願書を示し、席を離れた場所に移動させると告げての退職勧奨の適法性

1.退職勧奨の限界 退職勧奨を行うことは、基本的に自由であるとされています。ただ、「社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為が行われた場合には、労働者は使用者に対し不法行為として損害賠償を請求することができる」とされて…

職場による警察への協力要請に消極的な意見を表明したことは解雇理由理由になるのか?

1.不正調査への不協力の許容性 労働事件の特性の一つに、似たようなテーマの問題であっても、異なった方向の裁判例が散在していることがあります。 それは、会社によって行われる不正調査に非協力的な態度をとることが許されるのかというテーマでも例外で…

契約の打診を退職予定の職場に繋がなかったことは労働者の義務違反か?

1.退職する労働者への悪感情 労働事件に関する相談を受けていると、退職にまつわるトラブルに触れることがあります。退職にまつわるトラブルには、①勤務先から引きとどめられて辞めさせてくれないという類型と、②勤務先から損害賠償請求や不利益処分が行わ…