弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

変形労働時間制が無効とされた場合の残業代計算-休日の認定はどうするか?

1.1か月単位の変形労働時間制

 1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが可能になる制度をいいます。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-2.pdf

 法文上の根拠は、労働基準法32条の2にあり、同条は、

 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。」

と規定しています。

 この仕組みを採用するにあたっては、「変形期間における各日、各週の労働時間」を、就業規則その他により「具体的に定めることを要」するとされています(昭和63・1・1基発第1号)。労働日や労働時間が個々の日毎に設定される結果、変形労働時間制のもとでは、休日が、ある週では土曜日と日曜日に、別の週では水曜日と木曜日に、また別の週では金曜日だけといったように、不規則に散在することがあります。

 変形労働時間制が有効である限り、休日が不規則でも大した問題にはなりません。しかし、休日が不規則に散在していると、変形労働時間制が無効とされた時に、残業代(時間外勤務手当等)をどうやって計算するのかといった悩みが生じることになります。

 例えば、単純なところでは、法定休日の問題があります。法定休日に労働させると割増率は3割5分になりますが、法定外休日だと割増率は2割5分に留まります(労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令参照)。休日が不規則に変動していると、何時を法定休日と認定すればよいのかという問題が発生します。例えば、金曜日だけが休日として指定されていた場合、金曜日を法定休日と扱うのか、金曜日を法定外休日としたうえで日曜日を法定休日として扱うのかで、日曜日の労働の割増率が変わってきます。

 それでは、変形労働時間制が無効とされた場合、残業代(時間外勤務手当等)を計算するにあたり、休日はどのように認定されるのでしょうか? 一昨日、昨日とご紹介させて頂いている、福井地判令3.3.10労働判例ジャーナルNo.112-54 オーイング事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判示を残しています。

2.オーイング事件

 本件で被告になったのは、警備保障業務等を主な目的とする株式会社です。本件当時、原子力発電所である高浜発電所の警備を行っていました。

 原告になったのは、被告との間で警備業務職として雇用契約を締結した方々です。本件当時、高浜発電所において、周辺呼出警察隊の警備員として勤務していました。被告では勤務ダイヤ制・勤務シフト制のもとでの1か月単位の変形労働時間制が採用されていたところ、これが違法無効であるとして、時間外勤務手当等を請求する訴えを提起したのが本件です。

 被告の就業規則には、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められていなかっため、裁判所は、変形労働時間制を無効だと判断しました。そのうえで、休日について、次のような考え方を示しました。

(裁判所の判断)

「なお、現業部門における休日の定めが就業規則35条〔2〕にあるが、法定の要件を満たさず、変形週休制は採用できない。そして、被告の就業規則から現業部門の休日については、その定め及び参考となる定めがない以上、社会において、週休2日制で、日曜日を法定休日とし、土曜日を法定外休日とすることが多いことから、原告らと被告との間には、日曜日をもって法定休日とし、土曜日をもって法定外休日とする黙示の定めがあったものと解するのが相当である。

3.「黙示の定め」方式での休日の認定

 上述のとおり、裁判所は、日曜日を法定休日とし、土曜日を法定外休日とする「黙示の定め」なるものがあったと認定しました。

 変形労働時間制を有効だと思っている使用者が、そのような定めを意識するとは考えられにくいように思われます。しかし、現実問題、残業代(時間外勤務手当等)を計算するためには法定休日・法定外休日を認定する必要があります。そうした必要から生じた擬制的な構成が、この日曜日を法定休日とし、土曜日を法定外休日とする手法なのだと思われます。

 理屈から素直に導かれる判断ではないため、この判示部分も、記憶しておいて損はないように思われます。