弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

「休憩時間」が労働時間であるとされた例

1.労働時間か否かは「客観的」に定まる。

 労働時間とは、

「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」

と理解されています(最一小判平12.3.9労働判例778-11三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件等参照)。

 ここでいう「客観的に定まる」ということの意味は、後段にも書かれているとおり、労使間の合意で主観的に「労働時間ではない」と合意していたとしても、そんなものは何の意味もないということです。つまり、労使間で特定の時間を「休憩時間」として合意していたとしても、その時間に労働者が客観的に使用者の指揮命令下に置かれていたといえるのであれば、「休憩時間」は労働時間としてカウントされます。

 そのため、時間外勤務手当等(残業代)を請求する場面では、しばしば「休憩時間」の労働時間性が争われています。比較的ありがちな事例としては、休憩時間中の来客当番を挙げることができます。休憩事案中に来客当番として待機させれば、それは労働時間としてカウントされることになります(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕164頁参照)。

 近時公刊された判例集にも、「休憩時間」を労働時間であると判示した裁判例が掲載されていました。福井地判令3.3.10労働判例ジャーナルNo.112-54 オーイング事件です。

2.オーイング事件

 本件で被告になったのは、警備保障業務等を主な目的とする株式会社です。本件当時、原子力発電所である高浜発電所の警備を行っていました。

 原告になったのは、被告との間で警備業務職として雇用契約を締結した方々です。本件当時、高浜発電所において、周辺呼出警察隊の警備員として勤務していました。原告らが従事していた職務は、次のとおり認定されています。

「原告らは、周辺・呼出警備隊に警備員として所属していた。周辺・呼出警備隊の業務の内容としては、呼出業務、周辺巡回業務等がある。呼出業務は、構内で作業を行っている各種企業からの要請や連絡を受けた場合に、人物や車両等の入門許可書等を確認しながら構内要所のゲートを開閉する業務であり、各種企業からの要請時間は、事前に決定しておらず、必要に応じ、PHSを介して企業からの連絡を受けた場合に、その都度対応していた。周辺巡回業務は、1周を約2時間で巡視して、1周後に、呼出業務が多忙な場合は呼出業務の応援等を行っており、呼出業務が重なり、呼出警備員だけでは対応できないときは、呼出業務の人員以外の者がゲートの開閉業務に当たることもあった。また、不審者等を見張る1人配置の場所もあった。」

 本件の原告らは複数の論点を提示しましたが、その中の一つに、休憩時間中の賃金を支払えというものがありました。より具体的に言うと、原告らは、

「被告において日勤の昼の休憩時間は1時間とされていたところ、原告らのいずれも、時間をずらして15分程度、食事を取ることは認められていたが、その余の45分間は発電所構内からの外出はできず、待機場所である詰所に常駐して待機するよう指示されており、休憩時間であっても、業務命令が出ればそれに従わなければならず、業務命令に対応するためにPHSを携帯させられていた。なお、休憩時間中に業務命令が出た場合に埋め合わせの休憩は与えられなかった。」

「休憩時間中の対応の頻度としては、各業者から呼び出されたときの対応がほぼ毎日あり、事前に連絡のない来訪者への対応も平均して週に1回程度はあった。突発的業務が入った場合には昼食が食べられないことも珍しくなく、概ね1か月に一度程度はあった。」

「また、夜勤時においても、昼と同様に、常にPHSを携帯し、緊急時には対応が求められていた。」

「したがって、日勤夜勤の各1時間の休憩時間は、実質的には存在せず、休憩時間といえども被告の指揮監督下に置かれていたのであるから、休憩時間とされている時間も労働時間にあたるというべきである。」

と主張し、休憩時間分の賃金を支払えと請求しました。

 これに対し、被告は、

「突発的な業務が休憩中に発生しても、適宜、『休憩グループ』と『待機グループ』のローテーションで昼休憩がとれる体制になっており、待機が命じられてはいない。」

などと主張し、休憩時間の労働時間性を争いました。被告の主張を裏付けるものとして、本件では次のようなローテーション表があったとされています。

「専任隊長室の掲示板には、高浜発電所警備の1日のタイムスケジュールという表題の紙(以下『ローテーション表』という。)が貼られていた。このローテーション表には、周辺警備の者について、日勤と夜勤それぞれにおいてA、B、Cグループがあり、日勤については、午前11時、午後0時、午後1時から1時間ずつ休憩をグループ毎に分けて取得することが記載されていた。また、それらの休憩時間以外にも、各グループ30分の休憩を2回取得することが記載されていた。夜勤についても同様に、各グループ1時間の休憩を分けて取得するとともに、30分の休憩を2回に分けて取得するということが記載されていた。」

 しかし、裁判所は、昼休憩の実体を、

「警備員が昼食を取る時間については、その日の日勤夜勤における専任隊長の部下の隊長が、業務の繁忙度等を考えて、警備員に指示していた。」

「原告らには、午前11時から午後1時頃の昼の休憩時間とされている60分間において、昼食を取るための時間が約15分程度、長くて30分程度があり、その間は弁当を食べたり食堂や売店に行くこともできたが、それ以外の時間は、トイレに行くことや喫煙する以外は、基本的に詰所で待機していた。詰所での待機時間においては、本を読んだり、原告らの個人の携帯電話を使ったり、雑談等をしていた。ただ、原告毎に頻度は異なるが、待機時間中に、昼食を食べていない者との業務の交代(ほかの配置の者との交代、1人しか配置されていない場所の者との交代等)をしたり、被告から貸与されたPHSに連絡が来て、ゲートの開閉や不審車両の確認等を行うこともあった。全員に必要な休憩時間を確保するために、PHSに連絡してよい従業員と連絡しない従業員を分けるなどのルールはなかった。そして、昼食を食べていない者等の交代をし終えた後は、午後1時を過ぎることが多く、高浜発電所に出入りする業者も午後1時から業務を開始するので、代替の休憩時間を取ることができないこともあった。また、原告によっては、昼食を取っている最中に、ゲート開閉等の業務に駆り出されることがあった。」

と認定したうえ、次のとおり述べて、休憩時間の労働時間性を認めました。

(裁判所の判断)

・昼の60分間の休憩時間について

「前記認定事実・・・によれば、被告作成に係るローテーション表は存在していたが、原告らが、昼食を取った後の時間において、全員の昼食を取る時間を確保するために、他の警備員と交代していたことも少なくなく、他の者の昼食のため交代した後は、午後1時を過ぎることが多く、代替の休憩が取れない場合もあったこと、一定の時間帯において、PHSに連絡してよい従業員とそうでない従業員を分けておらず、食事中にPHSに連絡が入りゲートの開閉等の業務に当たる従業員もいて、昼食を取れない場合もあったことが認められる。また、各警備員の指揮・監督等をしているa専任隊長が、自分の部屋に貼られているローテーション表どおりに、各警備員が休憩時間を取っているかを把握していないこと・・・からすれば、昼の60分の休憩を確保するという意味においてローテーションは機能していなかったといえる。

そうすると、原告らは、昼の60分の休憩時間全体において、ゲートの開閉等の業務について、直ちに対応することが義務付けられており、労働からの解放が保障されているとはいえず、原告らは、被告の指揮命令下に置かれていたといえる。したがって、昼の60分の休憩時間とされた時間は、労基法上の労働時間に該当するものと認めるのが相当である。

「これに対し、被告は、適宜ローテーションにより、交代で実質1時間の昼休憩をとれる体制になっていたのであって、昼の60分間の休憩時間は労働時間に該当しないと主張している(なお、原告は、被告の休憩時間における具体的な事実の主張について、時機に後れた攻撃防御方法として民訴法157条1項に基づき却下されるべきである旨主張するが、上記主張により訴訟の完結を遅延させたと認めることはできないから、同主張は採用しない。)。」

「しかし、上記のとおり、形式的にはローテーション表を備えていたとしても、ローテーションが機能せず、実質的に休憩時間が確保できるような体制が整っていなかったものである以上、同主張は採用できない。」

・夜勤の60分間の休憩時間について

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告らは夜勤時においてもPHSを携帯していたことが認められる。」

「これに加え、上記検討のとおり、昼の60分間の休憩時間についてローテーションが機能していなかったことからすれば、夜勤の60分間の休憩時間についても、ローテーションが機能していなかったことが推認され、それに反する事情がないことからすると、夜勤の60分間の休憩時間において、原告らは、労働からの解放が保障されているとはいえず、原告らは被告の指揮命令下に置かれていたといえる。したがって、日勤の昼の60分の休憩時間のほか、夜勤の60分の休憩時間についても、労基法上の労働時間に該当すると認めるのが相当である。」

3.休憩時間の労働時間性

 休憩時間の労働時間性は、個人的な実務経験の範囲内で言うと、割と良く争点になります。なしくずし的に、休み時間中の断続的な来客対応をやってしまっていて、これを労働者が黙認・放置してしまう場合が多いからであるように思われます。

 事業者の中には、こうした来客対応について、ローテーションで対応するように対策を打っている方も散見されます。

 しかし、機能していなければ、事業者の側でいくらローテーション表を整備していたとしても、休憩時間の労働時間性を否定することはできません。

 ローテーションの機能不全を理由に休憩時間の労働時間性を認定した事案として、本件は同種事案の処理に参考になります。