弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

精神疾患での休職からの復職要件-休職までの間に軽易業務が挟まっている場合の「従前の職務」

1.復職要件 休職した労働者が復職するためには、求償満了時までに「治癒」したことが必要です。ここで問題になる「治癒」とは、従前の職務を通常の程度に行うことができる(労働契約上の債務の本旨に従って労務提供することができる)健康状態に復したこと…

労働審判を申立てる時の留意点-期日出頭するための有給休暇は確保されているか?

1.公民権行使の保障と裁判(審判)期日への出頭の関係 労働基準法7条本文は、 「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。」 と規定…

ストーカー行為等を理由とする諭旨免職処分の有効性-反省の情は決定的要素になるのか?

1.性的不祥事と解雇 セクハラ行為を理由とする懲戒解雇の効力が問題になった代表的な裁判例に、東京地判平21.4.24労働判例987-48Y社(セクハラ・懲戒解雇)事件があります。 この事案では、胸の大きさを話題にするなど日頃から性的な言動を…

残業代請求-不在返送された内容証明郵便に時効の完成猶予効は認められるか?

1.時効の完成猶予効 労働基準法115条は、 「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間・・・行わない場合においては、時効によつて消滅する。」 と規定しています。 この 「賃金の請求権はこれを行使できる時から五年間」とある部分は、労…

労災の認定基準に掲げられていない具体的出来事(精神的不調者への対応)の心理的負荷の評価

1.精神障害の労災認定 精神障害は、 対象疾病であること、 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、 業務以外の心理的負荷及び個体要因により対象疾病を発病したとは認められないこと、 の三要件を満たす場合、…

ホテルのフロント係の不活動時間の労働時間性

1.残業代の金額が跳ね上がる類型 昨日、残業代が跳ね上がる類型として、変形労働時間制の有効要件が崩れた場合をご紹介させて頂きました。これと並んで残業代の金額が伸びる類型に、仮眠時間などの不活動時間に労働時間性が認められる類型があります。 不…

残業代が跳ね上がる類型-ルーズな変形労働時間制

1.変形労働時間制 変形労働時間制という仕組みがあります。これは、簡単に言えば、業務の繁閑に応じて労働時間を配分する制度です。 変形労働時間制のもとでは、法定労働時間(1日8時間、1週間40時間 労働基準法32条参照)を超える所定労働時間を定…

社員・従業員の個人事業主化-自発的に同意してしまったら、それまでか?

1.社員・従業員の個人事業主化 近時、一部企業の間で、社員・従業員を個人事業主化する動きがあります。名実ともに働き方を変えるもので、社員・従業員の納得のもとで進められるのであれば問題ありませんが、こうしたスキームは、往々にして労働基準法ほか…

定年後再雇用-定年退職時の60%を下回る基本給を設定することが労契法旧20条違反とされた例

1.定年後再雇用-同じ仕事をさせながら賃金を下げることが許されるか? 定年後再雇用された方の賃金水準は、多くの場合、定年前よりも低くなります。より軽易なものへと業務内容が変わっているのであれば、このような取扱いも、理解できなくはありません。…

劇団員の労働者性が一歩前進した事例-稽古・出演の時も労働者

1.劇団員の労働者性 昨年の2月、入団契約を結んだ劇団員の労働者性について判示した裁判例を紹介しました(東京地判令元.9.4労働判例ジャーナル95-48 エアースタジオ事件)。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/02/20/010316 エアー…

業務委託契約を利用した脱法的労働者派遣で被派遣者に労働者性が認められた事例

1.労働者派遣法の脱法スキーム 労働者派遣事業は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)によって、業務が適正に行われるように規制されています。 こうした法規制を逃れるための古典的な方法に、業務委…

退職者への行き過ぎた慰留に不法行為該当性が認められた例

1.辞められない会社 一昔前に「辞められない会社」という退職妨害をしてくる使用者の存在が話題になりました。こうした退職妨害行為の横行を受けて、現在では、退職したい労働者向けに、法律事務所が退職代行・退職に向けた交渉代理などのサービスの提供を…

普段あたりさわりのない評価をしていた部下に本音を伝える時の留意点

1.部下や後輩に対する評価 部下や後輩の仕事ぶりを評価することは、難しい業務の一つです。期待した水準に達していなかったとしても、そのことをストレートに伝えることが、必ずしも良い結果に繋がるとは限らないからです。できない点ばかり指摘していては…

妊娠中の解雇を理由とする慰謝料請求

1.違法解雇を理由とする慰謝料請求 違法な解雇により精神的苦痛を受けた労働者は、不法行為に基づいて慰謝料を請求することができます。しかし、実務上は、地位確認・賃金請求が認められれると、それに伴って精神的苦痛も慰謝されるとの理由で、慰謝料請求…

社会保険に加入してもらえなかったことを理由とする慰謝料請求

1.社会保険に加入してもらえない 健康保険法48条は、 「適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない。」 と規定し、労働者を使用す…

報酬が勤務時間と関係なく定められ、兼業が認められている取締役でも、労働者性を主張できる可能性はある

1.労働者性の判断基準 取締役、請負人、業務受託者など、雇用以外の法形式のもとで働いている人がいます。こうした方々の働き方に関わる問題を考えるにあたっては、労働者かどうかが重要な意味を持ちます。労働者性が認められれば、労働基準法や労働契約法…

整理解雇場面での職種限定合意と解雇回避措置の一つとしての他職種への配置転換の可能性

1.解雇回避措置の一つとしての他職種への配置転換の可能性 一般論として、解雇の可否を検討するにあたっては、前もって解雇回避のために相当な措置がとられていたのかどうかが、考慮要素の一つになります。そして、解雇回避のために相当な措置がとられたと…

学部廃止に伴う大学教授の整理解雇-他学部への異動の可否を検討する必要はあるか?

1.整理解雇の解雇回避措置 整理解雇については、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性を中心に、その有効性が検討されています(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕363頁参照)。 解雇…

新型コロナウイルスの流行が賃金仮払いの仮処分に与える影響

1.賃金仮払いの仮処分 解雇された労働者は、その時から収入の途を絶たれます。生活費に余裕のない労働者が解雇の効力を争う方法としては、 労働審判を申立て、短期間での紛争解決を図る、 雇用保険の仮給付を受給する、 他社就労する、 賃金仮払いの仮処分…

性同一性障害の男性の化粧を禁止することは許されるのか?

1.性同一性障害 性同一性障害(Gender Dysphoria/Gender Identity Disorder; GD/GID)とは、性別の自己認知(Gender Identity;心の性)と身体の性(Sex)が一致せずに悩む状態であるとされています。 性同一性障害 | 泌尿器科の病気について | 名古屋大学…

不正行為の調査をするための自宅待機期間中の賃金の支払義務

1.不正行為の調査をするための自宅待機命令 非違行為を犯したことが疑われる従業員に対し、不正調査に支障が生じることを避けるため、懲戒処分を行うまでの間、自宅待機が命じられることがあります。 自宅待機命令の法的性質に関しては二通りの理解があり…

会社から不正行為の調査を受ける時、どのように対応すべきか

1.不正行為の調査への対応のアドバイス 会社から不正行為の調査を受けている労働者の方から、どのように対応すればよいのかと相談を受けることがあります。 不正行為をしていないというのであれば、やっていないということを説明して行くだけなので、比較…

変形労働時間制が無効になった場合の残業代の計算の仕方-1倍の部分の賃金は支払われているといえるか?

1.変形労働時間制 変形労働時間制という仕組みがあります。これは、簡単に言えば、業務の繁閑に応じて労働時間を配分する制度です。 変形労働時間制のもとでは、法定労働時間(1日8時間、1週間40時間 労働基準法32条参照)を超える所定労働時間を定…

解雇事件にみる組織内弁護士(インハウス)の能力や適格性

1.組織内弁護士 組織内弁護士(インハウス)とは、 「官公署又は公私の団体・・・において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士」 をいいます(日本組織内弁護士協会 定款4条1項)。 定款・会規 | 日本組織内弁護…

労災(公務災害)の認定申請の放置への対応(国家賠償よりも行政訴訟)

1.労災認定の標準処理期間 労災の請求を行うと、労基署が調査を行い、労基署長が支給・不支給の決定を行います。請求を行ってから支給・不支給が判断されるまでの標準処理期間は、災害や給付の種類によって1か月から8か月の範囲で定められています(平成…

適性判断のための有期雇用と試用期間

1.試用期間後の本採用拒否に係る規制の潜脱手段としての有期雇用 試用期間の定めが解約留保権付労働契約であると理解される場合、本採用拒否は解雇として理解されます。この場合、試用期間中であったとしても、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認め…

求人票の記載を鵜呑みにしないこと

1.いわゆる求人詐欺の問題 求人票の記載と採用後の実際の労働条件が、相違しているという問題があります。 なぜ、このような問題が生じるのかというと、募集要項等の内容は、直ちに労働契約の内容になるわけではないからです。 一般論として、労働者の採用…

大学教授会への出席・参加に権利性が認められた事例

1.大学教員の特殊性 労働者の中でも、大学教員は、かなり特殊な地位にあります。それは、大学の自治や、学問の自由といった、通常の労働契約にはない価値観を、労働契約の中に読み込んで行く必要があるからです。 そうした特殊性が発露する一場面が、就労…

公務員-懲戒処分を受ける以前の事情聴取段階から弁護士の関与を

1.公務員の懲戒処分の事前手続 以前、公務員の懲戒処分は、行政手続法の適用除外となっているため、どのような事前手続が踏まれれば、手続的な適正さが担保されたことになるのかが明確でないというお話をしました。 公務員の懲戒処分-事情聴取と弁明の機…

公務員は公務外非行の詐欺でも退職金(退職手当)まで吹き飛ぶ

1.公務員の懲戒処分 公金に関する公務員の不正行為に対して、法は極めて厳格な立場をとっています。 国家公務員の場合、公金を横領、窃取、詐取した職員は、基本的に免職になります(「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職―68)(人事院…