弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

整理解雇場面での職種限定合意と解雇回避措置の一つとしての他職種への配置転換の可能性

1.解雇回避措置の一つとしての他職種への配置転換の可能性

 一般論として、解雇の可否を検討するにあたっては、前もって解雇回避のために相当な措置がとられていたのかどうかが、考慮要素の一つになります。そして、解雇回避のために相当な措置がとられたと認められるかどうかを判断するにあたっては、他職種への配置転換の可能性が検討されたのかが、一定の重みを持ってきます。

 しかし、職種限定の合意がある労働者を解雇する場合にも、同様に配置転換の可能性を検討しなければならないかは議論があります。

 例えば、佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、初版、平29〕207頁は、

「高額の給与待遇で労働契約を締結」している「高度専門職に職種限定の合意が成立している場合、当該専門職種としての業務遂行に能力不足が認められると、職種を限定して採用している以上、解雇回避措置の一つとして他職種への配置転換の可能性を検討しなくとも解雇が肯定される余地がある。」

と記述しています。

 このように、能力不足解雇の場合、職種限定の合意があることは、配置転換の可能性を検討しなかったことへの反撃材料として機能します。

 それでは、これが整理解雇の局面であった場合は、どうでしょうか? 整理解雇の場合でも、職種限定の合意があることは、配置転換の可能性を検討しないまま行われた解雇を正当化する事情として機能するのでしょうか?

 昨日紹介した奈良地判令2.7.21労働判例1231-56 学校法人奈良学園事件は、この論点についても、興味深い判断を示しています。

2.学校法人奈良学園事件

 本件は、学部再編に伴って解雇等された複数の大学教員らが、解雇の効力を争い、地位確認等を求めて出訴した事件です。

 被告になったのは、奈良学園大学を設置する学校法人です。

 原告らは、いずれも、同大学のビジネス学部又は情報学部で、教授、准教授、専任講師として勤務していました。しかし、大幅な定員割れによる財政の悪化を打開するため、被告大学の理事会は、ビジネス学部・情報学部を廃止し、人間教育学部・保険医療学部・現代社会学部を新設することなどを決定しました。その過程で過員となった原告らは、被告に解雇等されることになりました。

 被告は解雇の有効性を主張するにあたり、

「原告らは、いずれも大学教員であり、優れて専門的な職業を有する者であるから、職種限定で被告に雇用されていたものというべきであり、他職種・他科目担当への割当ても不可能であるから、本件解雇及び本件雇止めについて整理解雇法理は適用されない。」

という議論を展開しました。能力不足解雇の局面で、職種限定合意が果たしている機能を、整理解雇の場面にも応用しようとしたのだと思われます。

 こうした被告の主張に対し、裁判所は、次のとおり述べて、職種限定合意がある場合にも、整理解雇の局面では、配置転換の可能性が検討されなければならないと判示しました。

(裁判所の判断)

「原告X1ら5名に対する本件解雇は、平成26年度の本件大学ビジネス学部及び情報学部の学生募集の停止により、来年度留年見込みの学生6名程度を除いて両学部の学生が不在となり、原告X1ら5名は過員といわざるを得ないこと、大学教員としての専門性を生かす場が大学内にはなく、被告の財務状況から過員の教員を雇用する余裕がないことから、本件就業規則23条1項6号の規定に該当することを解雇事由とするものである。そうだとすると、本件解雇は、被告の経営上の理由による人員削減のために行われた整理解雇に他ならないから、本件解雇の有効性の判断に当たっては、いわゆる整理解雇法理に従い、①人員削減の必要性、②解雇回避努力を尽くしたか否か、③人選の合理性、④整理解雇手続の相当性を考慮要素として、労契法16条所定の客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かを判断すべきである。」

「また、原告X6ら2名に対する本件雇止めは、本件解雇の解雇事由と同様に、ビジネス学部及び情報学部の学生の大半が平成29年3月末日までに卒業することや被告の逼迫した財政の状況等を理由としていることからすると、本件雇止めについて労契法19条柱書所定の客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かの判断においても、上記の整理解雇法理に関する上記の判断枠組みが妥当するものと解するのが相当である。」

被告は、前記・・・のとおり、原告らはいずれも大学教員であり、優れて専門的な職業を有する者であるから、職種限定で被告に雇用されていたというべきであり、他職種・他科目担当への割当ても不可能であるから、本件解雇及び本件雇止めについて整理解雇法理は適用されない旨主張する。しかしながら、仮に原告らと被告との間の労働契約において職種限定の合意があったとしても、そのことから直ちに本件解雇及び本件雇止めの有効性の判断に当たり、いわゆる整理解雇法理の適用が排除されることになるものではないし、ましてや、上記・・・のとおり、被告は、経営上の人員削減の必要性を理由に本件解雇及び本件雇止めに及んでいるのであるから、その有効性の判断に当たっては整理解雇法理に従うべきものであり、被告の上記主張は採用することができない。

3.能力不足解雇の場面とは異なる

 上述のとおり、裁判所は、職種限定の合意があるからといって、整理解雇法理の適用は排除されないと判示しました。その後、他学部への配属可能性の検討が不十分であったことが問題視され、解雇回避措置の相当性が否定されたことは、昨日の記事で書いたとおりです。

 やはり、労働者に一定の責任があることを前提とする能力不足解雇の場面と、労働者に責任のない整理解雇の場面とを同視することには、無理があるのだと思われます。

 職種限定のある専門職の方でも、整理解雇を避けたい場合、配置転換を求めて使用者と交渉する余地があることは、留意しておいてもよいのだろうと思います。