弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務委託契約を利用した脱法的労働者派遣で被派遣者に労働者性が認められた事例

1.労働者派遣法の脱法スキーム

 労働者派遣事業は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)によって、業務が適正に行われるように規制されています。

 こうした法規制を逃れるための古典的な方法に、業務委託契約利用したスキームがあります。例えば、A社から一定の業務を受託したB社が、その受託業務を個人Cに再委託します。その後、個人CをA社のもとで働かせるといった形がとられます。労働契約を業務委託契約だと言い張る形での脱法手段に、一捻りを加えたものです。

 当然のことながら、業務委託契約の形式を利用したからといって、労働契約が労働契約でなくなることはありません。上記の例で言うと、Cに労働者性が認められる場合、Cは労働者としての地位をB社に対して主張することができます。近時公刊された判例集にも、こうした業務委託契約を利用した労働者派遣の脱法スキームが否定された例が掲載されていました。大阪地判令2.9.4労働判例ジャーナル106-36 サンフィールド事件です。

2.サンフィールド事件

 本件で被告になったのは、竹本油脂株式会社(竹本油脂)から営業行為を受託している合同会社です。

 原告になったのは、被告が受託した竹本油脂の営業行為を行っていた方です。被告との間で「フィールド業務委託契約書」等の書面を取り交わし、被告からの指示を受け、竹本油脂から指揮命令を受けて働いていました。こうした事実関係のもと、被告に対し、労働者として未払賃金等の支払を求めたのが本件です。

 しかし、被告は、これを業務委託契約であるとして、原告が損害賠償を履行するまで、月額基本料(業務委託料)は支払わないと主張しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり判示し、原告の労働者性を認めました。

(裁判所の判断)

「そもそも当該契約が雇用契約に該当するか否かは、形式的な契約の文言や形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断すべきである。」

「これを本件について検討するに、前記認定事実によれば、〔1〕原告に、被告からの具体的な仕事の依頼や業務従事の指示等に対する諾否の自由があったとはいえないこと・・・、〔2〕原告は、業務内容及びその遂行方法について、被告又は被告を通じて竹本油脂から、具体的な指揮命令を受けていたこと・・・、〔3〕原告は、被告の命令、依頼等により、通常予定されている業務以外の業務に従事することがあったこと・・・、〔4〕原告は、被告又は被告を通じて竹本油脂から、勤務場所及び勤務時間の指定及び管理を受けており、労務提供の量及び配分についての裁量はなかったこと・・・、〔5〕原告が原告以外の者に労務の提供を委ねることは予定されていなかったこと・・・が認められ、これらの事実によれば、原告の労務提供の形態は、被告の指揮監督下において労務を提供するというものであったということができる。」

「また、前記認定事実によれば、原告の報酬は、出来高制ではなく、時間を単位ないし基礎として計算され、欠勤した場合は応分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給されるものであったことが認められ・・・、これらの事実によれば、原告の報酬は、被告の指揮監督下で一定時間労務を提供したことの対価であり労務対償性を有していたということができる。」

「加えて、前記認定事実によれば、原告の採用過程は労働者のそれと同じであり・・・、原告は業務に要した経費を負担していないことが認められ・・・、本件全証拠によっても、原告の報酬が他の労働者の報酬と比して高額であるとか、原告が自己の資金と計算で事業を行っているといった事実は認められない。」

「以上によれば、原告は、被告の指揮監督下で労務を提供し、労務の対価として報酬を得ていたものであり、原告と被告は使用従属関係にあるということができるから、本件契約は雇用契約に当たるというべきである。」

「これに対し、被告は、本件契約は業務委託契約であると主張し、本件契約書の表題や本件契約書及び本件覚書には『委託業務』や『委託の対価』といった文言があり・・・、報酬は原告からの請求書に基づいて支払う形態がとられていること・・・が認められる。」

「しかし、上記契約書の表題や文言が、実際の労務提供の形態や報酬の対価と合致せず、実質を伴うものでないことは、既に認定・説示したとおりである。」

「また、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、請求書の書式データは被告が作成したものであり、原告が入力した内容についても被告代表者が了解しない部分については修正を指示されるなど、原告が自由に作成できるものではなかった上、その内容をみても労務対償性を否定するものではないことが認められる。」

「さらに、前記認定事実・・・及び証拠・・・によれば、被告の業務の実態は労働者派遣でありながら、被告は資金繰りが苦しいことを理由に労働者派遣事業の許可を受けていなかったことが認められ、かかる事実によれば、本件契約書等の文言や原告から請求書を提出させて報酬を支払う形態は、被告が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律違反を免れんがため外形を整えたにすぎないとの疑いを払拭できない。」

「したがって、前記認定に反する被告の主張は採用できない。」

3.みなし申込み制度はあるが・・・

 偽装請負(業務委託を含む)には、みなし申込み制度が適用されます。これは、偽装請負の事実が認められる場合、役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなしてしまう仕組みをいいます(労働者派遣法40条の6第1項5号)。

 しかし、みなし申込み制度が適用されるためには、

「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的」

が必要になります。

 この要件の認定のハードルが高いため、みなし申込み制度を利用して派遣先に対して労働契約上の地位を主張することは、それほど容易ではありません。こうした場合に、使用者としての責任を追及しようとすれば、派遣元・業務委託者を対象にすることが考えられます。

 労働契約であることが認められると、残業代の請求ができるようになるなど、業務委託契約にはない様々なメリットが発生します。偽装請負(偽装業務委託)でお悩みの方方がおられましたら、ぜひ、お気軽にご相談ください。