1.職能資格制度
職能資格制度とは、従業員の能力の程度に応じて役職とは異なる「資格」を付与する制度をいいます。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000681930.pdf
ここでいう「職能」とは、技能経験の蓄積の結果としての職務遂行能力を意味し、通常、減少する性格のものではありません。また、また、職能資格・等級の引下げにより、基本給の減少という不利益が生じることになるため、職能資格を引き下げるにあたっては、労働協約、就業規則上の根拠規定や労働者の同意といった特別の契約上の根拠が必要であると理解されています(亀田康次ほか『詳解 賃金関係法務』〔商事法務、初版、令6〕384頁参照)。
この「根拠」については、実務上、争われることが少なくないのですが、近時公刊された判例集に、役職の退任に伴う職務等級の引下げにあたり、就業規則上の根拠が必要であることが示唆された例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.2.29労働判例ジャーナル150-12 全国共済水産業協同組合連合会事件です。
2.全国共済水産業協同組合連合会事件
本件で被告になったのは、水産業従事者の共済保険の運営を目的とする法人です。
原告になったのは、被告に雇用され、四国事業本部長や、徳島県JF共済推進本部運営委員会(運営委員会)の委員等を務めていた方です。被告から役職を解任されたうえ、懲戒解雇されたことを受け、これらの措置の効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
減給の理由になったのは役職からの解任で、四国事業本部長等の役職からの解任に伴い、原告は資格等級を参事役⇒審議役(N3級)へと引き下げられ、減給されました。
この職能資格の引下げに伴う減給の効力について、裁判所は、次のとおり述べて、これを否定しました。
(裁判所の判断)
「前記・・・で説示したとおり、原告が運営委員を解任されたことについて合理的理由は認められないものの、前記認定事実・・・における被告の業務内容及びJF共済推進本部との関係に照らせば、原告がc支店長を務め続けることは事実上困難であり、本件解任については人事権の行使として一定程度やむを得ない面もあったといえる。」
「しかしながら、証拠・・・によれば、被告の職能資格制度規則において、職能資格の降格は原則として行わず、降格には正当な理由が必要とされていることが認められる。被告代表者gは、役職に付随した職能資格については役職を退任した場合に従前の職能資格に戻る取扱いをしていた旨陳述する・・・が、その旨は就業規則上明記されておらず上記陳述は採用できないし、他に本件解任に伴い原告の職能資格を降格させなければならないといった事情を認めるに足りる証拠はない。とりわけ、本件においては、原告が運営委員を解任されたことについて合理的理由は認められないこと、前記前提事実・・・のとおり、本件減給処分は減給額が大きく原告の不利益も大きいことが認められ、これらに照らせば、原告の職能資格を維持するのが相当であり、上記規則における降格の正当な理由は認められないというべきである。」
「したがって、本件減給処分は無効である。」
3.根拠をめぐる争い
就業規則上の根拠が必要である時、規定の具体性がどこまで要求されるのかという問題があります。本件でも、減給に何の根拠もなかったというわけではなく、職能資格制度規則(おそらく就業規則の一部だと思われます)、
「降格には正当な理由が必要」
との規定が存在したようです。
しかし、裁判所は、役職を退任したため、従前の資格に戻す取扱をしたとの被告の主張や供述に対し、
「その旨は就業規則上明記されておらず・・・」
と述べ、これを排斥しました。「正当な理由」の中に何でもかんでも放り込んでおいて、後は運用でやるという手法を否定したものだと評価できます。
職能資格の引下げに必要な就業規則上の根拠規定の粒度を把握するにあたり、裁判所の判断は、実務上参考になります。