弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

タイムカードや勤務実績報告書に記載されている「休憩時間」について、労働時間であるとされた例

1.タイムカードの威力

 残業代請求にあたり、タイムカードは「機械的正確性があり、成立に使用者が関与していて業務関連性も明白な証拠」として位置付けられています。

 そして「タイムカード・・・等による客観的記録を利用した時間管理がされている場合には、特段の事情のない限り、タイムカード・・・等の打刻時間により、実労働時間を推認するのが裁判例の趨勢である」とされています(以上、佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕169-170頁)。

 つまり、残業代請求訴訟において、タイムカードは決定的とも言える証拠力(証拠価値)を持ちます。これは労働者の側から見ると、

タイムカード通りに始業時刻、終業時刻、休憩時間を認定してはもらえるものの、

タイムカードの打刻前から働いていた、打刻後も働いていた、休憩時間も働いていたという主張は受け入れられにくい、

ということを意味します。

 しかし、近時公刊された判例集に、タイムカードや勤務実績報告書に休憩時間に相当する時間数が記載されていながらも、当該時間も労働時間であると判示された裁判例が掲載されていました。東京地判令3.3.4労働判例1314-99 月光フーズ事件です。

2.月光フーズ事件

 本件は、いわゆる残業代請求訴訟です。

 被告になったのは、広島風お好み焼き等の飲食店等の各種店舗の経営等の事業を行う株式会社です。

 原告になったのは、被告の広島風お好み焼き等を提供する店舗で働いていた方2名です。

 本件には様々な争点がありますが、その中の一つにタイムカードや勤務実績報告書に「休憩時間」として記載されていた時間の労働時間性がありました。

 原告らは、

「各店舗のランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間についても、ランチの片づけ、急な来客や電話の対応、食材などの配送の受領、ディナーの仕込み、買い出しや両替等の業務に従事せざるを得ず、自由に店舗外に出ることができない状態であったから、勤務実績報告書等に休憩時間と記載された時間があっても、これらの時間は客観的に被告の指揮命令下に置かれていた時間であり労働時間である。」

と主張し、「休憩時間」の労働時間性を主張しました。

 こうした主張を受け、裁判所は、次のとおり述べて、「休憩時間」の労働時間性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告の各店舗において、ランチタイムの営業時間は14時まで、ディナータイムの営業時間は17時からとされていた。」

「14時直前に来店した客に対しては、食事が終わるまで接客を続けており、その後片づけを行うなどしており、ランチタイムの客が完全にいなくなるのは、おおむね14時15分ころから14時30分ころであった・・・。」

「また、被告の各店舗においては、17時からのディナー営業に備え、16時20分ころには、鉄板の火入れを行うことが業務として定められていた・・・。」

「さらに、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間に、月に1回程度、全正社員を集めたミーティングが行われることもあった・・・。」

「原告X1は、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間帯に、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、不足食材の買い出し、予約の受付、営業時間の問合せ及び他社とのやり取り等の電話対応、シフト表の作成、業者との打ち合わせ等の業務を行っていた。特に、出勤した日は毎日、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、電話対応を行っていた。食事をとる際は店舗のバックヤードに置かれている電話のすぐ横で食事しており、待機していているような状況であった。同時間帯はアルバイトは退勤となり、勤務するアルバイトがいないため、正社員が対応していたが、荻窪店で全社員ミーティングがある際は、高田馬場店ではアルバイトが電話対応等の業務を行っていた。」

「原告X2は、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間の時間帯も、ランチの片づけ、おつりを用意するための銀行での両替、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、不足食材の買い出し、予約の受付や営業時間の問合せ及び他社とのやり取り等の電話対応等の業務を行っていた。特に、出勤した日は毎日、ランチの片づけ、ディナーの仕込み、配送される食材の受け取り、電話対応を行っていた。同時間帯はアルバイトは退勤となり、勤務するアルバイトがいないため、正社員が対応していた。原告X2は昼食の際に店舗外へ出ることもなかった。」

(中略)

「労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、同労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」

「本件においては、前記認定事実・・・のとおり、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間においても、原告らが業務に当たっており、業務以外の理由で店舗を離れることはできなかったことからすると、当該時間は原告らが被告の指揮命令下にあった時間帯というべきであり、労働時間に該当すると解するのが相当である。」

なお、原告らのタイムカードや勤務実績報告書には休憩時間に相当する時間数が記載されており、被告代表者本人は4時から17時までのうち2時間半は休憩を取得することができたはずである旨述べているが、被告代表者本人は、この時間帯に残っているランチ客への対応、ランチの片づけ、ディナーの仕込み、仕入れの配達、電話への対応、ディナー前の火入れ等の業務が発生すること、全社員のミーティングが行われることもあることを認めており・・・、この時間帯に社員が業務命令の指揮下にない状態となるようなんらか対応を行っていたといった事情も見当たらない。また、原告X1が、被告代表者の怒りを買わないように、実際には休憩を取得していなくても休憩時間を記載していた旨述べていること・・・等からすると、本件においては原告らのタイムカード及び勤務実績報告書の記載に基づいて休憩時間を認定することは相当でないと考えられる。また、原告X1の本件荻窪店の開店準備期間及び中国出張期間についても、具体的に一定時間まとまった休憩時間を取得することができたと認めるに足りる証拠はないから、休憩時間を取得していないものとするのが相当である。

3.休憩時間中にも業務が発生していた現実を突き付けられるか?

 本件で「休憩時間」に労働時間性が認められたのは、「休憩時間」にも業務が発生していたという現実を突きつけることができ、それを被告代表者も認めていた(認めざるを得なかった)ことが効いたのではないかと思います。

 休憩時間が実際には取れていなかったという主張をすることは、実務上、少なくないのですが、裁判所の判断は、「休憩時間」の労働時間性を立証方針を考えるにあたり、参考になります。