弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の懲戒処分-公金の「詐取」に限定解釈が加えられた事案

1.公務員の懲戒処分(詐取、諸給与の違法支払・不適正受給)

 平成12年3月31日職職―68「懲戒処分の指針について」は、国家公務員の懲戒処分の処分量定を定めています。

懲戒処分の指針について

 非違行為毎に標準的な処分量定を対応させたものですが、これによると、

・ 詐取

 人を欺いて公金又は官物を交付させた職員は、免職とする

・諸給与の違法支払・不適正受給

 故意に法令に違反して諸給与を不正に支給した職員及び故意に届出を怠り、又は虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した職員は、減給又は戒告とする

とされています。「懲戒処分の指針について」は多くの地方公共団体でも採用されており、地方公共団体の名を冠した形で、地方公務員の懲戒処分にも活用されています。

 ここで一つ問題があります。

 「詐取」と「故意に・・・虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した」こととはどのように区別されるのでしょうか?

 故意に虚偽の届出をして諸給与を不正に受給するというのは、素朴な感覚からすると「詐取」そのものであるようにも見えます。

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。水戸地判令6.11.22労働判例ジャーナル158-40 さしま環境整理管理事務組合事件です。

2.さしま環境整理管理事務組合事件

 本件は扶養手当を不正受給していたことを理由に懲戒免職処分を受けた原告が、その取消を求め、さしま環境整理管理事務組合(特別地方公共団体)を訴えた事件です。

 本件で問題となった懲戒処分の基準も、国家公務員の「懲戒処分の指針について」と同じく、

〔1〕「人を欺いて公金又は公物を交付させた職員は、免職とする。」(詐取)、

〔2〕「故意に法令に違反して諸給与を不正に支給した職員及び故意に届出を怠り、又は虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した職員は、減給又は戒告とする。」(諸給与の違法支払・不適正受給)

と規定していました。

 被告事務組合側は原告の行為を「詐取」にあたるとして懲戒免職処分を選択したのですが、裁判所は、次のとおり述べて、原告の請求を認めました。

(裁判所の判断)

「原告が実質的に要件を欠いて受給した扶養手当の額は62万4325円であり、高額とまではいえない。そして、前記のとおり、要件を欠く扶養手当の受給につき、原告には確定的な故意までは認められず、未必的な故意が認められるにとどまる。その他、原告が従事していた職務内容に照らし、原告の行為により、被告の公務の遂行に重大な支障が生じたとか、公務に対する住民の信頼が損なわれたとの事情もうかがわれない。」

また、本件処分基準は、

〔1〕人を欺いて公金を交付させた詐取の事案と、

〔2〕故意に届出を怠り、又は虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した事案とについて、

前者〔1〕を免職とし、後者〔2〕を減給又は戒告とする旨、それぞれ処分を異にする旨定めていること・・・からすると、本件処分基準の定める詐取とは、諸給与の不正受給に関しては、故意に届出をしないあるいは虚偽の届出をして諸給与を不正に受給する行為のうち、その経緯や態様において特に悪質なものを指すと解される。

「そして、上記のとおり、原告には、要件を欠く扶養手当の受給につき未必的な故意が認められるにとどまるのであるから、原告による要件を欠く扶養手当の受給は、その経緯及び態様において特に悪質なものであるとまではいえない。そうすると、本件処分の理由となった原告の行為は、本件処分基準における『人を欺いて公金(中略)を交付させ』る詐取に当たるとはいえず、『故意に届出を怠り、又は虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給』する行為に当たり、本件処分基準によれば、その処分量定は減給又は戒告となるが、本件につき、かかる基準を超えて免職処分を相当とするべき格別の事情はうかがわれない。」

「以上によれば、本件処分は、原告のした行為に比して重きに失し、社会観念上著しく妥当を欠くものというべきである。」

「したがって、本件処分は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして、違法であって、取り消されるべきである。」

3.厳罰化の歯止めがかけれた

 全体的な傾向として、公務員の懲戒処分の処分量定は重くなる一方なのですが、本件の裁判所は、未必的な行為が認められるに留まるとして「詐取」類型に該当することを否定し、本件を不適正受給類型に該当すると判示しました。

 裁判所の判断は、過酷な処分に一定の歯止めをかけるものとして、実務上参考になります。