弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

ロボットへのなぞらえ、従業員同士の関係性についての根拠のない憶測発言、従業員への責任の押し付けが不法行為に該当するとされた例

1.パワーハラスメント

 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、パワーハラスメントの類型の一つとして、

精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

を掲げています。

 その該当例として、上記指針は、

①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む

②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと

③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること

を掲げています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

 しかし、具体的にどのような発言が「人格を否定するような言動」等に該当するのかは、それほどよく分かっているわけではありません。ある言動がハラスメントに該当するのか否かの境界線は不明瞭で、訴訟の場でも常に議論の対象となっています。

 近時公刊された判例集に、ハラスメントの外延を知るうえで参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.11.13労働判例ジャーナル158-24 N労務管理事務所事件です。

2.N労務管理事務所事件

 本件で被告になったのは、

労務管理に関する相談等を目的とする株式会社(被告会社)

被告会社の代表取締役であった方(被告P8)、

被告Pの妻で副所長と称されていた方(被告P9)

です。

 原告になったのは、被告会社に雇用されていた方6名です(原告P1~原告P6)。被告P8らからパワーハラスメントを受けたことを理由とする損害賠償等を請求する訴えを提起したのが本件です。

 原告らが構成した不法行為は多数に及びますが、個人的に注目しているのは、次の主張です。

(原告の主張)

・不法行為〔4〕

「被告P8は、令和元年9月下旬頃、原告P3に対し、指示した書類の印刷が遅いとして、『僕が指示したことは常に最優先でやらないとだめだ。印刷するくらいすぐにできるだろ。でれんこんでれんこん(だらだらしているの意)してるんじゃないよ!』と叱責した。また、被告P8は、原告P3をかつて放映されたテレビドラマの『ロボコン』というロボットのキャラクターになぞらえ、全職員の前で、『君はP19だ!言われなければできないのか!』などと罵倒した(以下『不法行為〔4〕』という。)。

・不法行為〔7〕

「被告P8は、令和元年10月頃、朝礼の場で、全職員の前で、『P4とP11(原告P5の旧姓)は本当は仲が悪いんだ。みんな騙されている。P4はP11にコンプレックスを感じ、P11はP4のことを馬鹿にしている。これが本当のことだ。みんな騙されるな。』などと事実無根の不仲説を吹聴した(以下『不法行為〔7〕』という。)。」

・不法行為〔9〕

「被告P8は、令和2年1月31日、原告P3に対し、P12に対する原告P3の社労士・行政書士資格の名義貸しは被告P8の許可を得ずに自ら行った旨、原告P1らは令和元年8月30日のP12を訪問する道中、『我々は退職したほうがよいと思っている、我々が退職したらP8はきっと困ることになるだろう。』と退職について3人で話し合った旨記載された事実に反する報告書を作成するよう強要した(以下『不法行為〔9〕』という。)。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を認めました。

(裁判所の判断)

・不法行為〔4〕

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告P8は、令和元年9月頃、原告P3に対し、〔1〕『印刷もできないのか。』、『僕の言っていることは最優先なんだ、でれんこんでれんこん(だらだらしているの意)するんじゃない。』などと発言し、また、〔2〕テレビドラマのロボットの『ロボコン』というキャラクターになぞらえ、『君はP19だ、言われなければ何もできないのか。』などと発言したことが認められる。

「このうち、〔1〕は、言い方がきつい面はあるものの、原告P3に対し、印刷業務等の進捗を指揮、指導するものであり、業務の適正な範囲を超えたものであるとまでは認められない。しかし、〔2〕は、原告P3をロボットになぞらえ、主体性のない人間であると揶揄するものであり、業務の適正な範囲を超え、原告P3の人格を否定するものといえ、原告P3に対する不法行為を構成する。また、被告P8は、被告会社の代表者として、原告P3の業務に関連して、〔2〕の発言を行ったものであるから、被告会社は、〔2〕の発言について会社法350条の責任を負う。

・不法行為〔7〕

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告P8は、令和元年9月頃、朝礼の場で、全職員の前で、唐突に、『原告P4と原告P5は本当は仲が悪い。』旨、『原告P4は原告P5にコンプレックスを抱いていて、原告P5は原告P4を馬鹿にしている。』旨発言したことが認められる。」

同発言は、従業員同士の関係性について根拠のない憶測を断定的に述べ、原告P4及び原告P5の職場環境を悪化させたものであるから、原告P4及び原告P5に対する不法行為を構成する。また、被告P8は、被告会社の代表者として、朝礼中に同発言を行ったものであるから、被告会社は、同発言について会社法350条の責任を負う。

・不法行為〔9〕

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告P8は、令和2年1月31日、退職前の引継ぎ作業のために出社していた原告P3に対し、原告P1らが令和元年8月30日にP12を訪れた際の出来事について報告書を書くよう指示したこと、これを受けて、原告P3は、報告書を作成し、被告P8に提出したが、被告P8は、原告P3に対し、自分の意に沿う内容になるまで、長期間にわたり、何度も報告書の修正を求めたこと、最終的に作成された報告書には、P12に対する原告P3の社労士、行政書士名義の名義貸しは被告P8の許可を得ずに自ら行ったものである旨、原告P1らはP12を訪問する道中、退職したい、自分達が退職したら、被告P8はきっと困るだろうなどと話し合った旨が記載されていることの各事実が認められる。」

被告P8の上記の行動は、被告P3に対し、長期間にわたり、自分の意に沿う内容の報告書を作成するよう執拗に要求し続けるものであることに加えて、最終的に作成された報告書の内容が、被告P8の関与の下で行われたP12における原告P3の社労士、行政書士名義の名義貸しの責任を原告P3に押し付けるなど(前記前提事実・・・によれば、P12における原告P3の名義貸しが被告P8の関与の下で行われていたことは明らかである。)、原告P3に不利な内容であることに照らせば、被告P8の上記行動は、業務の適正な範囲を超え、原告P3に精神的苦痛を与えるものといえ、原告P3に対する不法行為を構成する。また、被告P8は、被告会社の代表者として、原告P3に対し、業務上の報告を求める中で上記行動に及んだものであるから、被告会社は、被告P8の上記行動について会社法350条の責任を負う。

3.いずれも不法行為の成立が認められた

 漫画やドラマのキャラクターへの比喩、従業員同士の信頼関係を毀損させるような言動、自身が関与した不適切行為の責任の部下への押し付けは、パワーハラスメントに関する法律相談を受けていると、割と目にすることの多い類型です。

 裁判所の判断は、これらが不法行為を構成する可能性を認めたもので、実務上参考になります。