弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

システム開発者・プログラマーの労働者性

1.システム開発者・プログラマーの労働性

 私の所属している第二東京弁護士会では、厚生労働省からの委託を受けて、フリーランス・トラブル110番という相談事業を実施しています。

『フリーランス・トラブル110番』の開始について|第二東京弁護士会

 この相談事業には、私も相談担当者として関与しています。

 相談を担当していると、フリーランス(自営業者)なのか労働者なのかの判断が難しい方からの問い合わせが少なくありません。それは、配送、エステシャン、システムエンジニア等の業種で特に顕著であるように思われます。

 相談を担当するにあたり必要な知見でもあることから、フリーランスの労働者性に関する裁判例の動向を注視していたところ、近時公刊された判例集に、システム開発者・プログラマーの労働者性を否定した裁判例が掲載されていました。東京地判令3.11.11労働判例ジャーナル12-50東京FD事件です。

2.東京FD事件

 本件で被告(控訴人)になったのは、インターネット等の情報通信システムの企画、開発、設計、管理及び運営業務等を目的とする株式会社です。

 原告(被控訴人)になったのは、被告との間で「個別契約」と題する次のような内容の契約を締結した方です(本件契約)。

ア 業務内容

システム開発支援

イ 作業期間

令和2年9月1日から同月30日まで(現場延長の場合,自動更新)

ウ 業務委託内容

単価:45万円/月 30分単位区切り

基準作業時間:160~200時間

160時間未満の場合、2812円/時間を控除する。

200時間超過の場合、2250円/時間を上乗せする。

エ 作業場所

控訴人指定場所

オ 支払条件

毎月末日締め、翌月末日払い

カ 提出物

勤務表、その他控訴人が指定する納品物

 本件契約は3回に渡り自動更新され、原告の方は、令和2年12月までの間、システム開発支援の業務に従事しました。その後、本件契約は雇用契約であると主張し、未払賃金の支払を求める訴えを提起しました。原審がこれを認めたため、被告側から控訴提起されたのが本件です。

 被告(控訴人)は、本件契約は雇用契約ではないから賃金は発生しないとして、賃金債権の発生を争いました。

 この事件で、裁判所は、次のとおり述べて、原告(被控訴人)の労働者性を否定しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人は、当審口頭弁論期日に出頭せず、控訴答弁書その他の準備書面も提出しないから、控訴人の申出により、審理の現状に基づき判決する(民事訴訟法297条、244条)。」

「被控訴人は、本件契約が労働契約であると主張する。」

「しかし、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、

〔1〕被控訴人は、本件契約に基づく業務を行うに当たっては、一人で現場に赴き、専門的知識を有するプログラマーとして、顧客の担当者と協議をしながら、自身の責任において、作業内容やスケジュールを決め、期限までにシステム開発を完成させることが求められていたこと、

〔2〕現場において、被控訴人に対し勤退時間の管理や業務上の指揮命令を行う者は存在しなかったこと、

〔3〕被控訴人が控訴人に対し毎日の作業時間を記載した勤務報告書を提出していたのは、報酬額が作業時間に連動していたためであること、

〔4〕本件契約期間中、控訴人を事業主とする社会保険に加入していなかったこと、

〔5〕控訴人は、従前、被控訴人と雇用契約を締結していたが、被控訴人が平成29年8月1日から従事していたシステム開発支援業務の過程で知った顧客のソースコードやシステム構成情報の一部などを公開WEB領域にアップロードするという漏えい行為に及んだことから、令和2年7月31日、当該雇用契約を解除し、その後、別の顧客との個別案件に限り業務を委託する趣旨で本件契約を締結したことが認められる。」

「以上のような業務遂行上の指揮監督や時間的場所的拘束性の程度等によれば、被控訴人は、控訴人の指揮監督下において労務の提供をする者とはいえないから、本件契約が雇用契約であるとは認められない。」

「したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件賃金請求は理由がない。」

3.被控訴人側欠席判決ではあるが・・・

 本件は被控訴人側が欠席した事案であり、適切に応訴していれば、違った結果になったかも知れません。

 それでも、東京地裁がどのような要素に着目してシステム開発者・プログラマーの労働者性の有無を判断しているのかを推知するうえで参考になります。