弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

欠勤の連絡は会社所定の様式の書面でしなければならないのか?

1.各種届出に関する様式の定め

 欠勤の届出、有給休暇の取得、退職の意思表示など、勤務先に対して一定の連絡をとるにあたり、就業規則等で様式が指定されている場合があります。

 しかし、不動文字で労働者側に好ましくない記載があるなど、何らかの理由で、会社所定の様式の書類を使いたくないことがあります。こうした場合、独自書式で連絡をとることは許されるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり、近時公刊された判例集に、参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した東京地判令2.3.25労働判例ジャーナル103-94 東菱薬品工業事件です。

2.東菱薬品工業事件

 本件で被告になったのは、主にジェネリック医薬品等の開発・製造を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の青梅市内の研究所で、製材設計等に従事していた方です。交通事故に遭ったことに端を発する欠勤期間の一部が無連絡欠勤に該当するなどとして、降格処分(懲戒処分)を受けました。

 確かに、欠勤にあたり、原告の方は、会社所定の様式に従った勤怠届を出してはいませんでした。しかし、電話連絡やSMSメッセージの送信による連絡はしていました。原告は降格処分には理由がないとし、降格処分に伴って減額された手当の支払い等を求めて被告を訴えました。

 こうした事実関係のもと、裁判所は、次の通り述べて、問題の欠勤が無連絡欠勤であることを否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、原告が、

〔1〕被告に対し、平成28年8月29日から同年9月13日まで、欠勤理由や復職見通しを含めて一切連絡せず、16日間の無連絡欠勤をし、

〔2〕その後も、平成29年2月17日までの間、長期欠勤に関する被告の指示に違反して、休職等に関する手続を取らず、同年5月7日まで欠勤を続けたと主張する。」

「就業規則28条は、従業員が、止むを得ず休暇、欠勤、遅刻、早退、外出するときは事前に所定の手続または連絡をすること、同40条は、遅刻、欠勤、早退、休暇等を請求する場合は、事前に所属長に連絡し、所定の届出書を所属長に提出すること、連続7日以上欠勤する場合は、その理由を証する書類を添付することを定めているところ(・・・、原告が、就業規則40条に規定されている欠勤等に関する所定の届出書(勤怠届・・・)を提出しないまま、平成28年8月29日以降、被告から欠勤扱いとされたことが認められる・・・。」

この点、原告は、被告に対し、同年9月15日到着の文書・・・で、具体的な理由の説明はないものの、『8月17日から9月20日まで欠勤で休む』旨の通知をしているところ・・・、同文書が被告に到着する前である同年8月19日から同年9月14日までの間に、原告の携帯電話からP5所長に対するSMSメッセージが5回送信されていること、原告の広島の自宅から青梅研究所の電話番号の上6桁と一致する番号に対し8回架電されていること、原告の広島の自宅から被告本社の電話番号の上6桁と一致する番号に対し1回架電されていること等、原告の主張に沿う客観的証拠が存在すること・・・を踏まえると、原告が上記文書での報告以前にも、P5所長、被告本社及び青梅研究所関係者らに対し、本件事故について一応の報告をしていたことがうかがわれるのであって、被告が主張するように、同年9月14日より前には、原告から欠勤に関する連絡が一切なかったとの事実が十分に立証されているということはできないから、同期間について、少なくとも『無連絡欠勤』であったと評価することはできない。

「そして、同年9月15日到着の文書・・・を送付した後にも、原告が、同月16日に診断書・・・を取得して、同月中旬頃被告に提出したこと・・・、最終的に、欠勤等に関する正式な書式である勤怠届の提出手続が取られていない理由は不明であるものの、原告が、必ずしも十分とはいえないとしても、同年10月以降、欠勤理由について、書面等により具体的な説明をしていたこと・・・、被告が、正式な書面を提出することによる手続がされていないとしながらも、同年11月10日の時点では、同月末までの原告の欠勤について、当面は了承していたとみられること・・・等の事情を考慮すると、少なくとも、被告が原告に対して休職を命じる平成29年2月17日までの間は、これらの実質的な連絡・報告の状況に鑑み、懲戒事由に該当するような、無連絡欠勤や指示違反行為があったとまではいうことができない。

「さらに、平成29年2月17日以降については、被告は原告に対し、休職を命じており・・・、被告の休職命令により原告の労働義務は免除されているのであるから、同日以降について、労働義務が前提となる『欠勤』として扱う根拠はないというべきである。」

「以上によれば、被告の上記主張は採用できず、本件懲戒処分は、前提となる懲戒事由の存在を認めることができないから、その余の点を検討するまでもなく、無効である。」

3.所定の様式の届出がないからといって無連絡にはならない

 本件では正式な書式である勤怠届の提出がないことを認めながら、電話やメッセージ等で一定の連絡がとられていたことを指摘し、無連絡欠勤であったと評価することはできないと判示しました。

 正式な手続がとられていないことを、被告が了承するかのような姿勢をとっていた事実も、結論に影響している可能性はあると思います。それでも、様式違背を理由に無暗に懲戒処分を行うことを否定した点には、なお大きな意味があるように思われます。

 各種届出の様式違背をめぐるトラブルは、個人的な経験の範疇では、意外と良く相談を受けます。本件のような裁判例もあるため、様式違背で揚げ足をとられて釈然としない思いをお抱えの方は、一度、弁護士のもとに懲戒処分の効力を否定できないかを相談してみても良いかも知れません。もちろん、私でご相談をお受けすることも可能です。ご相談をご希望して頂ける方は、お気軽にご連絡ください。