弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

休職からの復職判断に際しての配慮義務

1.復職させてくれない問題

 私傷病休職した方が会社に復職しょうとした時、何だかんだと理由をつけられて復職を拒まれることがあります。

 私傷病の性質にもよりますが、持病を持った方に働いてもらうには相応の配慮が必要になることがありますし、再発により改めて休職されることに伴う負担を考えると、本音のところでは自然退職して欲しいと考えている会社が少なくないからだと思います。

 しかし、傷病を理由に簡単に労働契約上の地位を奪われてしまうような社会は健全とは言い難く、例え私傷病であったとしても、会社は復職しようとする労働者に対して一定の配慮義務を負います。そして、このような配慮義務を履践しないまま、復職を拒否して休職を命じることは、違法性を帯びることがあります。

 近時公刊された判例集にも、労働者に対して復職判断に際しての配慮義務を尽くさないまま行われた復職拒否・休職命令に、違法性が認められた裁判例が掲載されていました。東京地判令2.3.25労働判例ジャーナル103-94 東菱薬品工業事件です。

2.東菱薬品工業事件

 本件で被告になったのは、主にジェネリック医薬品等の開発・製造を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の青梅市内の研究所で、製材設計等に従事していた方です。

 交通事故に遭って欠勤を継続した後、「リハビリが必要であるものの、軽作業であれば就業は可能」などと書かれた診断書を提出し、復職を求めました。

 これに対し、治癒の見込みが立たないとして被告の発した休職命令が、ハラスメントとして慰謝料の発生原因になるのではなかが問題になりました。

 この論点に対し、裁判所は、次のとおり述べて、休職命令に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「原告は正式な休職等の手続を経ておらず、被告としては、便宜的に復職手続(就業規則18条)を準用することとしたところ、復職の要件である治癒とは、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したときを意味するが、復職当初は軽作業に従事させつつ短期間で通常業務に復帰できるような見込みがある場合や、職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結している場合で、その能力、経験、地位、当該会社の規模、業種、当該会社における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができる場合には、労働者による債務の本旨に従った労務の履行の提供がある(最一小判平成10年4月9日最高裁判所裁判集民事188号1頁)ものとして、使用者側にそのような配慮をする義務があると考えられるから、使用者がそのような配慮をしないまま、復職要件を満たさないものとして労働者の復職を拒否することは違法となりうる。

「本件において、原告については、平成29年2月時点では治癒していたとはいえず、被告が指定した医師により、軽作業に従事可能との診断がなされていたところ・・・、原告が欠勤前に従事していた業務のうち、ヘモリンガル舌下錠の物性測定は、打錠用杵臼(1セット約16キログラムの重さのもの)を扱う作業工程等からして・・・、軽作業とはいえず、また、シロドシン錠試作(その類似業務も含む。)や静脈血管叢エキスのアミノ態窒素の定量法の検討についても・・・、なお左上下肢の神経症状が残る原告に従事させる業務としては不適切であるとして、被告が、これらの業務に関しては、原告の遂行可能性がないと判断したことに合理性がないとはいえない。」

「しかし、被告が、原告から診断書の提出を受けた後、具体的な業務内容の検討に際し、原告の体調を確認するなどしておらず、また、産業医に相談することもなく・・・(被告が法定の産業医設置義務を負っていないとしても、本件において、被告が契約先の産業医から従業員の復職に関する助言等を得ることが困難な特段の事情があるとは認められない。)、原告に担当させる業務を上記業務に限定した理由については、十分な検討がなされたことを裏付ける事情はなく、現に、欠勤前に原告が従事していた文書チェック等の業務は存在しており・・・、これらの業務を原告に担当させることができないような事情があったとも認められないから、この点において、原告の復職判断に際しての被告の上記配慮義務は十分に尽くされたものとはいえない。

したがって、原告の復職を認めず、休職命令を行った被告の行為は違法である。

3.碌に検討もせず、形式的に休職を命じることは違法

 上述のとおり、裁判所は、一定の業務に遂行可能性がないと認定したことに合理性がないとはいえないとしながらも、本人に体調を確認したり産業医と相談したりするなどの十分な検討を経ていないとして、会社側の配慮義務違反を認めました。

 診断書に治癒したと書かれていなかったとしても、これ幸いと休職を継続することは許されません。会社は、復職可能性がないかを、真摯に検討する必要があります。

 こうした検討が経られることもなく復職を拒まれた労働者の方は、本件に判示されている配慮義務に基づいて、司法的な救済を求めて行ける可能性があります。

 復職の可否をめぐる事件は難易度の高い紛争類型の一つではありますが、お困りの方がおられましたら、ぜひ、お気軽にご相談頂ければと思います。