弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

高速道路の緊急点検業務従事者の休憩時間に労働時間性が認められた例

1.休憩時間の労働時間性

 残業代を請求する訴訟では、労働者側から休憩時間の労働時間性が主張されることがあります。

 これは、簡単に言うと、

休憩時間とされてはいても、使用者の指揮命令下に置かれていた、

よって、この時間も労働時間としてカウントされ、残業代が払われるべきではないか、

という主張です。

 休憩時間も電話対応を義務付けられていた事務職の方や、休憩時間も何かあった時のための呼び出しに備えていなければならない医療従事者の方などが、こうした主張を行うことがあります。

 この休憩時間の労働時間性について一例を加える事案が、近時公刊された判例集に掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している東京地判令7.7.3労働経済判例速報2603-3 三和エンジニアリング事件です。

2.三和エンジニアリング事件

 本件はいわゆる残業代請求事件です。

 被告になったのは、国内企業、外資系企業への労働者派遣業等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは被告の元従業員です。派遣労働者として派遣され、高速道路の緊急点検業務等に従事していました。

 本件でも休憩時間の労働時間性が争点になりました。

 原告の主張は、次のとおりです。

(原告の主張)

「原告は、休憩時間を含む勤務時間中、事務室で待機し、首都高速道路等で事故が発生した場合には、出動命令を受けて事故現場に出動し、被害状況等の調査を行っていた。出動命令は2勤務日当たり1回程度の割合で発令される上、いつ出動命令が発令されるかは予測することができないため、原告は常に出動命令に備えて待機場所に拘束されていた。したがって、休憩時間中であっても原告が労働から完全に開放されていたとはいえない。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、休憩時間の労働時間性を認めました。

(裁判所の判断)

「本件事務所には総括調査員2名と点検調査員2名が待機しており、各点検調査員は、それぞれ運転手1名と共に点検班(1班及び2班)を構成し、主として首都高速道路の緊急点検業務及び保安規制調査業務に従事していた・・・。原告は、本件事務所における点検調査員として上記業務に従事していた。」

「緊急点検業務とは、首都高速道路で事故等があった場合に現場に出動し、高速道路の調査、点検等を行い、その結果を報告するというものである。」

「首都高速道路で事故等が発生すると、C株式会社の指令室から本件事務所の総括調査員に連絡が入り、総括調査員から原告等の点検調査員に対して出動命令が出され、これに従って点検調査員は速やかに事故等の現場に出動して調査、点検等の業務に就くことになる。」

「令和2年度(令和2年4月から令和3年3月まで)に原告が緊急点検業務に従事した回数は60回以上であり、このうち所定の休憩時間中(日勤の場合は午前12時から午後1時まで、夜勤の場合は午後11時から午後12時まで及び翌午前5時から午前6時まで)に出動したものは4回である。また、上記の休憩時間の前に出動し引き続き休憩時間中も点検業務に従事したものは15回であった。・・・」

「保安規制調査業務とは、首都高速道路で夜間工事が予定されている場合に保安規制が正しく行われているかを確認するというものである。なお、夜間工事については事前に届出がされているため、点検調査員においては出動する日時をある程度事前に予測することが可能であった。」

「令和2年度に原告が保安規制調査業務に従事した回数は60回以上であり、このうち所定の休憩時間中に出動したものは1回、休憩時間の前に出動し引き続き休憩時間中も業務に従事したものは8回であった。・・・」

(中略)

「労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない不活動時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。そして、不活動時間において労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

これを本件についてみると、前記認定事実・・・のとおり、原告は、本件事務所において勤務中、首都高速道路で事故等が発生した場合には休憩時間中であっても出動を命ぜられて緊急点検業務に従事していた。また、休憩時間の前に出動し引き続き休憩時間中も緊急点検業務に従事したこともあった。なお、休憩時間中に保安規制調査業務に従事していたこともあった。

これらの事情を踏まえると、原告は、休憩時間中においても、労働契約に基づく義務として、出動命令に対して直ちに緊急点検業務等に就くことが義務付けられていたといえる。したがって、休憩時間については、全体として、労働からの解放が保障されていたとはいえず、被告の指揮命令下に置かれていたものであり、労基法上の労働時間に当たるというべきである。

これに対し、被告は、休憩時間中に出動した場合も事務所に戻った後に休憩を取ることができており、休憩時間は問題なく確保できていたと主張する。

しかしながら、仮に原告が緊急点検業務等を終えた後の待機時間において事実上の休憩を取ることができていたとしても、その際に再び事故等が発生した場合には再度の出動を命じられていたと考えられるから、上記の待機時間についても労働からの解放が保障されていたとはいえず、これが労基法上の労働時間に当たることは変わりない。また、休憩時間中の点検業務が終業時刻の間際まで続いた場合には、事実上の休憩に充てるための時間もなかったことになる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

3.休憩時間のスライドも否定された

 一般的な傾向として、休憩時間においても緊張を強いられている場合、休憩時間の労働時間性は認められやすい傾向にあります。高速道路の緊急点検業務もそうした業務であるといえ、休憩時間の労働時間性が認められたことも頷けます。

 ただ、休憩時間の労働時間性が認められたこともさることながら、本件で特徴的だと思ったのは、休憩時間中に出勤した場合には事務所に戻った後に休憩をとっていたという主張が排斥されていることです。事務所に戻って休憩をとっていたところで、事故が発生したら出動しなければならないのであるから、結局、労働から解放されていたとはいえないという論理です。

 休憩時間中に業務が発生した場合、代わりに休憩を与えていたという主張は良く出されます。本裁判例は、そうした使用者側の主張を排斥するにあたり、活用して行くことが考えられます。